版画草子 All That Print Work

自作版画作品と日常の写真を日記形式で紹介してゆきます。
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ドキュメント10.21 その2「大パトロン」

2013-02-04 11:11:15 | その他 Other



10月21日(日)午後1時過ぎ

酒田の本間家と云えば江戸期の豪商中の豪商
現在まで数十代続いている事を考えると 一代で終わった紀国屋文左衛門よりも遥かに大きな商家
そして代々文人・墨客の庇護者であった本間家を継ぐ人物が
私の作品を欲しいと言っているなんて...... 人生判らないものです。

そうこうしている内に その本間氏から
もうすぐ新宿駅から埼京線に乗り換えるとの連絡があり
私も急ぎ大宮へ向かう事にしました。

出かけ間際 相方に今回の経緯(いきさつ)を簡単に話すと

相方
「すごーいっ! 本間家が後ろ盾になってくれたら 万々歳じゃない!
 パトロンねっ 信じられない!
 頑張ってねっ! 今日はお祝いだわ!」


「まっ 取りあえず 行ってくる」



大宮駅中央改札前のコンコース


大宮駅の中央改札口に着いたのは午後2時頃
10~15分程でそれとおぼしき老紳士が黄色の事務封筒片手に現れました。


「あのう...... 本間さんでいらっしゃいますか?」

本間氏
「あっ どうも 私です。 水落先生ですね」


「初めまして 水落啓です。
 今日はどうも.... お忙しいところ ご足労いただきまして ありがとうございます」
「さて どうしましょう......
 今日は日曜でかなり混み合っていますが どこかレストランでも探してみましょうか」

本間氏
「どちらでも かまいませんよ 先生のほうがお詳しいでしょうから」


しかし 天気のいい昼過ぎの大宮はどこも満員
作品を広げられる程のスペースのある店は限られ 
ファミレスあたりでも人が並んでいる状態でした。
焦ってきた私は ふっと思い付いて
「どうでしょうか 大宮から少し離れますが
 上尾まで行きますと すぐ近くにホテルもありますし ここよりは人出も少ないと思います。
 また電車で移動ですが 10分位で行けます......」

本間氏
「先生にお任せします。 この辺りは初めてなので......
 では 行ってみましょうか」

私たちは急遽上尾に向かう事になりました。





本間氏は 私の見たところ いかにも裕福な会社役員の休日の装いといった
目立たないけれど 質のいい紺のブレザーに ノーネクタイのストライプシャツ
細身の体と白髪を短く切り込んだ様子は 快活な現役ビジネスマンを思わせるのに充分でした。
歳は70代前半 物腰にも話し方にも余裕があって 顔立ちも名家に多いと聞く面長
何十代目かの宗家の惣領をこなしてきた雰囲気をそこはかとなく感じました。

上尾までの車中の会話

本間氏
「いやー 先生 突然で申し訳ありませんでしたね。
 どうしても今日中にお会いしたかったものですから。
 明日から神戸へ行く予定でして.....」
「私 長くニューヨークで金融関係の仕事をしているんですが
 仕事関係の友人やお客から 日本の版画が欲しいと よく言われましてね。
 えぇ 向こうでは日本版画がすごく人気なんですよ。
 それで今回 お土産に版画を持って帰ろうと考えていました。
 そうしましたら Kさんの所で偶然先生の版画を見まして
 これはいいっ!と これだ!と 思いましてね」


「いや 恐縮です ありがとうございます」
「ええ Kさんとは結構長いお付き合いをしています」


「ところで.... Kさんから伺ったんですが
 失礼ですが 本間さんはあの酒田の豪商と言われる本間家の方で?」

本間氏
「ええ...... 私は小さい頃 分家に養子に出されましてね
 まぁ...... いろいろありましたが 結局は本家を継いだ訳です。
 本間といっても今ではもう大した事はありません」


「あぁ そうですかぁ
 あの「本間様とは言わないけれど せめてなりたや殿様に」と言われている本間家なんですね すごいですね!」
「で.... 今 日本ではどちらに滞在されているんですか?」

本間氏
「熱海です。あそこは気候もいいですし」


「それじゃぁ 今日は熱海から八王子へ そして大宮まで.....
 いやぁ 申し訳ありません」


多くの executive がそうであるように この本間氏もここぞという時には
労を厭わない行動力の持ち主なろだろうと 私はすっかり納得していました。


つづく











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