版画草子 All That Print Work

自作版画作品と日常の写真を日記形式で紹介してゆきます。
(画像の無断使用は固くお断りします。)

版画家のお友達 歯科医師編(90) Special Column(90)

2013-02-27 16:36:48 | その他 Other


各地で最高積雪量や最低気温の更新が報道されているようですが 今年の寒さは格別ですね。
ニセコの井上君は大丈夫でしょうか?

と云った所で 
札幌のNORIKO先生からは雪祭りや氷祭りの素晴らしい画像を大量に送っていただきました。
それも51枚!
全部お見せするのは無理なので 私の好みで勝手に選んだ写真を2回に渡ってお送りします。

勝手好みその1
雪祭りは各ニュースでもお馴染みですので
中島公園で行なわれた「第7回ゆきあかり」を取り上げてみました。
では どぞ



ゆきあかり。市民ボランティアが行っています。 先生談









来場者に紙コップに絵や願い事を書いてキャンドルを灯してもらったり、ペットボトルのキャンドルシェードだったり、
素人っぽいのですが、柔らかいキャンドルの明かりが、ふっと和みます。







(雪祭り本体はもうアイデアが出尽くした感もあり 海外観光客目当ての下心いっぱいで
 はっきり言って つまらんですな..... 
 でもこの「ゆきあかり」は市民中心の制作で いろいろ工夫する余地もあって 
 この先も楽しめそうなのがいいですね。 kei )


勝手好みその2
すすき野で行なわれた氷祭り
氷像やその出来映えよりも 背景がいかにも「すすき野」らしい 飲み屋街の雰囲気がよく出ている画像を選びました。


氷像製作中 大きなクレーン車で氷ブロックを運んでいます。



最優秀賞 鶴の羽ばたき

(雪のすすき野 ふらふら 飲み歩きたい! kei )





次回も続きます。







ドキュメント10.21 その5「絵描きの仕事」

2013-02-21 11:05:28 | その他 Other


10月21日(日)午後5時前

帰りの電車の10分間で いっきに老けてしまった感じの私は
疲れ切ってようやく我が家へたどり着きました。


「ただいま......」

相方
「お帰りなさい!! どうだった!」


「うん..... 多分..... 十中八九.....     これは詐欺だな.....」

相方
「えっえーーーー 本当! 詐欺って どうゆう事?」


「うん..... 寸借詐欺..... だと思う」

相方
「お金取られたの?」


「うん..... まぁ.... 1万
 丁度養清堂ギャラリーからの支払い分 持っていたから
 それと 作品1点...... 」

相方
「さっき言ってた 口座番号って?」


「今度の木曜に作品20点分160万 振り込まれる事になってはいるんだけど.....
 まず 間違いなく   無いな.....   嘘だと思う」

相方
「でも.... それならまだ決まった訳では ないんじゃない?」


「そう 詐欺と決めつける証拠は 今は無いんだ.....
 だから相手にも 何も言えずに戻ってきた.....」

今日の本間氏との経緯を簡単に説明した私は がっかりした相方を慰める言葉はありませんでした。

相方
「さっき 母に良い知らせがあると電話しようと思ったんだけど
 よかったわ 止めて.....」


「あぁ そりゃぁ良かった......
 んーーー  うかつだった.....
 うまい話しにはウラがあるってことだなぁ  情けない.......
 つい Kさんからの話しなんで 信じてしまった....
 そうそう Kさんもやられたか 電話してみるよ」



私は仕事場へ行ってKさんの自宅に電話してみましたが 留守らしいので 携帯にかけてみました。


「もしもし.... Kさん? 水落です」

Kさん
「あぁ どうも!どうも! どうでした? 沢山売れました?」


「うん.... いや..... あのねKさん 今日 本間さんにお金か何か 貸しました?」

Kさん
「えぇ? いや そんなこと しないですよ 貸しませんよ」


「あっそう 良かった!」

Kさん
「どうかしました?」

電話の向こうは何やら賑やかな音がしています。
もしかすると どこか飲み屋に繰り出して 300万の祝杯をあげているのかもしれません。


「いやね 多分この件は    言いづらいんだけど
 それにまだ決まった訳じゃないんだけど..... 詐欺だと思う......」

Kさん
「まさか! 何言ってるんですかぁ 証拠でもあるんですか!
 いや何か実害があったんですか?」


「うん.... 大した事じゃないけど 本間さんに1万渡したんですよ」

Kさん
「でも それだけじゃ まだ解らないじゃないですか 詐欺と決まった訳じゃないでしょっ
 例えもし 詐欺だったとしてもですよ 解った時点で その1万 私が払いますよ!
 私の責任ですから でも..... 詐欺だなんて!」

Kさんは少し酔っているようで 何度も1万は私が出しますと 繰り返しています。


「いや そう云う事じゃなくて..... Kさんに被害が無ければ いいんです じゃぁ 」
と言って 後味悪く電話を切りました。

頭から信じて祝杯をあげているKさんが驚くのは無理もありません。
純粋なKさんです 私にこれは詐欺だと言われても すぐには納得できないのは当然です。
私に腹を立てているようでもありました.....





そして問題の4日後の木曜日
時間が経つにつれ 私は詐欺であるとの確信が増々強くなっていたので
すぐに確かめに行く気になれず ついでの用事があった土曜に銀行へ行ってみました。
もちろん 入金などありません。
その10日後 Kさんからもやはり 詐欺でした との 沈痛なメールがきました......

私が想像するに かの本間氏 Kさんの質素で禁欲的な生活を見て
彼からは金をせしめるのは無理と判断したのでしょう。
あるいはKさんには まったく「すき」がなかったのかもしれません。
そこで偶然私の版画を見つけ Kさんから話しを聞き出し 標的を私に替えたものと思います。
友人・仲間からの紹介と云う事で 私も何の疑いも無く すぐに信じてしまいました。
人を介して信用させる..... 多分これは詐欺師の常套手段なのでしょう。
そしてかの本間氏 世事に疎く 人のいい美術家連中専門に寸借詐欺を働いていたと思われます。

それにしても Kさんと忠良さんの経緯の件といい
アメリカへの土産用の版画の話 部下へ見せる版画を預かる などなど
良く練った綿密な仕込みを考えたものです。
でも 結局彼は 八王子駅から遠いKさんのアトリエから 大宮・上尾まで足を運んで
この日手に入れたのは 1万円と2万相当の版画(画廊や古物商に持ち込んでも1万以下) 切符650円.....
1日の稼ぎとしては まったく割に合わなかったに違いありません。

よく考え込まれた今回の詐欺ではありますが エセ本間氏は重大なミスをしでかしています。
それは 絵描きの仕事は絵を描くということを忘れていた様です。
それも 映像での記憶が得意と自負する私と 2時間以上も一緒にいたのです。
その上私は 名高い本間宗家の人間とはどんな人なのか 大いに興味もあって
じっくり観察したのですから......

今回の長いドキュメントの最後に 自称本間氏に一矢報いるべく
これが絵描きの仕事というのをお見せします。

そう 本間氏の似顔絵です。

正面


横顔


年齢 70~75歳位
身長 170cm程 痩せ型
髪  白髪で短く刈り込んでいる
日焼けは中程度 メガネは無し
言葉は標準語ですが さ行が微かに潰れる音(しゃ しゅ しょ等)が混じるので
おそらく西日本出身ではないかと思われます。まず北日本ではないでしょう。

もしこの様な人を見かけましたら是非
「本間さんですか?」と 声をかけてみて下さい。
そして
「インターネットであなたの似顔絵が出ていますよ」と 教えてあげて下さい。






長々とお付き合いいただきまして ありがとうございます。

さて 次回はガラッと趣を変えまして
NORIKO先生から送ってもらった 寒くて暖かい ホッコリする写真集をお送りします。









ドキュメント10.21 その4「1万円.....」

2013-02-14 11:06:26 | その他 Other



10月21日(日)午後3時半~4時頃


Kさんの彫刻300万には及ばないものの
版画で シートのみ100万 というのは 久し振りの高額売り上げです。
それも4日後には現金で入るのです。
また この先も本間家との関係がつづけば 作家活動も安定して制作に打ち込めそうです。
実に願っても無いチャンスです。
この突然降ってわいた 絵描き冥利につきる話しに私はかなり舞い上がっていました。

そんな想いを噛み締めながら
私が広げた作品をそろそろ片付け始めていると

本間氏
「先生 喉が渇きましたな どこかでお茶でも飲みましょうか」

と云いながら さかんに上着のポケットを探っています。


「そうでしたね 私も喉が渇きました。
 1階に喫茶店があるようですので そちらに行ってみましょう」

本間氏はなおも上着を脱いで何か探しています。


「本間さん どうかなさいました?」

本間氏
「いやね..... お茶を飲むのに財布をと.......
 どうも..... 財布を無くしたようで......
 新宿からの車内で上着を脱いだ時に 落としたらしい.....」


「えっ それはいけませんね..... カードか何かも 一緒に?」

本間氏
「いや 休日なのでカード類は持ってこなかったんですが
 帰りが困った.......」


「熱海までの......」

本間氏
「えぇ 小銭が少しあればいいんですが.... 弱った......
 先生 申し訳ないが 1万程 お貸し願えませんか
 今度の入金の折に加えて振り込みますから」

困りきった本間氏の表情を見て 私がすぐさま思ったのは
(あぁ 東京から熱海まで グリーン車ならそれ位はかかるかもしれないなぁ)だけでした......
そしてその時は1万少々持ち合わせていたのです。
少し躊躇する気持ちもありましたが

「判りました 丁度1万ありますので 使って下さい」
(4日後には160万..... 1万くらい.....) という気分でした。

本間氏
「いやーー すいませんね 助かります
 良かった良かった これで帰れます
 じぁ お茶でも」


喫茶店「ボナール」

今時珍しい昔風のその喫茶店には 我々の他に客はなく
頼んだオレンジジュースを飲みながら たわいない会話を続けました。

本間氏
「先生 お子さんは?」とか
「先生は煙草はやらないんですか」とか
「私は昨年大腸がんの手術をしまして....」とか

私はこれからの本間一族との関係を深めるためにも ひとつひとつ丁寧に答えていました。

その内 本間氏は突然想い出した様に
「あっ そう そう 帰る前に東京で人に会う約束があった.....
 今日はいろいろあったのですっかり忘れていました
 先生.... 悪いが....... もう少しお借りできませんか」

私はこの瞬間
はたっ!と はたっ!と  血が引いてゆくのを感じました。





(えっ まさか.....  詐欺? これは寸借詐欺?)
私の頭の中は大混乱に陥りました。


「急いで出てきたので もう持ち合わせはありません.....」と 言うのが精一杯

本間氏はかなり残念そうに
「人に会うのをすっかり 忘れていました.....  そう.... ありませんか.....」


「ありません これ以上は何とも.... そちらでなんとか ご都合つけて下さい」

私の気持ちはここへきてどんどん醒めてゆきました。
そう これは詐欺だ! こいつは詐欺師だ!

しかし..... そう思う反面 
今日の出来事のすべてを一挙に否定するのは すぐには出来ませんでした。
目の前のチャンスを逃したくない気分がどうしようもなく残っています。
本当であって欲しい.....

が 
その未練がましく逡巡する自分を意識した途端
間抜けな自分を感じた途端 突然強い怒りが湧いてきました。

私は「もう 引き上げましょう」と 突き放す様に言って 先に立ち 
ジュース代二人分の支払いを済ませ 足早に駅改札へ向かいました。


上尾駅改札口

改札口までは1~2分
その間 目まぐるしく私の頭は回転しつづけます。
Kさん 忠良さん アメリカの銀行家 本間宗家 お土産用の版画 160万 という事柄に完全に洗脳されていたようです。
しかし 本間氏の名刺 手の印象 そして二度の金の無心によって 何とかその呪縛が解かれつつありました。

だが....(あんた これは 詐欺だろう!)と云うには 確たる証拠も無く
また 面と向かって 言い放つ勇気も私にはありません.....

それに もし私の勘違いで これまでの話が本当だとしたら......
詐欺だろう!と 言った途端 
私だけでなく Kさんの300万の件も壊してしまう事にもなりかねません。
まさかと思うと同時に 間違いなくこれは詐欺だという確信も交差して 
いたたまれない感情に 一刻も早くこの場を離れたいと思うだけでした。

桶川までの切符を買って振り向くと
本間氏が小さな小銭入れを開いて うつむいています。
無視もできず

「どうしました?」

本間氏
「東京までの小銭が足りなくて.....」

私は
「さっき 1万 渡しただろう!」 と 大声で叫びそうになりましたが
そこに立っているのは2時間程前 初めて見たときの軽快な本間氏ではなく ただのしょぼくれた爺さんです。
私の態度の急変に 感づかれたと悟ったのかもしれません。
感づかれたにも関わらず なおも哀れっぽく無心する彼を見て 
私の方がどうしようもなく情けない気分になってしまいました。

本間氏を睨みつけ 
私は腹立ち紛れに 東京までの切符650円を買って 彼に渡しました.....

訳の解らない自分の行動に耐えられなくなって 
後も振り返らず 小走りに改札を抜け ホームの階段を駆け降りました。
切符まで買ってやる自分のお人好しと 
ここまで見抜けなかった馬鹿さ加減が入り交じって
自分への怒りを抑えるのがやっとでした。



つづく



ドキュメント10.21 その3「総額160万円」

2013-02-09 10:31:11 | その他 Other


10月21日(日)午後2時半過ぎ

そうこうしている内に我々は上尾駅に着きました。
駅東口すぐそばには ビジネスホテル風の小さな東武ホテルがあって
そこのロビーで作品を見てもらう事になりました。



上尾東武ホテル入り口


さすがに上尾まで来ると人出は少なく 
ホテル内の狭いロビーも閑散として 作品を広げるにはうってつけです。



ホテルのロビー


やっと落ち着いた所で 本間氏と名刺の交換


いただいた名刺




「おやっ」と思う程 古風な名刺です。
私の友人にも何人か外資系企業に勤めている人がいるのですが
彼らから貰う名刺は概してカラフルで小さく スマート もちろん裏には英文入りがほとんどです。
本間氏の名刺は 多分一時的な国内向けとしても 
外資系会社のCEOの名刺としては ちょっと似つかわしくないなと一瞬思いました。
社名もどこかで聞いた事のあるような ないような......
でも そんな事より 
私はまず作品を見てもらうことで頭がいっぱいでしたので 早速作品を広げ始めました。

真っ先に広げて見せたのは自信作でもある「お伽草子シリーズ」
作品を見るなり本間氏は
「おぉーー 素晴らしい!
 色が実にいい! 鮮やかですねぇ!
 これなら 彼らも喜ぶなぁー」

本間氏は次々作品をめくってゆきます。
「これらは おいくらですか?」


「このシリーズ ギャラリー関係には5万で出しています」

本間氏
「えっ そんなに安いんですか
 もっと何十万もするものと思っていました」


「エディションが70部ありますから すべて売れるとそれなりの金額になります」

本間氏
「あぁ 成る程ね」

私は順次「花シリーズ」やら「花火シリーズ」を広げ 本間氏はその度に感心して見ています。
その内お伽草子シリーズを指して
本間氏
「やはり 大きい方がいいなぁ
 このシリーズ 取り混ぜて20点 揃いますか?」


「えっ! 20点..... ええ 何とか揃えます!
 あの..... シートだけですか それとも額裝して?」

本間氏
「そうですね.... 額に入れた方がいいですね 後の手間が省けるので」


「額裝しますと 1点8万位になりますが.....」

本間氏
「えぇ 結構です。 12月の中頃までに揃えて欲しいんですが」


総額160万! 私の頭の中はその金額で 瞬く間にいっぱいになってしまいました。


本間氏
「今週の水曜には全額振り込みますので 口座番号教えてもらえますか」


「そんなに早く! 判りました! 今 家に電話して番号確かめますから」

携帯を取り出す間にも 情けない程160万の数字が頭の中で踊っていました。
それも3・4日後に入るのです!


「もしもし あっ おれ   そう うん そう.....
 それでね 工房ミズヤの普通口座の番号 急いで教えて欲しいんだ うん
 ×××××××××だね 判った
 いや まっ それは帰ってから....... うん じゃ 」

口座番号を聞く事からして 
本間氏との会談は上々の首尾らしいと察した 相方の声は大きく弾んでいました。





私は電話をしながら 向かい側で熱心に作品を見続けている本間氏の手に何気なく目がいきました。
長く金融関係の仕事をしている割には ひどく浅黒い色で 咄嗟にゴルフ焼けか とも思ったのですが
黒いだけでなく 指もかなり節くれ立って 一部皮膚疾患の跡のような荒れもあり
高級事務職とは思えないのが印象的でした。
しかし そんな些末な事など 160万という数字に 直ぐさま掻き消されてしまいましたが.....

本間氏
「先生 どうでしょう 部下達にも先生の作品を見せた方が 金を出しやすいですし 
 いろいろ納得もするので 小さい版画を1点 預からせてもらうというのは」

私はもっともな事だし この際小品1点くらい提供してもかまわないと思いながら
「えぇ もちろん! 結構ですよ どれがいいでしょうか」

本間氏
「この和紙に刷った花火の絵がいいですね  丁度この封筒に入る大きさですので」


「どうぞ どうぞ 
 それと これが口座の番号です」

本間氏
「判りました 消費税を入れると..... 168万ですね
 水曜に振り込むので 木曜には入金されると思います。
 作品はどうしても12月中旬には欲しいので会社へ送って下さい。
 その他の細かい事は また後で打ち合わせしましょう」

私は12月中旬まで2ヶ月近くあるので 作品も額も充分間にあうと算段しながら
「ありがとうございます!
 こんなに沢山買っていただいて......
 いやぁー 本間さんとは本当にいい出会いができまして 感謝いたします」

本間氏
「いやいや お安いもんです。
 こちらこそ 先生とお会いできて良かったです
 これで懸案だったことが今日中に終って ホッとしましたよ」



これが持ち帰った作品「祝祭(2)」

2006年制作 300×210mm ED 70 (未発表作品 価格は¥20,000の予定でした)


つづく 






ドキュメント10.21 その2「大パトロン」

2013-02-04 11:11:15 | その他 Other



10月21日(日)午後1時過ぎ

酒田の本間家と云えば江戸期の豪商中の豪商
現在まで数十代続いている事を考えると 一代で終わった紀国屋文左衛門よりも遥かに大きな商家
そして代々文人・墨客の庇護者であった本間家を継ぐ人物が
私の作品を欲しいと言っているなんて...... 人生判らないものです。

そうこうしている内に その本間氏から
もうすぐ新宿駅から埼京線に乗り換えるとの連絡があり
私も急ぎ大宮へ向かう事にしました。

出かけ間際 相方に今回の経緯(いきさつ)を簡単に話すと

相方
「すごーいっ! 本間家が後ろ盾になってくれたら 万々歳じゃない!
 パトロンねっ 信じられない!
 頑張ってねっ! 今日はお祝いだわ!」


「まっ 取りあえず 行ってくる」



大宮駅中央改札前のコンコース


大宮駅の中央改札口に着いたのは午後2時頃
10~15分程でそれとおぼしき老紳士が黄色の事務封筒片手に現れました。


「あのう...... 本間さんでいらっしゃいますか?」

本間氏
「あっ どうも 私です。 水落先生ですね」


「初めまして 水落啓です。
 今日はどうも.... お忙しいところ ご足労いただきまして ありがとうございます」
「さて どうしましょう......
 今日は日曜でかなり混み合っていますが どこかレストランでも探してみましょうか」

本間氏
「どちらでも かまいませんよ 先生のほうがお詳しいでしょうから」


しかし 天気のいい昼過ぎの大宮はどこも満員
作品を広げられる程のスペースのある店は限られ 
ファミレスあたりでも人が並んでいる状態でした。
焦ってきた私は ふっと思い付いて
「どうでしょうか 大宮から少し離れますが
 上尾まで行きますと すぐ近くにホテルもありますし ここよりは人出も少ないと思います。
 また電車で移動ですが 10分位で行けます......」

本間氏
「先生にお任せします。 この辺りは初めてなので......
 では 行ってみましょうか」

私たちは急遽上尾に向かう事になりました。





本間氏は 私の見たところ いかにも裕福な会社役員の休日の装いといった
目立たないけれど 質のいい紺のブレザーに ノーネクタイのストライプシャツ
細身の体と白髪を短く切り込んだ様子は 快活な現役ビジネスマンを思わせるのに充分でした。
歳は70代前半 物腰にも話し方にも余裕があって 顔立ちも名家に多いと聞く面長
何十代目かの宗家の惣領をこなしてきた雰囲気をそこはかとなく感じました。

上尾までの車中の会話

本間氏
「いやー 先生 突然で申し訳ありませんでしたね。
 どうしても今日中にお会いしたかったものですから。
 明日から神戸へ行く予定でして.....」
「私 長くニューヨークで金融関係の仕事をしているんですが
 仕事関係の友人やお客から 日本の版画が欲しいと よく言われましてね。
 えぇ 向こうでは日本版画がすごく人気なんですよ。
 それで今回 お土産に版画を持って帰ろうと考えていました。
 そうしましたら Kさんの所で偶然先生の版画を見まして
 これはいいっ!と これだ!と 思いましてね」


「いや 恐縮です ありがとうございます」
「ええ Kさんとは結構長いお付き合いをしています」


「ところで.... Kさんから伺ったんですが
 失礼ですが 本間さんはあの酒田の豪商と言われる本間家の方で?」

本間氏
「ええ...... 私は小さい頃 分家に養子に出されましてね
 まぁ...... いろいろありましたが 結局は本家を継いだ訳です。
 本間といっても今ではもう大した事はありません」


「あぁ そうですかぁ
 あの「本間様とは言わないけれど せめてなりたや殿様に」と言われている本間家なんですね すごいですね!」
「で.... 今 日本ではどちらに滞在されているんですか?」

本間氏
「熱海です。あそこは気候もいいですし」


「それじゃぁ 今日は熱海から八王子へ そして大宮まで.....
 いやぁ 申し訳ありません」


多くの executive がそうであるように この本間氏もここぞという時には
労を厭わない行動力の持ち主なろだろうと 私はすっかり納得していました。


つづく