美濃屋商店〈瓶詰の古本日誌〉

呑んだくれの下郎ながら本を読めるというだけでも、古本に感謝せざるを得ない。

幻影夢(20)

2017年11月09日 | 幻影夢

   「ザッと拾い読みしているとさあ、なにがなし神話とか古記、古伝に関連する立項が目につくね。精細な図版の絵柄に引きずられて、そうした印象が残るのかな。小栗虫太郎ばりのペダンチックな香りが匂い立ってこないかい。案外あんたも、ひそかに衒学趣味を温めているとか。」
   「その決め付けは誹謗も同然だぞ。おれに対する中傷じゃないか。ページを埋める図画の類は、たまたまその向きも選ばれたというだけのことよ。ふんだんに挿絵を盛り込んだところに取り得を認めたからこそ、食指の動くまま購書に踏み切ったんだ。」
   「本当かな。唇は胸の内と一心同体じゃない。空念仏がすいすい通り抜ける、調法な門なんだぜ。」
   「蛇足を添えさせてもらうと、日付け的には関東大震災の直前に出版され、未曾有の災厄を被ってほとんど市場に出回らなかった辞書であるはずだ。おれが欲しがったもう一つの理由として、少なからぬ説得力があると納得してくれてもいいだろう。」
   「数が僅少だからって、それっぱかりのことが古本をむさぼる理由になるのかね。要は中身でしょ、中身。まじめな顔で寝言を捏ね上げて、手弱女を誑かさないでおくれよ。」

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