美濃屋商店〈瓶詰の古本日誌〉

呑んだくれの下郎ながら本を読めるというだけでも、古本に感謝せざるを得ない。

岩崎彌太郎の贅沢(鈴木光次郎)

2010年03月09日 | 瓶詰の古本

岩崎彌太郎三菱会社長たり 一時海上王と呼ばれ大に驕奢を極む 或年の夏某紳士彌太郎を其邸に訪ふ 彌太郎将に日本料理を饗せんとす 紳士心に以為(おもへら)く 岩崎は名たヽる富豪なれば定めて山海の珍味を二汁五菜に過ぐる者あらんと窃かに喉を鳴らして膳の上を見れば何ぞ図らん 洗魚(あらひ)は皿に四五切吸物は椀の底に一口半あるのみ 紳士案に相違して思(おもへ)らく 岩崎の贅沢は世に隠れなきことなり 然るに実際は寧ろ吝嗇なりと云ふて可なりと 仍(よつ)て先づ一箸を試む 彌太郎即ち下婢を呼びて残れる所を捨て更に新鮮の品を侑(すヽ)めしむ 一口にして交へ一甞(なめ)にしてまた換ゆ 斯の如くすること殆んど数(す)十回 客始めて岩崎の贅沢に驚く

(「幕末明治英雄裏面史」 鈴木光次郎)

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