そろそろ中型の日本語辞書(紙印刷)は、宣伝文句に必須となる20万超の収録語数を稼ぐための百科項目は潔く切り捨てて、一冊本の国語辞典として究極を目指すべきではないか。紙の辞書の容量は有限だから、日本文学を世界文学の水準へ到達させた(と極めて高い蓋然性をもって断案される)大西巨人(2014年3月物故)を立項する余地のない辞書もあるだろうが、そのことによって、百科項目収載の秀逸な目配りを誇る以前に、当該百科項目の取捨選択について下した価値判断の(時にズレたと評され得る)痕跡を後世へ遺す、歴史博物館的書物になりかねない。
確度の高い(錚々たる紙の辞書と同等の信頼性を有する)電子情報がほぼ無償・無限に提供される環境にあって、有限の紙ページに押し込める百科項目の選別に多勢の専門家が骨身をけずり、七転八倒する努力や見識は、それに見合う褒誉を求めて必ずしも十分に報われるものではない。