古本が身の周りを埋めている、そのことがたった一つの生きるよすがになるということはある。未来を望み得ず、希望すべき何ものも失われた境涯に放り出されたとき、身の周りに犇々と群れ立つ乱脈限りない古本の山から一冊また一冊と抜き出し抜き出ししては、忘れ果てていた古い面貌に出会うたび湧き起こって来るなんとも表現し難い奇妙な所有欲の反芻と充足感。
傍目からすれば、狩った獲物を前にしたあさましい餓狼の舌舐めずりか、はた又まがまがしい百舌の速贄とでも形容するしかないこの心の震駭は、自ら蒐めた古本に転移して存在し続ける過去という滴玉に映る無量の文字を生死の彩絢としてのみ幻視する心、病から闇討ちを食わされるなかで生まれ落ち育っていた心の狂風と相呼び交わしているかのようである。
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