花耀亭日記

何でもありの気まぐれ日記

宮城県美術館「奈良・中宮寺の国宝展」サクッと感想。

2021-01-08 22:22:05 | 展覧会

昨年11月に観た宮城県美術館「東日本大震災復興祈念  奈良・中宮寺の国宝展」の感想を遅ればせながらサクッと

https://www.pref.miyagi.jp/site/mmoa/exhibition-20201112-s01-01.html

中宮寺は聖徳太子が母である穴穂部間人皇后のために創建したと伝わっている(山岸涼子「日出処の天子」では穴穂部間人媛は厩戸を恐れ冷たかったよなぁ)。鎌倉時代の尼僧信如(比丘尼)による復興を経て、室町時代には尼門跡寺院となっている。

今回の展覧会では中宮寺の仏様たちだけではなく、様々な所蔵品(美術品)も観ることができ、興味深く眺めてしまった。端正な《花御堂》や雅な《花鳥散図襖》、昭和初期の日本画家たちによる《花御堂天井画》板絵など、現在まで続く尼門跡寺院ならではの格式と華やぎを見ることができたと思う。

《花鳥散図襖》江戸時代(18世紀)中宮寺

また、中宮寺の国宝の一つである《天寿国繍帳》のレプリカ(模造:1982年)も展示されていた。

(写真:中宮寺HPから)

《天寿国繍帳》(実物写真)飛鳥時代(7世紀)中宮寺

今回初めて知ったのだが《天寿国繍帳》は聖徳太子の死去を悼んで妃の橘大郎女が作らせたもので、聖徳太子が往生した天寿国(西方極楽浄土)のありさまを刺繡で表した帳(とばり)の意であるようだ。展示されていた模造作品を観ていても、彩り豊かな刺繍で極楽浄土を物語るように緻密に繍い上げていることが了解される。観ながら、ふと《バイユーのタペストリー(Tapisserie de Bayeux)》を想起した。

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Teppich_von_Bayeux.jpg

《バイユーのタペストリー》は1066年のノルマン・コンクエスト(ノルマンディー公兼イングランド王ウィリアム1世によるイングランド征服)の物語の刺繡画である。7世紀日本の刺繍も、11世紀イングランドの刺繍も、刺繍職人たちが精魂込めて繍い物語る世界は尊い。

さて、私的に注目していたのが仏像であり、ゲストのむろさんさんから事前に教えて頂いていた《文殊菩薩立像》は、なるほど!紙製とは思えない完成度であり、文殊菩薩の結った髪先の破れから、確かに紙を重ねた証を観ることができた。紙製ではあるものの衣装には截金を施しており、鎌倉時代の作らしく玉眼であることも興味深かった。

 (写真:中宮寺HPから)

《文殊菩薩立像》(重要文化財)鎌倉時代(1269年)

そして、最後の特別室に展示されていたのは、今回のハイライト《菩薩半跏思惟像》だった。が、その前室で眼を惹かれたのは数点の《菩薩半跏思惟像》写真の展示だった。それぞれの写真家の個性が出ていたが、やはり尋常ではない迫力を見せていたのは土門拳作品である。明暗のコントラストの強さは漆黒の《菩薩半跏思惟像》のボリューム感を彫り上げているようだった。

ということで、展示最終室の《菩薩半跏思惟像》に掌を合わせ、しみじみと拝見させていただいた。明るい照明の元で、近くで、離れて、ぐるっと回って...《菩薩半跏思惟像》は角度を変える毎に、観る者の眼に様々な姿を見せてくれる。やや俯き、静かに思索される表情も、頬に触れる洗練された指のポーズも、すんなりとした背中も、華やかな衣紋ドレープの内なる足の存在感...まことに魅了されるお姿をしている。

(写真:中宮寺HPから)

《菩薩半跏思惟像》(国宝)飛鳥時代(7世紀)中宮

特に印象的だったのは、照明のせいだろうか? 正面から近づき見上げると、意外なことに漆黒の厳かな威厳に圧倒されるようだったのだ。この菩薩像は決して優美でお優しいだけではない、男性的な荒ぶる力強さをも秘め、毅然とした厳しさもお見せになるのだと思った。

展示では《菩薩半跏思惟像》の復元CG映像も観ることができたのだが、なんと!現在のお姿は当初の装飾を取り去り、その後黒漆を塗ったものだ(追記:黒漆の上から彩色していた?)ということがわかった。復元CGでは、お顔にも衣装にも美しい色彩が施され、髪を結い上げた上から煌びやかな宝冠を被り、西方浄土を彷彿させる菩薩像であったことが偲ばれたのだ。

多分、飛鳥時代の人々は華やかで美しい《菩薩半跏思惟像》のお姿こそ相応しいと考えたに違いない。が、現代人の私は装飾を削ぎ落とし「素」となったお姿の方を美しいと思う。それは、古代ギリシア彫刻も鮮やかな色彩を纏っていたことを危うく忘れそうになるのと同じかもしれない。美の基準も、美意識も、時代の変化とともに揺れるのは仕方がないのだよね。

ということで、なんだか後半は急いだ感もあるけれど(汗)、遅ればせのサクッと感想を書き、ようやく去年からの宿題を終えた気分だ



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29 コメント

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写真 (山科)
2021-01-09 08:38:47
  この展示会:太宰府の九州国立博物館にも巡回しますURL  ですが、コロナがおさまらないと福岡にもいけない、、
http://reijiyamashina.sblo.jp/article/188252225.html

  日本の仏像鑑賞はまず写真から始まったように感じてます。優れた写真によって「仏像の美」という観念自体ができたのではないか? と思っています。
  ただ、グローバル企業の貪欲(7つの大罪のひとつ)の影響で写真著作権が非常にうるさくなってしまいました。立体物の写真には著作権がありますので、要注意です、平面の古典絵画の写真、直接の複製である拓本などの写真には著作権はありません。また、本や図録の表紙、屋外のポスターなどの写真使用は慣例上問題はないことになっています。
 中宮寺の菩薩尊像の 確実に 写真著作権消滅した画像を当方がアップしておりますので、ご利用ください。
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Bodhisattva_Chuguji.JPG
http://reijiyamashina.sakura.ne.jp/photo/Bodhisattva_Chuguji.JPG

紙製の文殊菩薩像については、残念ながら、写真著作権消滅写真を、未だにみつけることができていません、九州国立博物館のリンク(下記)を使うのが良いと思います。
https://www.kyuhaku.jp/exhibition/img/s_59/p03.jpg
この紙製の文殊菩薩像について、詳しい解説をネットにあげているかたがありましたので、紹介::
中宮寺文殊菩薩立像 | ネコ好き☆SHINACCHI blog
https://ameblo.jp/shinacchi79/entry-11207709167.html

天寿国曼荼羅繍帳については、昔NHKの酷いインチキ妄想本もありましたが、
当方も、少し書いています。明治初期に法隆寺献納宝物と正倉院御物が1箱分入れ替わったことがあったようで、そのために東京国立博物館(もと帝室博物館)にこんなものがあったりするんですね
天寿国
http://reijiyamashina.sblo.jp/article/183540169.html
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Unknown (Lunta)
2021-01-09 09:00:10
寒中お見舞い申し上げます。

中宮寺は二度ほど訪れていますが、元々は彩色されていたとは全く知りませんでした。
元のお姿、想像力不足でなかなかイメージできません。現代人としては現在の漆黒のお姿が美しいと思ってしまいますね。

今年もどうぞよろしくお願いいたします。
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山科さん (花耀亭)
2021-01-09 21:35:32
貴重な情報を色々とありがとうございました!!
九州国立博物館の展覧会は宮城県美と違いスケールが違いますね。《天寿国繍帳》の実物が展示されるようで羨ましいです!!が、やはりコロナ次第ですよね(-_-;)
で、仏像は光と影に富む立体(彫刻)であり、確かに写真家には魅力的な被写体だし、モノクロの世界が似合うと思います。それにしても、写真の著作権も難しい問題ですね。
で、《天寿国繍帳》の断片が東博にあることを初めて知りました(^^;。貴重な写真をありがとうございました!!
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Luntaさん (花耀亭)
2021-01-09 21:45:29
寒中お見舞い申し上げます。

で、私も復元《菩薩半跏思惟像》の色彩鮮やかに装飾を纏ったお姿に驚きました。現存するお漆黒の姿だけでも十二分に美しいですよね。

ということで、私の方こそ今年も Luntaさんの旅を楽しませて頂きたく、よろしくお願いいたします。
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中宮寺の紙製文殊菩薩 (むろさん)
2021-01-09 23:48:50
この像についての解説は、大昔(戦前)のものは別として、近年では1977年に岩波大和古寺大観1に東博彫刻室長の佐藤昭夫氏が解説文を執筆し、その後この内容を膨らませる形で1979年に同氏は仏教芸術125号に一文を掲載しています。この論文から納入文書の詳細内容や他の紙製仏像の現存作例(埼玉県栗橋経蔵院地蔵菩薩)などの部分を削除して、本文だけを掲載したものが、コメント欄でご紹介されている「仏像ここだけの話」の文章です。大和古寺大観も仏教芸術もインターネットでは読めないので、この佐藤氏の著書の引用により、中宮寺紙製文殊の内容はほぼ理解できます。なお、佐藤昭夫氏は鉄仏やこの紙製仏像など、他の彫刻史研究者があまり扱わなかったテーマについて取り上げた研究者として知られています。

その後この像に関する専門書、論文としては、2015年に銘文のある仏像類を集約したシリーズである「日本彫刻史基礎資料集成 鎌倉時代編」11巻に収録され(同像の解説執筆は東博浅見龍介氏)、また、その後文殊菩薩の春日信仰としての意味からこの中宮寺像を取り上げた論文として、東博の増田政史氏が2018年に美術研究426号に「中宮寺文殊菩薩立像について―戒律と春日信仰―」という論文を発表しています。同氏は近年快慶作阿部文殊院像その他文殊菩薩について積極的に論文を発表している研究者であり、現時点では中宮寺の紙製文殊菩薩についての最も詳細な論考です。どれも専門書なので大学図書館などへ行かないと読めませんが、この像についてはこれでほとんど全てだと思います。

中宮寺の国宝菩薩半跏思惟像については、これも上で書いた岩波大和古寺大観1と倉田文作著「仏像のみかた―技法と表現」1965年第一法規出版 が役に立ちます。飛鳥・白鳳期にしては珍しい木寄せ方法の図解やそのような構造とした推定理由などが書かれています。

ついでに、法隆寺や聖徳太子関連の展覧会について。
東博で7/13~9/5に「聖徳太子と法隆寺展」が開催されます。私は国宝の金堂薬師如来と聖霊院聖徳太子及び侍者像に注目しています。ともに以前見ていますが、近くで鑑賞できる貴重な機会です。
https://tsumugu.yomiuri.co.jp/horyuji2021/index.html
https://tsumugu.yomiuri.co.jp/horyuji2021/highlight.html

聖林寺十一面観音展が6月から本館、聖徳太子が7月から平成館なので、7月以降は両方同時開催です。コロナの状況も心配ですが、今回の緊急事態宣言でも東博は休館にならないようですから、7月までにはもう少し事態も改善しているだろうと思っています。

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訂正 (山科)
2021-01-10 14:13:58
訂正します。。
X>明治初期に法隆寺献納宝物と正倉院御物が1箱分入れ替わったことがあったようで、
○>もともと法隆寺倉庫から、中宮寺中興の信如さまが霊感でみつけたものでしたので、断片が法隆寺献納宝物に混じっていたのは不思議ではない。
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むろさんさん (花耀亭)
2021-01-10 22:17:17
寒中お見舞い申し上げます。今年もよろしくお願いいたします。
で、《文殊菩薩立像》はむろさんさんから事前に教えて頂いていたので子細に観察できました。ありがとうございました!!国内でも大変貴重な作例なのですねぇ。それに完成度も高くて、紙製とは思えないほどでした。研究者の皆さんの研究熱もわかりますね。貴重な情報をいつもありがとうございます。
それから、東博で「聖徳太子と法隆寺展」が開催されることも初めて知りました。観たいですよね!! コロナ次第というのが辛い所です(-_-;)。むろさんさんのご感想を期待しておりますよ~。
で、11月に「ランドゥッチの日記」をようやく借りることができ、読んだら面白過ぎて、そのままルネサンス時代に浸り、ブログもサボっておりました(;'∀')。本当に面白い本を紹介いただきありがとうございました!!
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山科さん (花耀亭)
2021-01-10 22:19:42
>もともと法隆寺倉庫から、中宮寺中興の信如さまが霊感でみつけたものでしたので、断片が法隆寺献納宝物に混じっていたのは不思議ではない。
なるほどです。わざわざありがとうございます!!
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Unknown (momo)
2021-01-11 14:32:49
行くのをすっかり忘れていた私は、花さまのブログを見て、慌てて今、行ってきました(笑)

《文殊菩薩立像》はホントに紙ですか⁈
えー紙〜⁈と、紙には見えない(・・;)
あまりにも凝視しすぎて菩薩さまと目が合った気がします…(笑)

《菩薩半跏思惟像》は何とも言えない優しい微笑みに、心洗われました。
ちなみに私も土門拳さんの写真がいいです。


「日出づる処の天子」厩戸王子が大好きです😍
(笑)
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momoさん (花耀亭)
2021-01-11 22:30:58
おお!滑り込みセーフで展覧会をご覧になれたようですね。良かったです~(^^)
で、おっしゃる通り《文殊菩薩立像》は紙製とは思えない完成度ですよね。菩薩さまもmomoさんの凝視に恥ずかしくなって、思わずウィンクしたとか?(^_-)-☆
《菩薩半跏思惟像》は本当に素敵でしたよねっ。momoさんも土門拳の写真が良かったなんて♪なぜか私まで嬉しいです。
おおお、momoさんも厩戸王子ファンでしたか?!あのビジュアルが刷り込まれているので、聖徳太子像を見ると別人のように思えて困ります(;'∀')
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