「ごめんくださーい!」
声を張り上げても返事はない。鍵は開いているのだから、当然誰かいるものだろう。そう思っておばあさんは顔を突き出して何度も呼びかけてみました。
「ごめんくださーい!」
これはいったいどういうことだ。おばあさんは玄関先に膝をつき、家の奥にまで届くように問いかけました。
「誰か、誰かいますかー?」
「誰かいませんかー?」
「ごめんくださーい! ごめんくださーい!」
「いるんですかー?」
「もう、お邪魔しまーす!」
事態を打開すべくおばあさんは玄関を越えて前に進みました。全くなんて不用心な家だ。
(私が代わりに留守番でもしてなきゃ泥棒にでも入られるだろう)
居間まで来るとおばあさんは善意を持ってちゃぶ台の前に腰を落ち着けました。その時、ちゃぶ台の上には、これでもかというほどの調味料が立ち並んでいました。おかげで本を広げるスペースもないほどでした。おばあさんは念のため各調味料の賞味期限をチェックしました。
「切れてるじゃないか」
これも、これも、これも、これなんか……。
その1つはもう5年も前に切れているのでした。そんな調味料の集合を見ている内に、おばあさんの体から得体の知れない怒りがこみ上げてきました。(不在者へ? 孤独へ? 時の早さに対してか? あるいは、そうしたいずれかが交じり合って湧いてくるものか)不確かなだけあって抑えようもないものでした。
「ヌウォーオーリャーァアーーーーーー!」
おばあさんは、思い切ってちゃぶ台をひっくり返しました。
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