眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

ハーフタイム(折句の扉)

2018-02-18 12:55:16 | 折句の扉

 疲れた体を引きずって君はロッカールームにたどり着いた。ハーフタイムは40分。用意されたお弁当を広げてエネルギーを補給する。これから先の長い戦いに備えておかなければならない。箸を取り青い色の物から口に運ぶ。
 くちゃくちゃくちゃ……。
 すぐ目の前のテーブルに着いて男が何かを食べている。よく見るとそれはさっきまで君が戦っていた相手だ。何を暢気に飯なんて食っているのだ。くちゃくちゃくちゃくちゃ……。音楽もない部屋の中で咀嚼する音を聞いていると食欲が失せていく。今から倒さなければならない相手が音を立てて肉を食っている。いったい何を考えているのだろう。君は顔を上げて、はっきりと対戦者の目をとらえることができない。大好きな海老も春巻きも何も喉を通らない。逃げ出したい。逃げ出したいのに逃げ出せない。
 君はお弁当箱を閉じる。
 心から敵を追い出すために、折句の扉を開く。言葉があふれ始める。戦いを消す言葉、戦いを戦いでないものにする言葉たちの感触を楽しみながら、まだこの世に存在しない歌を作り出す。君が最初に作った歌はろくでもないものだった。いつだってそうなのだった。戦闘意識が君の中から徐々に薄らいでいく。君は誰にも悟られないようにそっと自分を笑う。それからまた次の言葉を見つけるために指を泳がせる。言葉は節を持ちながら脳裏をかける。一度行ったところまでなら難なくたどり着くことができる。遠く遠く、ここよりも遙かに離れた場所から君は新しい言葉を持ち帰ろうとする。指先はそこに微かにかかったように思えた。
 本当の居場所はもっと先にある。現在地とは、いつか忘れられる場所に違いない。長い時間、君は折句の扉の向こう側の世界をさまよい続けていた。誰もいない心地よく寂しい場所で君は歌った。


アジショナル
ゲノムをたずね
ドミソミソ
うそとほんまの
触れ合いバジル

折句 短歌「揚げ豆腐」

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