言葉は君の胸の中をさまよっていた。声にしてしまえば、形をつけて外に吐き出すことは、その気があれば容易だった。誰かを傷つけてしまうほどの、一瞬の光を持って放ってしまえば、楽になれただろう。君は少しも吐き出そうとはしなかった。ありもしない出口を探して何度も胸の中を巡った後、肩から腕、腕から手首まで下りていく。手の甲から指先を伝わって、ゆっくりと未知の世界へ放出されていく。「その方が遠くまで行けるから」幼い日よりの経験が、いつも回り道を選択させる。苦くても、時間はかかっても、君にはずっと行きたい場所があった。
それは不意に君を落とした。
少し前まで冗談だった、友人だった、穏やかな道だった。突然、深い溝が生まれたように見える。本当は何もない平地だったとしても、一度見えてしまうと信じることは難しい。溝の中に心が落ちる。一度、落ちてしまうと疑うことは難しい。続いて落ちる。落ちるべき場所があるように、続いて落ちる。落ちて、落ちて、落ち続けて、とめどなく落ち続けていく。君以外の人々が、平気な顔をして通り過ぎていく。笑顔さえ浮かべる人もいる。自分だけが、特別におかしな存在であるように思え始める。尋常でなく、人並みから逸脱した何か。(まだ人だろうか)落ちるに従って、いつまでが人であろうかと君は考える。
それは不意に君を助けた。棘だったものが毛布に変わった。悪魔に見えていたものが子犬になった。果てしない暗黒だったものが、街の空となって両手の中に収まりそうになった。同じ顔をしながら、相反する二つの面を持ち、可能にも不可能にもみえ、幸福にも不幸にも思えた。落ちていく中で、突如持ち上げられる。上昇していく中で、急激に落ちた。天使は扉が閉まる瞬間、地獄のような表情になった。(天使と悪魔が手を取って君を引き裂こうとしていた)それは心の波だった。「馬鹿じゃないの」誰かがまた君を責めている。動くことを許されない場所でいつの間に標的になったのだろう。「何の役にも立たない」あるいは君に似た者に対してやむことのない声は、大勢を占めるコーラス隊に押されて歯止めもない。「いなくても一緒」その場にいるだけで君は自分を失っていく。君たらしめていたものが一つ一つ差し引かれて、引き千切られていく。「頭おかしいんじゃないの」その場に留まっているというだけで、君は自身を失っていく。失われた君も君に含まれた君の一部であるかもしれないが、君は失われることを恐れながら、必死で君自身にしがみつく方法を模索している。もう一つの君を何より恐れているのが、君自身であるということを誰よりも君はよく知っている。
窓の外に視線を逃がす。ここではないところに、心を少し逃がしてあげる。ささやかな距離にささやかな他者。それからもっと遠くへ、徐々に自分を運んでいけるように努める。おかしな雑音に心を閉ざして、好きだった歌に、熱いオニオンリングに、弾むボールに、強情な子犬に、夕日に、雪に、ガジェットに、トンネルに、コーヒーに、思いをはせる。はせるに従って「今」は色あせていく。言葉にせよ、記憶にせよ、風景にせよ、絵にせよ、楽曲にせよ、雨にせよ、恋にせよ、故郷にせよ、はせればはせるほどに今よりも遠いところへ向かうことができた。ここにいるものみんなが仮死化している間に、ここにはないものばかりが向こうの世界からあふれ出していく。君は細いトンネルを抜けて、強情な犬をしつける。お湯を注いで3分待つ。はせるほどに空腹になる。現れるのは白い息。スープは完成しない。カップはどこへ行っただろう。さっきまで触れていたのは……。脇見をさせる光。吸い込まれていく、秋と新しい生地の匂い。寝静まった森のような調和の中に迷い込んで、触れる。指先が繊細な生地を知る。大丈夫。触れている限り、大丈夫。魅惑的なデザインに吸い寄せられて、伸びた指の先で、何かが動く。百年もの間、いつかの訪問者を待ち続けていた食虫植物のように。「ひっ」。おばあさんは奇妙な声を発した。飾られた洋服の中に、おばあさんは穏やかに溶け込んでいた。他人の肩に触れてしまうなんて。「色違いはないのかな」つまらない言い訳を置いて、君は逃げていく。逃げている内に細くひねくれた観念の迷路の中に迷い込む。抜け出せない迷路の中で、君は密かにほくそ笑んでもいる。迷っているのは途中だから。(生きている)迷いを資質に置き換えて、停滞は進行中だ。どこにでも行ける。(今に目を伏せれば)ドキュメントは素敵な色だけに塗り替えることができる。よかったことだけを取り出して、闇の中で再生して、しばらくの間ループさせていた。未体験の未来もまた、美しい景色ばかりに展開させることができた。思いのままに、思う限りは、君は好きなところに身を置くことができた。窓の向こうを魚たちが遊泳していく。竜の叫び。耳に手を当てて、退屈な大通りを逃れると顔のない人たち。列を成し、立ち尽くしたまま、泥棒になり、海賊になり、大工になり、芸人になり、猫になり、馬鹿になり、先生になり、逃亡者になり、役者になり、画家になり……。行間深く埋もれながら、自身を失っていく。(自分を消しにきた奴ばかり)交じりたくはない。
それは不意に君を落とした。
少し前まで冗談だった、友人だった、穏やかな道だった。突然、深い溝が生まれたように見える。本当は何もない平地だったとしても、一度見えてしまうと信じることは難しい。溝の中に心が落ちる。一度、落ちてしまうと疑うことは難しい。続いて落ちる。落ちるべき場所があるように、続いて落ちる。落ちて、落ちて、落ち続けて、とめどなく落ち続けていく。君以外の人々が、平気な顔をして通り過ぎていく。笑顔さえ浮かべる人もいる。自分だけが、特別におかしな存在であるように思え始める。尋常でなく、人並みから逸脱した何か。(まだ人だろうか)落ちるに従って、いつまでが人であろうかと君は考える。
それは不意に君を助けた。棘だったものが毛布に変わった。悪魔に見えていたものが子犬になった。果てしない暗黒だったものが、街の空となって両手の中に収まりそうになった。同じ顔をしながら、相反する二つの面を持ち、可能にも不可能にもみえ、幸福にも不幸にも思えた。落ちていく中で、突如持ち上げられる。上昇していく中で、急激に落ちた。天使は扉が閉まる瞬間、地獄のような表情になった。(天使と悪魔が手を取って君を引き裂こうとしていた)それは心の波だった。「馬鹿じゃないの」誰かがまた君を責めている。動くことを許されない場所でいつの間に標的になったのだろう。「何の役にも立たない」あるいは君に似た者に対してやむことのない声は、大勢を占めるコーラス隊に押されて歯止めもない。「いなくても一緒」その場にいるだけで君は自分を失っていく。君たらしめていたものが一つ一つ差し引かれて、引き千切られていく。「頭おかしいんじゃないの」その場に留まっているというだけで、君は自身を失っていく。失われた君も君に含まれた君の一部であるかもしれないが、君は失われることを恐れながら、必死で君自身にしがみつく方法を模索している。もう一つの君を何より恐れているのが、君自身であるということを誰よりも君はよく知っている。
窓の外に視線を逃がす。ここではないところに、心を少し逃がしてあげる。ささやかな距離にささやかな他者。それからもっと遠くへ、徐々に自分を運んでいけるように努める。おかしな雑音に心を閉ざして、好きだった歌に、熱いオニオンリングに、弾むボールに、強情な子犬に、夕日に、雪に、ガジェットに、トンネルに、コーヒーに、思いをはせる。はせるに従って「今」は色あせていく。言葉にせよ、記憶にせよ、風景にせよ、絵にせよ、楽曲にせよ、雨にせよ、恋にせよ、故郷にせよ、はせればはせるほどに今よりも遠いところへ向かうことができた。ここにいるものみんなが仮死化している間に、ここにはないものばかりが向こうの世界からあふれ出していく。君は細いトンネルを抜けて、強情な犬をしつける。お湯を注いで3分待つ。はせるほどに空腹になる。現れるのは白い息。スープは完成しない。カップはどこへ行っただろう。さっきまで触れていたのは……。脇見をさせる光。吸い込まれていく、秋と新しい生地の匂い。寝静まった森のような調和の中に迷い込んで、触れる。指先が繊細な生地を知る。大丈夫。触れている限り、大丈夫。魅惑的なデザインに吸い寄せられて、伸びた指の先で、何かが動く。百年もの間、いつかの訪問者を待ち続けていた食虫植物のように。「ひっ」。おばあさんは奇妙な声を発した。飾られた洋服の中に、おばあさんは穏やかに溶け込んでいた。他人の肩に触れてしまうなんて。「色違いはないのかな」つまらない言い訳を置いて、君は逃げていく。逃げている内に細くひねくれた観念の迷路の中に迷い込む。抜け出せない迷路の中で、君は密かにほくそ笑んでもいる。迷っているのは途中だから。(生きている)迷いを資質に置き換えて、停滞は進行中だ。どこにでも行ける。(今に目を伏せれば)ドキュメントは素敵な色だけに塗り替えることができる。よかったことだけを取り出して、闇の中で再生して、しばらくの間ループさせていた。未体験の未来もまた、美しい景色ばかりに展開させることができた。思いのままに、思う限りは、君は好きなところに身を置くことができた。窓の向こうを魚たちが遊泳していく。竜の叫び。耳に手を当てて、退屈な大通りを逃れると顔のない人たち。列を成し、立ち尽くしたまま、泥棒になり、海賊になり、大工になり、芸人になり、猫になり、馬鹿になり、先生になり、逃亡者になり、役者になり、画家になり……。行間深く埋もれながら、自身を失っていく。(自分を消しにきた奴ばかり)交じりたくはない。
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