眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

猫と小判

2009-12-01 13:34:14 | 猫を探しています

「費用はきっちり100万円いただきます。
 猫を探し当てるということは、大変な時代になっているのです」
 お安いものだった。それで猫を見つけることができるのなら、少しも惜しいことはなかったし、その場で払ってもかまわなかった。
「少し考えさせてください」
 僕は、そう言って猫探偵事務所を後にした。100万円……。
 それからずっと、お金のことばかり考えていた。寝ても覚めてもお金のことを考えていたし、時には枕がお金のように見えて眠りを妨げることもあったのだ。猫を探すこともやめてお金のことばかり考えているのだった。だんだんと気が変になりそうになった。猫のせいではなく、お金のせいだった。

 ATMを目指した。けれども、入り口の前には、数字フィールドが張られていた。
 7が危険な角度で襲い掛かってきたので、切り落とした。すると4が上から降りてきて何か怪訝な顔を見せた。無視していると9がのんびりと風に乗ってやってきて自己紹介するので、すぐさま僕は切り捨てた。3と8が挟み込むように迫ってきたので、咄嗟に身を屈めて同士討ちを誘うとそれは巧くいった。その時、9が戻ってきたので僕は一瞬目を疑い、金縛りにかかりそうだったが、どうやらそれは僕の思い込みであり、実際のところその正体は6なのだと思いつくとすっかり冷静になり、9と同じようにあっさりと切り捨てた。一息つく間もなく、2が金切り声を上げながら背後から襲い掛かってきたので、僕はそれを肘で振り払い、地面に落ちたところを踏みつけて粉々に砕いた。2は金属的な音を立てて抵抗したが、やがて力尽きて砂のように散っていった。終わりかと思っていると5が体操をしながら近づいてきて、4の隣に来ると絡み合いいちゃいちゃとするので、僕はその間を引き裂いてやった。けれども、どこからともなく現れた0が、僕の首を締め付けているのだった。気を失いそうになりながら首に食い込む0に手を伸ばすが、0は凄まじい力で締め付けるので、僕はとうとうしりもちをついてしまった。油断しているつもりはなかったのに、どうしてこんなことになってしまったのか……。見失いつつある時間の中で、僕は数々の未練を噛み潰しながら過去の反省を口にしていたのだ。
 どうして、どうして、どうして……。
 その時、天上に天使の姿を見た。見ると同時に僕はそれを打ち消していた。
 おまえなんかいない。本当はいないんだ。本当はいないんだ!「どこにもいないんだ!」
 気づくとそれは、声となって出ていた。首を締め付けるものは、もう何もなかった。声に乗って0は飛んで行ったのだ。
 入り口の前に突っ立っている棒のような数字を押し倒して、中に入った。

「よくぞここまで来ました」
 意外にも、待っていたのは人であった。
「随分と数字に強くなられましたね」
「仕方がなかったのです。ここまで来るためには」
 後ろめたいことは何もなかったのに、なぜかいい訳めいた言い方になってしまう。
「あなたが探していたのはこれでしょう」
 女は、高々と金の斧を掲げて見せた。
「いいえ。違いますけど」
「すると、これでしょう」
 そう言って女は、下ろした手を再び上げた。その手の上には、やはり高々と金の斧があるのだった。
 きっと、そうです言うまで同じように、それは、その儀式のようなそれは続くのだろう。
「間違え、  でした」
 そう言って、逃げるように出た。横倒しになった1に躓いた。1は、コロコロと転げて西の方角を指した。

 これっきりにしようと思った。お金のこと一切を頭の中から追い出して、再び猫のことを考えることにした。
 僕は、猫を探しているのだった。少し遠回りして、僕はまた戻ることにした。


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