一歩歩いて老人は火をつけるが、風に消されてしまう。一歩歩いて、老人は立ち止まり火をつける。けれども、火は風によって消されてしまうのだった。老人は、一歩歩き、手で小屋を作るようにして火をつけた。ようやく、老人の口先に火がついた。最後の、火がついた。10月の手前。 #twnovel
渡り廊下には、幾千もの風鈴が吊り下げられて壮大な音々でせめてもの涼しさを演出していたけれど、アイスクリーム一つが本当は欲しかった夏、最後の箱の中では二度と開かないその唇に人々は甘く酒を染ませた綿を幾度となく近づけ、やがて無数の花びらが一つのキミを覆い尽くした。 #twnovel
ぼーっとしてないでちゃんと食べなさい。「食事の途中は歯磨きしなくていいのかな?」いいに決まってるでしょと母は言う。晩御飯を食べて歯磨きを終えると隣の村田さんがケーキを持ってくるので困ってしまう。「まあいいじゃない」ダイエットは、今日だけ途中下車することにする。 #twnovel
ずっと気になっていたのだ。気になったまま何もしないままなのが気になっているということ、自分から声を出すタイミングがわからず出し惜しんだまま大事なものはいつも通過していく。「悪玉ロールを1つください」ロールケーキ専門店で今日、初めて足を止め、素直な自分になった。 #twnovel
「さっぱりしたね」と声をかけられる。今まで長く伸ばしていたし、黒っぽい時が多かった。「似合うよ。短い方が明るい感じ」自分でもライトになったように思える。語尾の形も少し変えてみた。言い方一つだけど私は変わった。それだけで悲しくもおかしくもなるのだ。ねえ稲川さん。 #twnovel