自由の森日記

埼玉県飯能市にある自由の森学園の日常を校長をはじめ教員たちが紹介

2014年度 自由の森学園高等学校卒業式 校長の言葉

2015年03月30日 | 自由の森のこんなこと
高校校長の新井です。
またまた遅くなってしまいましたが、3月7日におこなわれた高校卒業式で私がお話しした「校長の言葉」を紹介します。





卒業生のみなさん 卒業おめでとうございます。
保護者のみなさん、お子さんの卒業おめでとうございます。そして、これまでの学園に対するご支援とご協力に感謝申し上げます。

自由の森学園が創立して今年度で30周年。この30周年という記念の年にみなさんは卒業します。
創立者の遠藤豊さんは自由の森学園の教育を「自由と自立への意志を持ち、人間らしい人間として育つことを助ける教育」だと語っていました。
自由と自立への教育、そして人間性追求の教育が自由の森学園の目指すところだと説いていたのです。
今日はみなさんの卒業にあたり、このことについて少しお話ししたいと思います。

一昨年公開され、さまざまなところで話題になった映画に「ハンナ・アーレント」というものがあります。
ハンナ・アーレントはユダヤ系ドイツ人の政治哲学者で、実在の人物です。
彼女は第二次世界大戦中ナチスの追求から逃れアメリカに亡命しました。戦後、ナチスの犯罪について論じた「全体主義の起源」を発表し、広くその名を知られるようになりました。
1961年、ハンナ・アーレントは、ナチスによるユダヤ人大量虐殺に指導的立場で関わったアドルフ・アイヒマンを裁く裁判を傍聴しにいきます。
アーレントは法廷でのアイヒマンの姿を見て驚きました。
それは、何百万人もの人々の人生を断ち切った張本人であるアイヒマンは、「自分はただ命令に従っただけだ」とくり返す、どこにでもいる平凡な男だったからです。
アイヒマン裁判を全て傍聴したアーレントは、彼の行為を「陳腐な悪」「凡庸な悪」だと述べました。
アイヒマンには思想もなく、なんの自覚もないままに任務を遂行しただけの単なる役人であり、本当の悪とは、このように思考を停止した、考えることを放棄した凡人がもたらすのだ、と主張したのです。

私はこの映画を見ながら、エーリッヒ・フロムの「自由からの逃走」という本を思い出していました。この「自由からの逃走」は、なぜドイツ国民の多くはナチスを支持していったのか、そのドイツ民衆の心理を分析したものです。日本語科や社会科の授業でこの本について紹介され、知っている人もいるかもしれません。

フロムはこう分析しています。
第一次大戦後、ドイツ国民は、その当時世界で最も民主的だと言われたワイマール憲法を手にしました。この憲法により自由の範囲が広がるにつれ、ドイツ国民の中には、自由になった喜びよりも、孤独感と孤独を恐れる気持ちが大きくなってきました。
自由と自立が、不安と孤独になってしまったのです。
その不安と孤独から逃れるために、多くの人々が選んだものが権威主義的な支配でした。自分の頭で考えることよりも権威のある強いリーダーが決めてくれることを選択してしまったのです。ナチスは選挙で第1党になり、そのリーダーの指示通り、多くのドイツ国民はユダヤ人を差別していったのです。

人は、「考える自由」を放棄したとき、人間らしい人間でいられなくなるのかもしれません。

自由と自立とは、権威あるものにすがることでなく、不安や孤独と向き合いながらも自分の頭で考え自分の人生を切り開いていくことではないかと、私は思っています。
そして、人間らしい人間とは、学び続け、考え続け、より良い方法を探り続けるということなのではないでしょうか。

今日、みなさんはこの自由の森学園から旅立ち、それぞれの道を進んでいくことになります。

これからの人生において道に迷うこともあることでしょう。
その分岐点に立ち、どうしていいかわからなくなったときには、

どちらの選択が、自分にとって、またそれに関わる他者にとって、より誠実であるのかと考えてみましょう。
簡単で楽な方よりも、面倒くさいけれど困難だけれど意味がある方を選んでいきましょう。
必ずその先にはその選択を支えてくれる本当の仲間がいることでしょう。そのことを信じて進んでいってほしいと思っています。

そして、自由の森学園にはともに考えつづける教員や仲間がいることを忘れないでください。みなさんは決して一人ではありません。

さあ、いよいよ卒業です。一人の市民として一人の人間として、しっかり歩んでいってください。
みなさんのこれからに期待しています。卒業おめでとう。




自由の森学園高等学校
校長 新井 達也
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