自由の森日記

埼玉県飯能市にある自由の森学園の日常を校長をはじめ教員たちが紹介

高校卒業式

2013年03月12日 | 自由の森のこんなこと
9日の高校卒業式で、創立以来6000人目の卒業生(高校)を送り出しました。
私からのメッセージを掲載いたします。

卒業生のみなさん、卒業おめでとう。
保護者のみなさん、お子さんのご卒業、おめでとうございます。
そして、これまでの学園に対するご支援に対して、心からお礼申し上げます。

さて、いきなりですが、自由の森学園には校歌がありません。
無くてそれほど困らなかったこともあり、今日まで作ろうという動きもありませんでした。
他校の校歌ですが、最近、テレビやラジオでよく紹介されている校歌があります。
東日本大震災の被災地にある、釜石小学校の校歌です。震災以降、体育館に避難した人々を支え続けた校歌でした。歌詞を紹介します。

いきいき生きる いきいき生きる ひとりで立って まっすぐ生きる 困ったときは 目をあげて 星を目あてに まっすぐ生きる 息あるうちは いきいき生きる はっきり話す はっきり話す びくびくせずに はっきり話す 困ったときは あわてずに 人間について よく考える 考えたなら はっきり話す しっかりつかむ しっかりつかむ まことの知恵を しっかりつかむ 困ったときは 手を出して ともだちの手を しっかりつかむ 手と手をつないで しっかり生きる

これは作家井上ひさしさんが作詞したものです。世にあるほとんどの校歌が、地域の自然や風土をうたったものであるなかで、これほど学校の役割を言い当てている校歌は他にないのではないかと思います。

私は、なかでも「まことの知恵をしっかりつかむ」という一節に強く引かれます。
個人的なことにはなりますが、私が、教師になろうと思った1つのきっかけがそこにあるからです。

私は、大学ではじめて教科書はどのように作られるのかを知りました。それまで、受験勉強の世界に浸かっていた私は、教科書には正解以外の事は書かれていないと信じていました。
しかし、教科書検定をめぐる裁判が十数年も続いており、教科書には必ずしも真実が書かれるわけではないことを知るのです。そして、真実を教える、本当のことを学ぶことがどれほど困難なことなのかを認識しました。

自由の森学園は、点数で人間を序列しないという基本的な理念をもとに創られた学校です。
みなさんは、この3年間で、「自由の森の自由とは何か」という問いの前に立たされた経験が何度かあるのではないでしょうか。それに対して、みなさんの持っている回答はどのようなものでしょうか?
理念に照らして考えれば、「序列主義からの自由」、「競争原理からの自由」と言えるかもしれません。また、もう少し広くとらえるならば、社会の常識や偏見、自身の囚われからの自由と言うこともできるでしょう。序列的評価を排し、深く学ぶことによってそのような囚われから解放されることを自由の森は目指しているのです。

そして、もう一点、私は自由の森学園が他にない特質を持っていると考えています。それは、教員が教えるべきことを自分の(もしくは自分たちの)責任で考え選びとっている学校であると言うことです。

もちろん、学校である以上、学習指導要領を無視することはできません。また、恣意的な判断は避けなければなりません。しかし、一方で、教えるべき内容を政府が決め、教師はそれを分かりやすく噛み砕いて生徒に伝えるということが教育と言う仕事なのではありません。また、教育内容を問うことなしに、教育の方法だけを工夫するという考え方でもありません。何を、どう伝え、学ぶのかを考えながら毎日の授業を創り、生徒と共に探求すること、それが本来の教育のあり方だと思います。

私は、自由の森学園における「自由」の根幹に、この教育内容を創りだしていく自由があるのだと考えています。
みなさんが自由の森学園に入学する以前は、制服が無いことや、細かな校則で生徒を縛りつけないことに目が向いたかもしれません。多様な選択授業を自分で選択することにある種の自由さを感じた人もいることでしょう。あるいは、今日の卒業式がそうであるように、自分たちのアイデアで行事を企画し運営していくことに自由を意識する人もいます。
しかし、それら見えやすい「自由」を裏側で支えているのが、日々の授業づくりにおける「自由」なのです。それが、自由の森学園に流れる自由な校風の源流となっているのです。

卒業するみなさんは、今日でこの学園を巣立ちます。しかし、学校を卒業しても学びから卒業することはありません。人類にはまだまだ乗りこえていくべきたくさんの課題があるのです。明日からも「まことの知恵」を追求し続けてほしいと思います。
3年前、みなさんは、「木より根っこ」と言うテーマで創られた入学式で自由の森の一員となりました。
みなさんの根っこは大きく広く伸ばすことができたでしょうか。ぜひ、それを土台に、これから、幹を伸ばし、枝を広げ、たくさんの葉をつけて豊かな森を形成して欲しいと思っています。

自由の森学園は、これからもみなさんを陰で支え続けていきます。
卒業おめでとう。
鬼沢 真之
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