我が家の積雪は170㎝。急きょ休みが出来たので、スキー履いて猟に出向くことにした。
隣の集落から沢沿いの林道を辿る。今日はウサギを狙いたい。
林道沿いのかつての上水道施設。コンクリート製の三つの小さな小屋は、仲よく揃って大きな分厚い帽子をかぶっていた。
沢を渡る橋。この雪深い時は橋の下が隠れ家になっていることがある。よーく見ると…
シカ?カモシカ?らしいたくさんの足跡が見える。しかも新しいぞ…。
その上流を見ると、確かに新しい大型獣の足跡。腹を引きずった跡がないのでおそらくシカか?
イノシシなら足が短いので丸太を引きずったような跡になる。
上流に向かっている。息を殺し、スキー板を静かに進ませる。
途中、一度橋の下に入ったようだが、また林道に上がりさらに奥へ向かっている。
この辺りは雪もやわらかく腹を引きずっている。こうなると、さすがのシカも動きが遅いはずだ。
明らかにラッセルのシカよりも、スキーの方が潜らず進みが早いはずだ。
さらに進むと…。
いた!オスのシカだ。
スキーを足早に進ませる。2頭確認できた。杉木立の間から狙った。
シカもこちらに気づいて、跳ねて逃げた。パーン!パーン!
2発撃ったが当たらず。やはり遠いようだ。もう2発撃っても当たらない。
まさかシカが居るとは思わなかったので、大型獣用のスラッグ弾は5発しか持ってこなかった。あと1発しかない…。
シカは逃げるが深雪で進みが遅い。これは追いつけるかも…。小走りにウロコ板を進ませ、50mほどまで間を詰めた。
2頭のうち1頭を狙いすまして、パーン!
ばたっと倒れ込んだ。やったー! 伸び切った足が痙攣しているのが見えた。もう弾が無いので、止め刺しが出来ない。不用意に近づくと反撃を食らいそうなので離れて少し待つ。と、むっくと起きて走って逃げてしまった。
追いかけるにももう弾がない…。チーン…泣
逃げて行ったシカの頭には片方の角がなかった。倒れ込んだところへ行ってみると、シカの角が落ちていた。
なんと、渾身の最後の一発は頭の角の根元近くに命中したのだった。角をぶち抜かれたシカは脳震とうを起こして倒れ込んだのだろう。
以前、春の山で熊を狙ったがブナの樹をぶち抜いて、親方に笑われたことがあった。
今回はぼく一人だったが、もし親方たちがいたとすれば「おめえ、あんな細い角によく当てたな。角撃ち名人だ…」と笑われたに違いない。
あーあ、こんなことだったらもっと弾を持ってくるんだったな~。
手負いにさせて申し訳ない。また来て、あの片角のシカに引導を渡したいと思うのでした。
帰り道、この山の神様の前を通る。
杉の大木の根元にある小さな山の神の祠は、分厚い雪に覆われていた。
今回、獲物は得られなかったがいつもの猟の安全と、今後の和泉屋AK.Tの家内安全・商売繁盛を祈願しながら、祠の雪を取り除いた。
祠の中には、明治三十年云々と思しき文字が書かれた山祇の神の御札があった。
逃した口惜しさと、なぜだか少し清々しい気持ちが入り混じり、元来た道をスキーを走らせ帰るのでした。