2013年10月31日
声 明
岸和田生活保護訴訟弁護団
岸和田生活保護訴訟 原告
岸和田市の生活保護申請(却下)の取り消しを求める裁判を支援する会
1 はじめに
本日、大阪地方裁判所第7民事部合議3B係(田中健治裁判長)は、平成21年(行ウ)第194号生活保護申請却下処分取消等請求事件(以下「岸和田生活保護訴訟」という。)において、岸和田市福祉事務所長の行った生活保護却下処分を取り消し、岸和田市に対し、慰謝料等の損害賠償として68万3709円の支払を命じる判決をしました。
2 事案の概要
本件は、派遣切りに遭って新たな仕事を探し続けても見つからず日々の食事にも困るようになった原告が、岸和田市福祉事務所に生活保護申請に赴いたところ、門前払いをされ、その後も、5回も生活保護申請を却下され続けたことについて、岸和田市を被告として、却下処分の取消しと、精神的苦痛に対する慰謝料を求める行政訴訟です。
3 判決の内容
生活保護法4条1項が定める稼働能力活用要件につき、本判決は、稼働能力の活用要件について、憲法25条の理念に基づく生活保護法の立法趣旨を勘案して判断すべきとし、①稼働能力があるか否か、②その具体的な稼働能力を前提として、その能力を活用する意思があるか否か、③実際に稼働能力を活用する就労の場を得ることができるか否か、によって稼働能力の活用要件を判断するとしました。そして、①については、稼働能力の有無だけでなく、稼働能力の程度についても考慮する必要があり、②については、申請者の資質や困窮の程度等を勘案すべきと指摘しつつ、当該申請者について社会通念上最低限度必要とされる程度の最低限度の生活の維持のための努力を行う意思が認められれば足り、③については、申請者が求人側に対して申込みをすれば原則として就労する場を得ることができるような状況か否かによって具体的に判断し、有効求人倍率等の抽象的な資料のみで判断してはならないとしました。また、ここにいう「就労の場」とは申請者が一定程度の給与を一定期間継続して受けられる場をいう、と判断しました。
その上で、本判決は、本件原告夫妻について、①原告の稼働能力の程度を具体的に検討した上で、②原告夫妻の求職の努力を認め、③就労する場を得ることはできない状態にあったと結論づけました。
さらに、岸和田市が原告を門前払いにした行為ついて、保護の実施機関は保護の開始申請意思の確認や意思を有している場合には保護の開始申請手続を行うことが職務上認められているとして、本件においても原告の申請権が侵害されたと評価しました。さらに、本件各却下決定は、生活保護法4条1項の稼働能力活用要件の解釈を誤った違法なものと判断して、いずれも岸和田市に対する国賠請求を認めました。
4 判決に対する評価
本判決は、却下処分が違法であったことを断言し、かつ、申請権の侵害や5回にわたり却下処分を継続して一年以上にわたり原告夫妻が保護を受けられなかったことについて、岸和田市の違法行為を断罪した、極めて正当な判決です。その中でも、憲法25条や生活保護法の理念に即して、稼働能力活用について踏み込んだ判断をしており、高く評価できます。
5 おわりに
被告岸和田市は、本判決の判断を真摯に受け止め、今後、本件と同じような被害者が出ないようにするため、憲法25条の理念に則った適切な生活保護行政を行っていくよう、原告弁護団として、強く求めます。
岸和田生活保護訴訟判決に対し控訴しないことを求める要請書
岸和田市長 野口 聖 殿 (FAX:072-423-4644)
2013年10月31日、大阪地方裁判所第7民事部合議3B係(田中健治裁判長)は、平成21年(行ウ)第194号生活保護申請却下処分取消等請求事件において、岸和田市福祉事務所長の行った生活保護却下処分を取り消し、慰謝料約68万円の原告への支払を岸和田市に対し命じる判決をしました。
本件の原告は、派遣切りに遭い、仕事を探し続けても見つからず、日々の食事にも困り、藁をもすがる思いで、岸和田市福祉事務所に生活保護申請に赴きました。岸和田市生活福祉課は、原告の申請に対して1回目は門前払いをし、その後もさらに、5回もの生活保護申請に対して「稼働能力未活用であり最低生活維持可能」という理由で却下し続けました。その結果、原告は1年以上の長きにわたり、飢えと貧困の中で放置され続けました。
本件裁判は、岸和田市を被告として、却下処分の取消しと、原告の精神的苦痛に対する慰謝料を求めるものです。
本判決は、原告の請求を全面的に認め、岸和田市に対し、平成20年7月28日付で岸和田市福祉事務所長がなした生活保護開始申請却下処分の取消し、並びに、岸和田市のそれ以前の「門前払い」行為に関する申請権侵害、及び、各却下決定について生活保護法4条1項の稼働能力活用要件の解釈を誤った違法なものとして、それぞれ国家賠償請求を認めました。
このような被告岸和田市の福祉行政の過ちを断罪した判断は、生活保護法の本来の理念、現在の雇用をめぐる情勢や原告の年齢、経歴、置かれた状況に照らしてみても至極当然です。
本件裁判の中で、原告は、仕事を抱えながら、長きにわたる裁判を闘い続けました。自分だけではなく自分と同じように稼働年齢層にあり、就職活動を懸命に続けながらも生活困窮から脱却できない人々のための命を繋ぐための闘いと考えたからです。
今回の判決で原告に対する取り扱いが生活保護法に照らして違法なものであると明確に判断された以上、行政は、誤った法解釈・運用を即刻改めなければなりません。そして、最低生活の維持と自立助長という生活保護法の目的に基づき、生活困窮者の実情に寄り添う運用を徹底すべきです。
もし仮に被告岸和田市が控訴すれば、原告をさらなる裁判闘争にさらすことになり原告の精神的負担を増幅させます。また、かつての原告と同様の境遇にある数多くの生活困窮者をさらに苦め、その生命・健康を脅かすことになり、到底容認できません。
岸和田市が、判決を真摯に受け止め、控訴することなく本件裁判を確定させることを強く求めます。
2013年 月 日
【意見欄(補足でご意見があればお書きください。)】
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【連絡先】「岸和田市の生活保護申請「却下」の取消を求める裁判を支援する会」
〒596-0048 大阪府岸和田市上野町西15-15「岸和田生活と健康を守る会」宛 tel072-432-3240
〒596-0053 大阪府岸和田市沼町13-21双陽社ビル「弁護士法人阪南合同法律事務所」宛
tel072-438-7734/fax072-438-3644
岸和田生活保護訴訟判決に対し控訴しないことを求める要請書
岸和田市長 野 口 聖 殿 (FAX:072-423-4644)
2013年10月31日、大阪地方裁判所第7民事部合議3B係(田中健治裁判長)は、平成21年(行ウ)第194号生活保護申請却下処分取消等請求事件において、岸和田市福祉事務所長の行った生活保護却下処分を取り消し、慰謝料約68万円の原告への支払を岸和田市に対し命じる判決をしました。
本件の原告は、派遣切りに遭い、仕事を探し続けても見つからず、日々の食事にも困り、藁をもすがる思いで、岸和田市福祉事務所に生活保護申請に赴きました。岸和田市生活福祉課は、原告の申請に対して1回目は門前払いをし、その後もさらに、5回もの生活保護申請に対して「稼働能力未活用であり最低生活維持可能」という理由で却下し続けました。その結果、原告は1年以上の長きにわたり、飢えと貧困の中で放置され続けました。
本件裁判は、岸和田市を被告として、却下処分の取消しと、原告の精神的苦痛に対する慰謝料を求めるものです。
本判決は、原告の請求を全面的に認め、岸和田市に対し、平成20年7月28日付で岸和田市福祉事務所長がなした生活保護開始申請却下処分の取消し、並びに、岸和田市のそれ以前の「門前払い」行為に関する申請権侵害、及び、各却下決定について生活保護法4条1項の稼働能力活用要件の解釈を誤った違法なものとして、それぞれ国家賠償請求を認めました。
このような被告岸和田市の福祉行政の過ちを断罪した判断は、生活保護法の本来の理念、現在の雇用をめぐる情勢や原告の年齢、経歴、置かれた状況に照らしてみても至極当然です。
本件裁判の中で、原告は、仕事を抱えながら、長きにわたる裁判を闘い続けました。自分だけではなく自分と同じように稼働年齢層にあり、就職活動を懸命に続けながらも生活困窮から脱却できない人々のための命を繋ぐための闘いと考えたからです。
今回の判決で原告に対する取り扱いが生活保護法に照らして違法なものであると明確に判断された以上、行政は、誤った法解釈・運用を即刻改めなければなりません。そして、最低生活の維持と自立助長という生活保護法の目的に基づき、生活困窮者の実情に寄り添う運用を徹底すべきです。
もし仮に被告岸和田市が控訴すれば、原告をさらなる裁判闘争にさらすことになり原告の精神的負担を増幅させます。また、かつての原告と同様の境遇にある数多くの生活困窮者をさらに苦め、その生命・健康を脅かすことになり、到底容認できません。
岸和田市が、判決を真摯に受け止め、控訴することなく本件裁判を確定させることを強く求めます。
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