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“立ち退き漂流” ついの住みかはどこに

2017-11-13 11:08:33 | Weblog

                                        “立ち退き漂流”   

                                    ついの住みかはどこに    

“立ち退き漂流” ついの住みかはどこに
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20171108/k10011216281000.html

突然、こんな知らせが届いたら、どうしますか?「賃貸契約を解除する」
立ち退きを迫る通知です。実は今、アパートの建て替えなどで立ち退きを求められる人が相次いでいます。

背景には、高度経済成長期に建てられた住宅の老朽化があり、特に高齢者の場合、新たな住居が見つからないという深刻な事態が起きていることが分かってきました。(ネットワーク報道部記者 飯田耕太/社会番組部 ニュースウオッチ9 ディレクター 三隅吾朗)

突然の「立ち退き」背景に老朽化

私たちは、実際に立ち退きを求められた、あるお年寄りを取材しました。東京・墨田区に住む近藤正さん(76歳)は、おととし、住んでいたアパートが築40年以上となり、建て替えのため2年以内に賃貸契約を解除すると通告されました。

近藤さんは「静かで環境もよく、一生住み続けたいと思っていました。突然、部屋を出てほしいという書類が届き、まさかと思いました」と振り返ります。

このように、長年暮らしてきたアパートなどから立ち退きを迫られる事例が、今、増えています。近藤さんが住む東京・墨田区は町工場が集まり、戦後の復興をけん引してきました。高度経済成長期には人口が33万人とピークを迎え、数多くの住宅が建てられましたが、こうした建物が一斉に建て替えや改修の時期を迎えているのです。

墨田区が平成23年度に行った調査では、昭和55年以前に建てられた建物が区内の全域に広がり、その数はすべての建物の61%、2万8000棟余りにのぼることがわかりました。

区の住宅課には、立ち退きを迫られたという高齢者からの相談が、この5年間で3
倍以上に増えたということです。墨田区住宅課の若菜進課長は、「高齢化と建物の老朽化が同時に進めば、住む場所に困るお年寄りはますます増えていきます。

自分で新しい部屋を探そうとしても見つからず、区に相談に来たときは、立ち退きの期限まで残り2週間を切っていたケースもあります。切実な問題です」と話しています。

こうした事情は、墨田区に限ったことではありません。国が4年前に行った調査では、全国の民間の賃貸住宅のうち昭和55年以前に建てられたものは、17%にあたる219万戸にのぼります。これらの住宅は、数年のうちに建て替えや取り壊しなどが行われる可能性が高く、立ち退きを迫られる人が今後も増えると考えられているのです。

“漂流”する高齢者

立ち退きを迫られたお年寄りは、どんな現実に直面するのでしょうか。

近藤さんは、不動産業者などを通じて新たな住まいを探しましたが、なかなか見つかりません。理由の1つは、家賃の問題です。近藤さんは大学を卒業後、営業の仕事に就き、20年以上続けてきましたが、その後、事業に失敗。

家族と別れ、1人で暮らすようになりました。60代半ばには心筋梗塞を患い、医療費の負担が増加。生活保護を受けるようになり、家賃にあてられるのは毎月5万円ほどだと言います。ところが、都心でそれほどの家賃で住めるのは古い物件ばかり。

入居しても、また同じように立ち退きを迫られる不安がありました。近藤さんは「安い物件はあるにはあるのですが、築40年前後で、あと数年もすれば取り壊すようなところばかり。

移り住んだ先で、また立ち退くようなことは避けたい」と話していました。

さらに、「独り暮らしの高齢者」ということも、大きな壁になったと言います。誰にも気付かれないまま最期を迎えるいわゆる「孤立死」を避けたいと、大家の側がなかなか貸してくれないというのです。

近藤さんは「私のように心臓に病気があると大家さんも心配でしょう。年齢の面でも、75歳を過ぎるとほとんど貸してもらえず、物件探しは相当難しくなります」と話しています。

最後の望みをつなぐのは、住まいに困っている人たちの受け皿になるはずの公営住宅でした。近藤さんは5回にわたって応募しましたが、結果はすべて落選。実は、公営住宅の数は人口減少を受けて年々減っていて、新たに入居できるのはごくわずかなのです。

しかも部屋はほとんどが家族向け。1人で暮らす近藤さんは、平均50倍を超える高い倍率の抽選に当たらなければならないのです。

「宝くじより難しいんじゃないですかね」…近藤さんはこう感想を漏らしていました。

NPOの支援でようやく…

立ち退きの期限が迫る近藤さん。墨田区の紹介で、ある団体を訪ねました。高齢者の生活支援などを行う東京のNPO法人「ふるさとの会」です。

ここでは、お年寄りの住宅問題が深刻化するのを受けて、独自に不動産会社を立ち上げ、日頃から適した物件の掘り起こしを進めています。

候補となる物件があれば、高齢者から相談を受けた支援員などが大家と直接、交渉します。入居後も高齢者のもとを定期的に訪問するなどして孤立を防ぎ、万一、入居者が家賃を払えなくなった場合は一時的に肩代わりするなどして、大家の不安を解消。入居を促しているのです。

このNPOの手厚い支援により、近藤さんは、築17年、家賃5万円台の部屋を見つけ、ようやく入居できました。

「こんなにいい物件を見つけてくれて本当にありがたいです。最期までここに住み続けたい」と、ほっとした表情で話していました。

支援活動には限界も

近藤さんはなんとか住まいを確保できましたが、NPOにとって、こうした手厚い支援を続けるのは負担が大きいと言います。

国は、高齢者などの住宅確保に取り組む各地の団体に補助金を出す制度を始めましたが、「ふるさとの会」の滝脇憲常務理事は、「1人で暮らす高齢者が急増する中、きめ細かい支援を続けていくのは容易なことではない。手厚い支援にはそれだけ人手や費用が必要で、さらに、地域のさまざまな機関や団体が一緒になって取り組むネットワークづくりが欠かせない」と指摘しています。

国は「空き家」に注目 それでも…

高齢者の住宅をどう用意していくのか。国は先月(10月)、「住宅セーフティネット制度」という新たな取り組みを始めました。

注目したのは全国に820万ある「空き家」です。一定の条件を満たした空き家を、高齢者などの入居を拒まない物件として都道府県に登録し、活用しようというのです。

しかし、これにも大きな課題があります。東京・豊島区は4年前から独自に空き家を活用し、高齢者などの受け皿にする取り組みを進めています。使えそうな物件を区の職員が1つ1つ調査していくと、「耐震基準」という課題があることが分かってきました。

空き家は耐震性の基準を満たさないものが多く、これまで活用できたのは、わずか4戸にとどまっているということです。

豊島区住宅課の小池章一課長は、「非常に難しいという印象です。耐震補強には費用がかかるため、大家の理解はなかなか進みません」と話していました。

NHKの連続テレビ小説「ひよっこ」では、高度成長期の日本の姿が描かれました。時代の要請で建てられた住宅が今では老朽化し、発展を支えてきた多くの人たちがお年寄りとなって行き場を失う…。

なんとも切ない現実だと感じます。1人で住む高齢者が増える中、受け皿となる住宅を確保するとともに、それぞれの事情にきめ細かく対応する、手厚い支援体制の構築が急がれます。