三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「ブルーピリオド」

2024年08月11日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「ブルーピリオド」を観た。
映画『ブルーピリオド』公式サイト

映画『ブルーピリオド』公式サイト

大ヒット上映中!「マンガ大賞2020」受賞!国内外で絶賛された傑作漫画が、今最も輝く若手俳優陣で実写映画化!【眞栄田郷敦×高橋文哉×板垣李光人×桜田ひより】

映画『ブルーピリオド』公式サイト

 青春の時間は濃密だ。喜びは大きく、悩みは深い。その後、徐々に自分を客観視できるようになると、それほど喜ぶことでも、それほど悩むことでもなかったと気づくのだが、渦中にいるときは感情を抑制できないことが多い。情緒不安定は青春の特徴なのだ。
 
 原作は未読なので不明だが、本作品の主人公矢口八虎は、精神的に安定している。青春を通り越して、諦めのいい大人になってしまった感がある。それは優しい両親に育てられて、そして信頼されていたからだろう。子供は、自分を信じてくれる親を裏切らない。
 ところが、それでいいのかという疑問が、八虎の中で浮かび上がる。それまでは、学校の仲間が好きなものを自分も好きだと思い、世間のパラダイムに乗っかって、スポーツ喫茶で大騒ぎする。ふざけることができるのは若いうちだけで、この時代が過ぎたら、カネを稼ぎ、家庭を持って、親の面倒を見るのだ。そんなふうに思っていた。
 よくよく考えてみると、自分には好きなものがない。夢中になって取り組めるものが何もない。ただ将来のために難関の国立大学を受験して、卒業したら安定して高い収入を得られる職業に就く。それでいいと思っていた。周りの大人たちはみんな同じ考え方だ。しかし人生はそれでいいのか。世間や他人の価値観に従順に従うだけの人生でいいのか。
 
 本作品では、大人になりかけていた矢口八虎を、もう一度青春の悩みと喜びの中に放り出す。そこまでが序盤だが、なかなかいい。眞栄田郷敦の演技も満点だ。不安定かもしれないが、好きなことをする人生を目指してみるのだ。
 ところが、盛り上がるはずの中盤が早送りのようになってしまい、全体として物語が薄くなってしまった気がする。終盤のまとめだけでは、中盤の薄さをカバーできなかったようだ。お陰で感動が弱まってしまったのが、ちょっと残念。
 
 絵画の良し悪しは専門家でも判断の難しいところがあるから、映画では上達ぶりの表現が難しいので、省略したのかもしれない。たしかに、ピカソが青の時代の写実画から、何故キュビズムの世界に移行していったのかは、素人には理解し難いところだ。
 ただ、本作品のタイトル「ブルーピリオド」は、そのまま訳せば「青の時代」であり、ピカソが描き方を悩んでいた時代を模しているのかもしれない。となれば、ピカソがキュビズムに移行していった経緯と同じように、八虎の心境の変化、世界観の変化も描く必要がある。八虎の心象風景が、もっと描かれなければならなかったのだ。原作はどうなのだろうか。
 
 いい場面もある。板垣李光人が演じた世田介が八虎に対してぶつけてくる対抗心は、反抗期が終わっていない世田介の心の叫びで、怒らないで大人の対応をする八虎との世界観の対比の場面は、とてもよかった。
 高橋文哉が演じたニューハーフには、少し驚かされた。俳優は、極端な役柄を演じることで一皮剥けることがある。今後の高橋文哉には期待ができるかもしれない。