映画「傲慢と善良」を観た。
人間関係は、本音を曝け出さないと深まらないが、本音というのは、なかなか言いにくいものである。そもそも人間は他人に対して自分を飾ろうとする。そうしている間は、上辺だけの付き合いで、相手の本性を知ることが出来ない。
多くのカップルは、本音を言い合わないまま、相手に対して自分を飾ったままで結婚に至る。結婚生活はシビアな現実を突きつけられるから、否応なしに本音が出る。そこで相手の本性を初めて知る。すると、関係が深まる場合もあるが、相手を受け入れ難くなって離婚に至ることもある。多くの人が辿る恋愛と結婚、それに離婚の代表的なプロセスである。
本作品はそのプロセスを前半と後半に分けて描いてみせた。前半のハイライトは、付き合って1年後にレストランでジュエリーケースを受け取るシーンである。期待と落胆があり、気持ちを隠そうとする微笑があった。奈緒の演技力が光る。
後半のハイライトは、枯れそうになっていた木が元気になり、ぽっと花を咲かせるシーンである。その瞬間、ヒロインの心にも花が咲いたことが分かる。花は自分を飾ることはない。花の生命そのものが美しいのだ。やはり奈緒の演技が光る。
あなたのためよと言って娘を束縛するパターナリズムの母親を、宮崎美子がびっくりするくらい上手く演じていた。上品で優しい母親の役が多かったが、こういう悪役もできる訳だ。おかげで、娘の人格がどうやって作られたのか、手に取るように分かった。嫌味な女友達二人も典型的で、トリックスターの役割をきちんと果たしていた。
奈緒を筆頭に、女優陣の演技がとてもよかったと思う。翻弄される役の藤ヶ谷くんは、序盤から中盤にかけてやや表情に乏しかったが、終盤の表情は優しさがあって、本作品にあたたかみをもたらしていた。