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ホタルの独り言 Part 2(はてなブログに引っ越しました)

はてなブログに引っ越しました。
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ヒメボタル(静岡2021)

2021-07-23 18:00:36 | ヒメボタル

 ヒメボタルの生息地がある静岡県を今年も訪ねた。標高1,200m付近に広がるブナやカエデなどの巨木がたたずむ原生林である。海から吹き上げる風によって霧が発生しやすく、樹木や林床の放置木は苔むしている。ここのヒメボタルは深夜型で22時を過ぎると光りながら飛翔し始め、 23時を過ぎる頃から真っ暗な原生林が光の明滅で埋め尽くされる。全体では、数千頭規模の生息数だと思われる。
 このヒメボタル生息地を始めて訪れたのは、2010年の7月。当時は、撮影者は勿論、観察者も誰一人といなかった。初訪の時は、時間が早かったのか1頭も光っておらず、恐怖感から待機もできず退散。2回目は、濃霧でまったく何も見えず退散。1年待った2011年、誰もいない漆黒の闇に乱舞するヒメボタルを親友と2人で観察し、写真に収めた。その後、この生息地はインターネットで情報が広がり始め、2015年頃からは大勢のカメラマンや観賞者が来るようになってしまった。今回で8回目の訪問、写真撮影では6回目になる。

 7月21日。仕事は午前中だけ。昼に退社しゆっくりと向かったが、現地には16時到着。深夜型のヒメボタルを撮るため6時間以上も前に生息地に来るものはいない。毎回の事だが、早速、環境調査を行う。気温24℃。時折、霧で覆われたが後に晴れた。
 撮影のためにカメラもセットする。今回は、フルサイズのCanon EOS 5D Mark Ⅱ は映像撮影のみとして使い、写真はCanon EOS 7D に広角レンズを付け、フルサイズで35mm相当の画角で、これまで撮影していない方向を撮ることにした。4連休前の平日ということもあって、やってくる車の数は少ない。結果10台で12人(カメラマンは11人)。この日、心配なのは人の数よりも「月」である。月齢11.4の大きな月が輝いている。月が無ければ真っ暗な森の中だが、今回は月明りがブナの森の林床に木漏れ日のように射している。22時半を過ぎた頃、少しずつヒメボタルが光り始めた。ただし、あまり飛ばない。月がかなり傾いた午前0時から、ようやく発光飛翔数が増え、今年も多くの数が発生していることを確認できた。
 他のヒメボタル生息地では見たことがないが、当地では5mほどの梢から舞い降りてくる個体がいる。多くは、林床や下草で暗くなるまで休んでいるが、活動時間が終了する午前1時を過ぎると梢に上がっていく個体が見られる。何故かは分からないが、きっと理由があるに違いない。

 この日は、観賞者はなく良識的なカメラマンばかりで安心したが、単にヒメボタルの写真を撮りに来たのだという印象を受けた。私は観察も目的であるから、発光飛翔が始まれば、ずっとカメラの脇で最後までホタルを見ているが、「写真」が目的ならば、撮影はカメラに任せて自分は森から出て車の近くで会話を楽しんでれば良い。ヒメボタルの写真は、自宅に帰ってからパソコンで現像しソフトで比較明合成する作業で作り上げるものと化しているのである。

 私は2時間半の間、ヒメボタルとの会話を楽しみ、今回も彼らから多くの大切な事を学ばせてもらった。感謝したいと思う。
 以下には、同じカットの写真3枚を掲載した。まずは生息環境を写したもの、そして2分と10分相当の比較明合成した飛翔風景写真である。どちらが良いかは、ご覧頂く方々の判断にお任せしたい。また、映像については、今回撮影したものに昨年同生息地で撮ったもの、そして2018年に岩手県のヒメボタル生息地で撮ったものを加えて編集した。ヒメボタルは、杉林や竹林、畑上を乱舞する生息地もあるが、今回の映像は、いずれも「ブナの原生林」に舞うヒメボタルで「Firefly Forest in Japan」と題した。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと拡大表示されます。また動画においては、Youtubeで表示いただき、HD設定でフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

ヒメボタルの森の写真

ヒメボタルの森
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / 絞り優先AE F14 8秒 ISO 100 (画角35mm)(撮影地:静岡県 2021.7.21 17:04)

ヒメボタルの森の写真

ヒメボタルの森
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル撮影 F2.8 ISO 1600 120秒相当の比較明合成 (画角35mm)(撮影地:静岡県 2021.7.22 0:51)

ヒメボタルの森の写真

ヒメボタルの森
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル撮影 F2.8 ISO 1600 10分相当の比較明合成 (画角35mm)(撮影地:静岡県 2021.7.22 0:08)

Firefly Forest in Japan

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ヒメボタル(山梨2021)

2021-07-18 19:28:53 | ヒメボタル

 ヒメボタルの観察と撮影、先週末は、東京都内における大変貴重な記録を残すことが出来たが、この週末は2008年から通っている山梨県内のヒメボタル生息地へと足を運んだ。今回が11回目の訪問になる。過去の記録を見ると一番早い訪問日は7月16日で一番遅い日は7月24日であった。訪問時の飛翔数は、2008年から2011年までは多かったが、その後は次第に減少傾向にあった。少ない年では、まだ梅雨が明けておらず気温が低かったり、雨が降っていたり、風が強い日であったことから、単に発生ピーク時、或いは活動条件と合致していなかったことが理由であろう。
 さて、今年のヒメボタル発生はどうであろうか。7月16日に気象庁は「関東甲信・東北南部・東北北部が梅雨明けしたとみられる」と発表。平年より早く、翌17日は朝から夏空が広がり、東京では最高気温が33℃ほどまで上昇した。予報では夕立もない。ただし、半月が上空に昇っているのがマイナス要因である。
 自宅を15時に出発し、現地到着は17時。車を止めて軽登山である。ポイントでは、過去10回で一度も撮っていない北斜面のブナ林に林道から向けて写真撮影用として1台セットし、もう1台は、やはり林道から目前が飛翔ルートになっている場所に映像記録用としてセットした。気温は22℃で無風。
 19時22分。ブナ林にて1頭が発光を始め、次第に発光飛翔する数が増えた。半月の明かりが木々の間から部分的に林床を照らすが、それでも20時頃には将に「乱舞」という光景が広がった。このヒメボタル生息地は、カメラマンも観賞者も来ない。森の中で私一人がヒメボタルに取り囲まれる状況。この場では2011年以来であった。
 21時には発光飛翔する数が減ってきたため、こちらも撤収することにした。

 以下に、今回撮影した写真と映像を掲載した。写真でヒメボタルの光が丸い点ではなく伸びているのは、飛翔場所がかなりの急斜面でヒメボタルの飛翔スピードが速いためである。また映像は、急斜面を行き来するヒメボタルを至近距離で捉えている。最適な視聴のために、暗くした部屋で、サウンドをオンにして全画面表示にしてご覧頂きたいと思う。
 今週は4連休が控えている。満月と言う悪条件ではあるが、ヒメボタルの観察と撮影を2カ所で行う予定である。

追記

 ヒメボタルの観察中、他とは違う様子の1頭がめに入った。ゆっくりと飛翔しながら、明滅せずにずっと発光している。クロマドボタルのオス成虫である。以前にも、この場所でクロマドボタルのオス成虫が発光しているのを目撃している。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと拡大表示されます。また動画においては、Youtubeで表示いただき、HD設定でフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM 35mm換算50mm / マニュアル撮影 F2.8 ISO 1600 約10分相当の比較明合成(撮影地:山梨県 2021.7.17 20:00)

ヒメボタル(山梨2021)

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ヒメボタル(東京都)

2021-07-11 17:08:11 | ヒメボタル

これは、東京都内に生息するヒメボタルの貴重な記録写真である

 ヒメボタル Luciola parvula Kiesenwetter, 1874 は、ホタル科(Family Lampyridae)ホタル属(Genus Luciola)でゲンジボタルやヘイケボタルと同じ仲間になるが、幼虫は水中ではなく陸地で生活する陸生ホタルである。その生態はまだまだ謎が多く、生息環境も多岐にわたっている。青森県から鹿児島県まで分布し、標高数メートルの海岸や標高およそ1,700mの山頂、照葉樹林、ブナ林、竹林、河川敷、お堀などに生息している。
 ヒメボタルは、東京都内にも生息している。都内におけるヒメボタルは、秩父多摩甲斐国立公園内の標高およそ700m~1,200mの山地に広く分布しているが、生息場所はかなり局所的である。2004年から観察と撮影を行っている場所は、昨年のブログ記事「ヒメボタル(東京2020)」で紹介しているが、今回は知人T氏に案内いただき、別のヒメボタル生息地を訪れた。
 当地は、標高1,000mを越えるブナとミズナラ、シラカンバの原生林と杉林である。ヒメボタルは両方の林を行き来するが、範囲は50m四方ほどである。ヒメボタルの発光活動時間には二通りあり、ゲンジボタルと同じ19時半頃から21時頃までの薄暮型と23時頃から翌2時頃までの深夜型に分けられ、東京都内に生息するヒメボタルは、知る限りでは薄暮型である。成虫の発生時期はほとんど同じであり、その年の気候によって1週間ほどのズレはあるものの、おおむね7月10日前後から発生し、10日から2週間程度である。

 ヒメボタルの当地における発生は、今年は7月5日頃から始まったようであるが、1日に数頭が見られる程度であり、7月8日に前調査で訪問した時は、発光する個体はゼロであった。ちょうど梅雨の末期で、東京は連日の雨。8日も午後から本降りで、夕方から時折止む時間もあったが、飛翔時間になってから霧が立ち込めてきたため発光しなかった。ヒメボタルは、土砂降りの雨の中でも発光飛翔するが、霧が出るとまったく光らない。また、月が明るいと発光飛翔する個体も減る。
 次に訪問した10日は、朝から青空が広がり、日中の気温も上昇。都心では33℃まで上がった。当地へ到着した17時の気温は24℃。その後も気温は下がらず、無風。一斉に羽化し、相当数の発光飛翔が期待できる天候であった。
 飛翔コースで待機していると、19時24分から発光が始まった。45分頃になると、20~30頭ほどのヒメボタルが静寂に包まれた森の中を黄金のフラッシュ光を放ちながら飛んでいたが、これから飛翔数が多くなる20時になって雷雨となり、残念ながら引き上げることになった。
 当地を含め東京都内のヒメボタル生息地は、いずれも国立公園内にあり、優れた自然の風景地を保護するとともに、生物の多様性の確保に寄与することを目的として定められた自然公園法によって開発は規制されているので、森林伐採等の心配は少ないが、観賞者やカメラマンによって荒らされないよう、場所についてはマスコミは勿論のこと研究者に対しても一切口外しないこととする。
 以下に、東京都内におけるヒメボタル生息地の貴重な記録を、昨年に続き掲載したいと思う。当地の最盛期は、まだ数日先のように思うが、また来年の今頃に観察を実施しようと思う。その時は、映像も残したいと思う。

 ヒメボタルは、発光の特徴から写真では丸い光の点に写る。飛翔しながら規則的に発光しているから、その点々を辿れば、写真上で飛翔ルートが分かるわけだが、デジタルカメラで撮影した光跡のカットを何百枚も比較明合成すれば、森の中が光で埋め尽くされる写真になる。創作写真には偽りの合成もあり生態学的価値はないが、幻想的ではあるため、昨今ではヒメボタルの写真を撮ろうと単なるカメラマンが群がる現象が起きている。
 写真を撮る事も創作写真を作ることも否定はしない。ただし、ヒメボタルの基本的な生態を学んでから生息地に行ってもらいたい。インスタグラムでは、相も変わらずヒメボタルが舞う場所に人物を立たせて撮った写真が投稿されている。他にも、農道に深夜の時間帯に路上駐車の列ができたり、カメラマン同士のトラブルもある。是非、被写体は貴重な生き物であることを念頭に、自然環境や周囲への配慮を忘れずに撮影していただきたい。

 今の会社に入社して25年。今回、初めて夏休み(9連休)を頂いたが、あっという間に終了。長野へは、心折れる遠征であったが、最後に東京都内に生息するヒメボタルの貴重な記録を残すことができた。All's well that ends wel ! 今月は、まだ週末3回に4連休もある。緊急事態宣言中になるが、いつものように感染対策を徹底して行いながら長野、山梨、静岡へ、ヒメボタル、ゼフィルス、トンボ・・・貴重な記録を残していきたいと思う。
 最後になったが、案内して下さったT氏に、心より御礼申し上げたい。

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以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと拡大表示されます。

ヒメボタルの写真

東京都内におけるヒメボタル生息地
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / 絞り優先AE F2.8 3分相当の比較明合成 ISO 1600(撮影地:東京都 2021.7.10 20:00)

ヒメボタルの写真

東京都内におけるヒメボタル生息地
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / 絞り優先AE F1.4 13分相当の比較明合成 ISO 1600(撮影地:東京都 2021.7.10 7:09)

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ヒメボタル(千葉県)

2021-06-26 17:31:43 | ヒメボタル

 千葉県のヒメボタル生息地を11年ぶりに訪れた。5週連続でホタルの観察と撮影である。同県にてヘイケボタルの観察と撮影を済ませてから移動したが、ヘイケボタルの映像編集に時間がかかるため、この記事を先に投稿したいと思う。

 千葉県のヒメボタルは、かつて県立高校の生物部が部誌に記載していたが、その後半世紀以上もの間、生息が確認されていなかった。しかしながら、2004年6月、偶然に生息が確認され新聞紙上を騒がせたのである。生息地には林道が通っているが、集落から数km離れており街灯はない。ここのヒメボタルは深夜型であるため、再発見が遅くなったのであろう。今の所、千葉県唯一のヒメボタル生息地となっている。
 生息地周辺は冬暖かく夏涼しいという海洋性気候の特徴を示し、雨量は年間2,000mmを越す最多雨地域である。周囲は常緑広葉樹を主体とした照葉樹林が広がっており、その林内に生息している。標高150mほどで、2004年当時は、低標高に生息するヒメボタルはたいへん珍しく貴重と言われていたが、今では瀬戸内海の無人島において海岸を飛翔するヒメボタルも発見されている。
 千葉県のヒメボタルは、千葉県レッドリスト(2019年改訂版)において A 最重要保護生物(尚且つ特に留意が必要な種)として記載されている。

 さて、6月25日。午後から千葉県のヘイケボタル生息地へ向かい、21時から移動。ヒメボタル生息地には、22時過ぎに到着。気温20℃で無風。晴れ。早速、林道を1.5kmほど徒歩で進む。かなり広範囲に生息しているようだが、まったく光らない。時間が早いのか?そもそも発生時期が合致しているのかも不安である。訪れたのは今回が2回目で、前回は11年前の6月19日。温暖化の影響で発生が早まっているかも知れない。ヒメボタルは、発生期間が10日~2週間なので一週間の差で見られなくなってしまう。そして一番の懸念事項は、月である。空には、何と満月(ストロベリームーン)が輝いている。本来、真っ暗で恐怖との闘いである林道も、普通に歩くことが出来る。結局、どこでどのくらい飛翔するのかが分からず、11年前に撮影した同じ場所に三脚を据えて待機することにした。
 23時を過ぎた頃、ようやく傍らの林内で1頭のヒメボタルの発光を確認。しかし、飛翔しない。飛んでも林内の僅かな範囲のみである。23時半頃になると、全部で6頭のヒメボタルを確認。内2頭が林道まで出てきて飛翔してくれたが、他は相変わらず林内で発光するだけであった。やはり、満月の明るさが原因だろう。2014年当時は、林道周辺だけで数千個体は発生していると推計されたようだが、台風などの影響で激減しているようである。幾分復活してきていると聞いたが、この満月では仕方がない。この日が発生時期のどこに当たるのかもわからないまま翌午前1時まで粘ったが、疲労が溜まってきたので、引き上げる事にした。
 今回の撮影は、135秒相当の比較明合成の1枚である。参考として2010年に同じ場所で撮影した一発長時間露光の写真も併載した。どちらの写真も、光で埋め尽くされたネット上に溢れるヒメボタル写真ではない。今回の訪問は、そうした創作写真を作ることが目的ではなく、千葉県のヒメボタルを記録として残すことであった。
 ヒメボタルの観察と撮影は、今後7月中に様々な生息地3~4カ所で行うことを予定している。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと拡大表示されます。

ヒメボタル(千葉県)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 135秒相当の比較明合成 ISO 1600(撮影地:千葉県 2021.6.26 0:41)

ヒメボタル(千葉県)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 275秒 ISO 800 合成なし(撮影地:千葉県 2010.6.19 22:03)

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森の妖精 ヒメボタル

2020-07-25 13:44:40 | ヒメボタル

 森の妖精 ヒメボタルの写真と映像を撮影してきたので紹介したい。

 ヒメボタルは、本州・四国・九州に分布し一生を陸地で生活する陸生のホタルである。20年ほど前までは「森の妖精」あるいは「森のホタル」と呼ばれてきたが、実際は、標高およそ150m~1,700mの雑木林、竹林、杉林、桑畑、河川敷、お堀など様々な環境に生息しており、2010年に桑畑や隣接する開けた草地を発光しながら飛翔する光景を見た時は驚いたものである。まだ謎の多い生態に興味を惹かれるのは勿論なのだが、どのような環境においても、ゲンジボタルやヘイケボタルとはまったく異なるヒメボタルの0.7~1秒間隔のフラッシュ発光が生み出す幻想的な光景は心を惹きつけて止まない。
  これまで様々な場所で生態と生息環境を調査し、多くの知見を得てきた。また多くの生息地において撮影をし、写真という記録を残してきたが、今回は「森の妖精」と言われてきたヒメボタルに相応しい光景を映像として残すことを目的として、自宅から直線で100km県内のヒメボタル生息地では一番発生の遅い某所を訪れた。

 「森」と言えば、ジブリ作品の「もののけ姫」に描かれた森をイメージする方が多いだろう。平地では里山に見る「雑木林」が多いが、寒い地域や標高の高い山地等では「森林」となる。その森林の代表的なものが「ブナの原生林」である。ブナを中心に様々な落葉樹が太古から生育している天然林であり、生物多様性や土壌の発達を支える重要な役割を果たしているが、古来の姿、いわゆる原生林を保っている場所は多くはない。
  「もののけ姫」の森は、屋久島と白神山地の「ブナの原生林」がモデルになっているが、2006年から2018年にかけて訪ねた岩手県二戸市の折爪岳にもブナの原生林があり、豊かな森林に住む精霊“木魂(こだま)”が切株の上に見えるような森である。その折爪岳では「森の妖精 ヒメボタル」の写真と映像を収めており、ブログ記事「ヒメボタル(岩手県折爪岳)」に掲載している。今回は、別の苔むしたブナの巨木が佇む原生林において撮影した森の妖精 ヒメボタルを紹介したい。

 この生息地を始めて訪れたのは、2010年の7月。当時は、撮影者は勿論、観察者も他に誰一人といなかった。当地のヒメボタルは深夜型で、22時を過ぎたころから少しずつ光り始め、本格的に乱舞するのは23時を回ってからであるため、一人での観察には、かなりの勇気が必要であった。親友とも何度か訪れ撮影をしたが、写真としては駄作ばかりで、その後もなかなか上手く撮れず、昨年にようやく「それらしい」写真を残せたが、まだ納得がいかなかった。
 現地には17時に到着。先客がすでに2名。テレビで紹介されたことや口コミで情報が広がり、この5年で撮影者や観賞者が多く来るようになり、車が20台以上も並んでいる時もある。ヒメボタルが飛び始めてから来る方もいるが、私は、どの場所でもそうだが、生息環境が分かる写真を写すことを目的としているため、日の入り前に現地入りする。特に、車で現地近くまで行く場合は、光害の影響をなくすためにも明るい時間に行くことは、ホタル撮影、ホタル観賞の鉄則である。しかし、薄暮型と違って6時間近く待機しなければならない。と言っても、チョウでもトンボでも遠方の撮影地であれば前日入りするし、自然風景写真の撮影で、ポイントの前で14時間も待機したことがあるので、良いものを残すためには当たり前の行動である。
 当地へは何回も通っているので、ブナの森のどの辺りをどのように発光飛翔するのかは分かっている。明るいうちに三脚とカメラをセットして、後は車内で待機である。念のため22時半に目覚ましをセットし、車内でテレビを見ていたら、いつの間にか爆睡。たまたま当ブログをご覧頂いている方が現地にいらして、私に気が付き、22時20分頃「飛んでいますよ!」と声を掛けて頂き目が覚めた。
 22時43分。遊歩道から森の中へ入っていき撮影開始。気温21℃で無風。漆黒の森の中で、あちこちで黄金の光が音もなく点滅している。時間が経つにつれ光の数が増えていく。地面ではメスが発光しており、発生のピークであると思われる。午前1時過ぎまで乱舞は続くが、単に同じようなカットを撮り続ける必要もないため、0時31分に最後のカットを撮影し撤収。帰路に就いた。
  午前2時半に帰宅。眼が冴えて寝ようにも寝られないのでPCを起動させ、早速RAW現像開始。2枚の写真を仕上げたらお昼。午後から動画を編集し、終わったら夜であった。勿論、睡魔と戦いながら、途中何回も眠りこけている。

 私は、プロの写真家ではないし、カメラマンと呼ばれるのも好きではない。ホタルの研究家として、写真はその生態と生息環境の記録を残しているが、いい加減なものは残したくない。当然、苦労と経験の積み重ねの上に理念とセンス加えて初めて結果となる。まだまだ勉強が足りないが、今回は、カメラ2台で2方向の光景を撮影した。EOS 7D は写真のみを EOS 5D Mark Ⅱでは動画も記録し、写真は重ねる枚数を変えた3枚を掲載した。
  1枚目は、森の妖精 ヒメボタルが乱舞するブナの原生林を23mmの広角レンズで撮った。
  2枚目は、90秒の露光時間に相当する写真である。昨今、掲載した「ヒメボタル(東京2020)」の写真と同じように「ヒメボタルの発光飛翔の生態写真」である。1頭1頭が、どのような環境をどのようなルートで飛翔しているのかが分かる。メスを探して地上をくまなく飛翔しているのである。また、飛ぶ速度と発光の点滅の間隔が一定であることも分かり、これが「森の妖精 ヒメボタルだ」と言えるものだと思っている。
 ここで同日に撮影していた十数人のカメラマンは、おそらくこれと同じ写真にはしないだろう。ヒメボタルは、見ての通り、その発光の様子から写真では光の点となり、それが幾重も重なったいわゆる「インスタ映え」する写真は、見る人を魅了する。以下に掲載した写真1及び3と4は、25分や18分という露光時間に相当するカットである。生態学的には飛翔範囲が分かる程度の価値しかないが、美の表現方法の1つである創作写真としてご覧いただきたい。
  生態写真でも創作写真でも、ホタルの発光飛翔の写真は、肉眼で見た光景とはまったく違う。写真とはそう言うものである。そこで、なるべく見た目に近い光景も残したいと思い、数年前から動画も記録し、編集した映像を公開している。漆黒の森ではなく、背景(環境)が分かるように明るくしてはいるが、ヒメボタルの発光飛翔そのものである。映像の中には、地面で発光するメスと、その近くで発光するオスの様子も収められている。Youtubeは、是非ともチャンネル登録をお願いしたい。

 昨今、ホタルは勿論、チョウやトンボでも撮影現場で「もしかして古河さんですか?」とお声を掛けて頂くことが多い。情報交換もさせて頂き、喜ばしい限りである。

以下の掲載写真は、写真をクリックしますと別窓にオリジナルサイズで表示されます。 また動画は 1920×1080ピクセルのフルハイビジョンで投稿しています。設定をクリックした後、画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

ヒメボタルの写真
ヒメボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / バルブ撮影 F2.8 焦点距離 23.0mm 25分露光相当の多重 ISO 1600(撮影日:2020.7.23)
ヒメボタルの写真
ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 1分30秒露光相当の多重 ISO 1600(撮影日:2020.7.23)
ヒメボタルの写真
ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 18分露光相当の多重 ISO 1600(撮影日:2020.7.23)
ヒメボタルの写真
ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 18分露光相当の多重 ISO 1600(撮影日:2020.7.23)
森の妖精 ヒメボタル
(動画の再生ボタンをクリックした後、設定設定をクリックした後、画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンに しますと高画質でご覧いただけます)

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ヒメボタル(東京2020)

2020-07-12 18:45:12 | ヒメボタル

 ヒメボタルは、東京都内にも生息している。東京には、自身のこれまでの調査・観察で、かなり広範囲にヒメボタルが分布していることが分かっているが、いずれも人里離れた山奥であり、観賞者や撮影者もほとんどいない。今年訪れた場所は、2004年に私が生まれて初めてヒメボタルを見た場所であり、2009年に撮影した私の写真(写真3)が、おそらく初めて「東京都内のヒメボタル」を記録したものであろう。
 この場所は、国道から沢沿いのすれ違いのできない細い道を5Kmほど進み、さらに悪路な林道を3Km弱登った所である。2004年から観察と撮影で通い始めた。2004年は、雨が降っておりヒメボタルも数匹しか飛んでいなかったが、2005年は、数え切れないほどのヒメボタルが乱舞していた。しかしながら、撮影技術が確立しておらず、まったく写らなかった。2006年に訪れた時は、発生がゼロの状態。ヒメボタルの発生期間は、およそ10日ほど。私は週末の土曜日しか訪れることができない。つまり、ヒメボタルの発生ピークと私の都合が合致しなければならない。そして次に天候状況がよくなければならない。ゲンジボタルと同じで、月明かりのがなく気温が高くなければ発光飛翔は少ないのである。結局、6年の月日が過ぎ、ようやく2009年7月11日に条件が合致した。
 18時、まだ明るい時間に到着し、カメラを据える。静かに夜を待つ。19時半。ヒメボタルが光り始める。落ち着いてシャッターを切る。OLYMPUS OM-2 に ZUIKO 50mm F1.8 、ISO1600のネガフィルムで長時間露光である。勿論、合成写真ではない。露光している長い間は、ヒメボタルの行動をじっくりと観察。21時。辺りは真っ暗で、一寸先も見えない。静寂の中に、時折、鵺(ぬえ-トラツグミ)の声が林に響き、落ち葉が斜面を転がる音がする。横溝正史の長編推理小説「金田一耕助シリーズ」の一つ「悪霊島」の映画のキャッチコピー「鵺の鳴く夜は恐ろしい…」の鵺である。確かに不気味な感じた。
 その静寂をうち消すように、背後の雑木林から下草を力強く踏みしめる大きな音がしてきた。ゆっくりと右へ左へ、そして近づいてくる。ツキノワグマである。山間部で頻繁に出没しているらしいが、まさかこの場所で出くわすとは思わなかった。ましてこんな所に一人きりである。音を出せばよいのか、静かにしていればよいのか・・・ただ、6年かけてやっと遭遇したこのチャンスを逃すわけにはいかず、恐怖と戦いながら撮影を続けた。十分な露光時間が過ぎたのを確認した後、急いで撤収。麓までの長い道のり、恐怖心は続いていた・・・

 この東京のヒメボタル生息地には、昨年10年ぶりに訪れデジタルカメラで撮影したが、思うような結果が得られなかった。2009年のフィルムよりも美しい写真を デジタルで撮影し、どうしても残しておきたい。そこで、本年も挑戦したのである。
 今年も徒歩である。カメラ2台と三脚2本を背負いながら濡れた悪路を登る。蒸し暑さに汗が噴き出る。生息場所には18時前に到着し、ヒメボタルの通り道2カ所にカメラをセットした。後はひたすら待機である。今回は、持ったきた携帯ラジオを付けた。情報では5月頃にクマが出たというので、クマよけのために大音量で流した。
 気温23度で曇り。無風。曇り空は、夜になっても雲が都会の明かりを反射して明るいので最高の条件とは言えないが、蒸し暑さに期待が膨らむ。19時半に近づく頃が一番不安に駆られる。周囲は暗くなり、そろそろ光始める時間であるが、光らなければ恐怖が襲い掛かるからだ。今回は、何とか19時34分に1頭が光ってくれたので一安心。後は、どのくらい発生しているかだが、なかなか後が続かない。何となく何頭かの光は見えるような気はするが、一向に飛ばない。ようやく数頭が発光飛翔を始めたが、すべてフレーム外の場所。今年カメラを向けた方向は、通り道ではあるものの、曇り空の影響で下草が明るくなっていることが原因だろう。
 20時半になり、随分と暗さが増したが、肝心のヒメボタルは谷の下では発光しているが、なかなか斜面を登ってこない。何故だろう?試しに、クマよけのために大音量で流していたナイター中継を消してみたところ、杉林に静寂が広がり、谷の下からヒメボタルが上がってくるようになった。より暗さが増したことによるのか、音の影響かは定かではない。ゲンジボタルは、轟音のする渓流でも飛んでいるため「音」が飛翔に影響していることはないと思うが、ヒメボタルは音に敏感だと言う方もいるので、根拠はないが、ひょっとしたら音波振動を感知しているのかも知れない。
 21時。急に霧が立ち込めてきて、ヒメボタルも発光しなくなったため、カメラをカバンにしまっていると雨が降ってきた。晴れ間もでる予報であったため傘はない。仕方なく、生い茂る木々の下を通りながら、登ってきた林道3km弱を下った。幸運にもクマは出現せず、何年経ってもヒメボタルの変わらぬ光景を観察できたことに感謝したい。

 インターネットで「ヒメボタル」の画像を検索すると、たいへん多くの写真がヒットする。そのほとんどがデジタル写真で、ヒメボタルの光溢れるものばかりである。勿論、ヒメボタルの生息地によっては多数が乱舞し、1分足らずの一発露光でも光の絨毯に写るところもあるが、これら写真の多くは多重合成によって作られた写真である。それはそれで1つの創作作品として評価してよいとも思うが、昨今の撮影者は、インスタ映えするそのような写真を撮ることだけを目的に、生息地に群がり撮影している。これには、疑問を感じてしまう。また、写真を見る側も、そうした写真を「美しい」と評価してしまうことも問題だ。
 私は、プロの写真家ではないし、カメラマンと呼ばれるのも好きではない。ホタルの研究者として、その生態や生息環境を調べており、ヒメボタルも記録として写真を撮影し残している。当然、今ではデジタルカメラで撮影しているが、写真はインスタ映えを狙ってこれでもか!というように多重合成したものではなく、どのような自然環境をどのように発光飛翔しているのかが分かるように、そして構図なども考えながら、生態写真となるよう撮ってきたつもりである。今回は、これが、ヒメボタルの発光飛翔の生態写真、これが、東京のヒメボタルだ!と言える価値あるものが残せたように思う。
 これは、翅がなく飛ぶことが出来ない可憐な彼女と結ばれたいと飛び回る健気な彼氏の愛の光跡である。

 次週以降は、初めて訪ねるヒメボタルの生息地の光景、そして何度も写真を撮影している所での動画撮影を予定している。

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ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 3分相当の多重 ISO 640(撮影地:東京都 2020.7.11)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 7D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / バルブ撮影 F2.8 3分相当の多重 ISO 1600(撮影地:東京都 2020.7.11)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
OLYMPUS OM-2 / ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8 / FUJICOLOR NATURA 1600 / バルブ撮影 F1.8 60分(撮影地:東京都 2009.7.11)

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ヒメボタルの写真について

2020-06-07 17:41:20 | ヒメボタル

 ヒメボタルの写真は、単にインスタ映えするという理由から昨今ではインターネット上に大変多くの写真が溢れ、またそれを撮ろうとヒメボタルの生息地には、大勢のカメラマンが群がっている。
 ちなみに、ここで言うヒメボタルの写真とは、マクロ撮影ではなく、乱舞している光景の写真についてである。

 私がホタルの写真を撮り始めたのは、今から40年以上も前からであるが、ほとんどが成虫等を接写した生態写真であった。勿論フィルムである。飛翔風景はネガでもポジでも難しく、何とか見せられる写真が撮れるようになったのは2000年頃であった。ヒメボタルの写真を撮り始めたのは2004年だったが、ゲンジボタルやヘイケボタルよりも難易度が高く、やっとフィルムで奇麗な写真が撮れたのは2009年で、ISO1600のネガフィルムで1時間近く露光したものである。
 フイルムで苦労していたところ、2006年あたりからデジタルカメラが広く普及し始め、私も2009年の秋からデジタル一眼レフ(現在も愛用の Canon EOS 5D Mark Ⅱ)を使い始めたが、デジタルで、フィルムと同じような長時間露光でホタルの飛翔風景を撮ろうとすると、数分が限度で、あまり長い時間露光するとノイズがひどくて良い結果は得られなかった。
 ところが、新しい撮影方法により、フィルムに勝るとも劣らない画像を得られるようになった。それが、パソコンソフトによる合成である。今では、デジタルカメラも進化し、撮影時にカメラ内で自動で背景と光を重ね合わせてくれる機種も登場しており、パソコンソフトでの作業とともに、ホタル撮影では一般的な方法となっている。フィルムにおいても、長時間露光ではなく、予め撮影した背景に多重露光によってホタルの光を重ねることもできたが、露出計算が難しく、結果は現像してからでなければ分からなかったが、デジタルは楽である。(参照:ホタル写真の変遷
 誰でも簡単にホタルの飛翔風景が撮れるようになった昨今、インスタ映えするヒメボタルの写真を撮ろうと、生息地にカメラマンが群がっているのである。

 ヒメボタルの写真は、確かに幻想的で美しい。撮るのは自由である。私も各地で撮影しているが、私は撮影者であると同時に観察者として現場に立っている。ホタルの生態や生息環境について調べ始めて48年以上経ったが、未だに分からないことが多い。そのため、ホタルの飛翔風景写真を撮影する場合は「ホタルがどんな環境に生息し、どのように光りながら飛んでいるのかが分かるように、そして、その貴重な場面を証拠として残すこと」を目的としている。ヒメボタルでもゲンジボタルでも、他のホタルでも同様である。
 では、インターネット上に溢れる多くのヒメボタルの写真はどうだろうか。そんなに飛翔していなくてもパソコンソフトで何十枚、何百枚と重ねて、光あふれるように作ったり、実際は飛んでいない場所に合成している写真も目に付く。写真芸術という観点から逸脱するものも目立つが「創作」を前提にしたならば、これらに苦言を呈する気はない。問題なのは、写真という結果を求めるだけで、ヒメボタルの生態を理解せずに生息地に群がるカメラマンの姿勢と態度である。更には、乱舞の様子を軽々しく報道するメディアである。

 これは高知県のヒメボタルの生息地での出来事である。いつもは誰もいない夕方の散歩コースに自動車が何台も止まっていたという。ある人物が、ヒメボタルの写真を撮らせようと県外からも大勢を呼び寄せたのだと言う。写真が撮れれば良いだけで、生息場所を荒らすなどの行為も目立ち、更には、撮った写真を新聞社に売り込んだと言う。地元の方々は、「県外への移動自粛が今月末まであるのに呼ぶ方も来る方も許し難い。自然破壊、生息地荒らしなど何にも考えない人間に風景写真は撮らせたく無い!」と叫んでいる。新聞社は、何枚も合成された光溢れる写真とともに「儚い命・・・」として記事にしている。
 私が10年前に撮影していたヒメボタルの生息地数か所では、当時は誰もおらす私一人で撮影と観察をしていたが、今ではカメラマンで溢れている。撮るのは自由である。ただし、ヒメボタルの生態は、予め学んでくるべきである。写真を撮りたいから「光害」に関してはある程度気を使っているが、メスや幼虫がいるであろう生息地内に踏み込む行為も散見される。ネット上では、インスタ映えを狙ってか、ヒメボタルが飛翔する場所に番傘を置いて撮った写真も見受けられる。言語道断な行為であり、ヒメボタルを撮る資格はない。マナー云々の問題ではなく、自然保全の鉄則は守らなければならない。
 今年も、7月末まで各地でヒメボタルが舞う。是非ともヒメボタルの写真は、単にインスタ映えの自己満足に終わらせることなく、貴重なヒメボタルと自然環境を保全するための一枚になるようお撮り頂きたいと思う。またメディアも、何も考えず安易に報道するのではなく、その記事の裏側や影響を良く考えて書いて欲しい。

 以下には、過去にデジタル一眼レフで撮影したヒメボタルの写真を数点掲載した。過去の撮影であるにも関わらず、今回初めてRAW現像した写真と動画もある。飛翔写真6枚は、背景もヒメボタルの飛翔時刻に同時に撮影したもので、1と2枚目は、これでもかという位にヒメボタルの光を重ね合わせたものである。背景となる木立のカットがなくても、ヒメボタルの光だけで木立の様子が分かる。乱舞する生息地に違いないが、実際に一度にこれほどの数が飛翔しているわけではない。3枚目は、畑の上を飛ぶヒメボタルの光跡を撮影したものだが、写真を見る一般の方々に受けるのは、写真1、2であることが悲しい。
 人々の興味や感情はうつろいやすいものである。「インスタ映え」を目的としてパソコン上で作り出した偽りではなく、真に感動を表現した写真でなければ、その内、飽きられてしまうだろう。写真を見る方々も、騙されることなく冷静になって撮影者の心を見抜く力を養っていただきたいと思う。
 私は「ホタルがどんな環境に生息し、どのように光りながら飛んでいるのかが分かるように、そして、その貴重な場面を証拠として残すこと」を目的とし、感動の写心を撮れるよう努力していきたい。

昨年、最後に撮影したヒメボタルの写真は、こちら「ヒメボタル(東海)

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ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 20分相当の多重 ISO 6400(撮影地:静岡県 2017.7.23)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 20分相当の多重 ISO 6400(撮影地:静岡県 2017.7.23)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 3分相当の多重 ISO 1600(撮影地:埼玉県 2016.6.05)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 3分相当の多重 ISO 1600(撮影地:埼玉県 2016.6.05)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 3分相当の多重 ISO 800(撮影地:埼玉県 2010.6.06)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 3分相当の多重 ISO 1600(撮影地:埼玉県 2012.6.08)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
OLYMPUS OM-2 / ZUIKO MC AUTO-MACRO 50mm F3.5 / KODACHROME64 Professional(撮影地:東京都 2009.7.06)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 6秒 ISO 400(撮影地:埼玉県 2011.6.04)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 映像からの切り出し(撮影地:山梨県 2010.7.19)

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE(撮影地:埼玉県 2016.6.5)

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ヒメボタル(東海)

2019-07-22 22:57:13 | ヒメボタル

 ヒメボタルの観察と撮影で東海地方へ。ホタルの話題ばかりが続くが、これが、今期最後のホタル紀行になろう。
 ヒメボタルの生息地は、ミズナラやカラマツ原生林であり、2010年から訪れている。ここでの写真撮影は今回で4回目であるが、これまで一回も美しく撮れていなかった。 いずれもデジタルカメラでの撮影であったが、1回目は、飛翔が始まってからの長時間露光撮影のため写真的・生態学的には価値はあっても見栄えは寂しい写真。2回目は、山梨県の生息地で撮影した後に立ち寄ったため、背景となる自然環境が撮れていない。そして3回目は、200枚ほど撮影していながら、レンズキャップを外し忘れて撮ってしまったため、すべて真っ黒で何も撮れていなかった。今回は、そのリベンジである。
 自宅を14時半に出発し、現地には17時に到着。まずは念入りにロケハン。年によって飛翔の中心となる場所が異なるが、飛翔密度よりも「飛翔する自然環境を明確に残す」事に重点を置いてカメラをセットする。写真は「自然風景写真」でもあるから、結果を想像しながら構図にも気を配る。フレーム内をヒメボタルが飛んでくれなければ、全く絵にならないが、そこは知識と経験と勘が勝負。カメラは2台体制である。それぞれ正反対の向きに向け、趣の異なった環境下での飛翔風景を狙うことにした。後は、発光飛翔するまで待機である。

 ここのヒメボタルは、深夜型で23時頃から活発に発光飛翔するタイプであるが、今回、観察している中で当地特有の3つの発見があった。

  1. 深夜型であっても、20時頃から発光を始める個体が何頭か存在する。(ただし、飛翔はない。)
  2. 高さ5m以上の梢で発光を始めた個体がいる(下草に丈がないためか、日中は、下草ではなく高い梢で休んでいる。)
  3. 真っ暗な森の中の方よりも、林縁付近の明るい場所での発光飛翔が多い。

 たいへん興味深い事実であるが、やはり23時を過ぎた頃から発光飛翔が多くなった。

 今回、撮影に使用したカメラは、私のホタル撮影では定番のフルサイズ機にF値1.4のカールツァイス50mmの単焦点レンズと、APS-Cサイズ機にEF17-35mmの広角ズームレンズである。後者の組み合わせは、昨年、「ヒメボタル(岩手県折爪岳)」で使用したが、あまり広角過ぎるとヒメボタルの光が小さくなるため、寂しい感じになってしまう。そこで、今回はひと工夫した。画角は構図優先。結果は、自己満足の範疇ではあるが、2点とも当地らしい「ヒメボタルの生息自然環境と発光飛翔」の絵になったと思う。尚、写真は、どのような環境下をヒメボタルがどのように発光飛翔しているのかを分かりやすくするために、背景を明るく撮っている。実際は、ヒメボタルが発光飛翔する時間帯の森の中は真っ暗で、背景は全く見えない。暗闇にヒメボタルの光だけが見えるだけである。(今回も、写真撮影に集中したため動画は撮らなかった。)
 掲載した2点の写真は、ヒメボタルの発光色が異なっている。撮影機材の違いからだと思うが、どちらの発光色も間違いではない。見た目でも、ヒメボタルの発光色は、黄色や白色に見えたり、黄金色にも見える。
 天気は曇りで無風。気温22℃(18時)19℃(1時)は、最良の条件でもあり、発生のピークと重なってくれれば、多くの発光飛翔が期待できるが、メスは未発生のようで、また、ピーク時に見られる森の外へ出て発光飛翔する様子もなかったので、おそらく数日後がピークであると思われる。

 さて、ここのヒメボタル生息地は、2011年当時は、誰一人と来ることがなかった。しかし、テレビでも紹介され、またネットでも情報が発信されたこともあってか、昨今では撮影者と観賞者が多くなってきた。人が多くなれば、目立つのはマナーの悪さである。
 深夜型のヒメボタルは、23時頃からが活動のピークを迎えるが、18時前から5時間も待つ人々は少ない。多くは、暗くなってからやってくる。そもそも、森のすぐ脇が広い駐車場になっていることが問題なのだが、暗くなってから来たのでは、駐車する向きは森に頭を向けるから、ヘッドライトが森の中を照らすことになる。車が来る度に、ヒメボタルは発光を止めてしまうのだ。灯りは、繁殖を阻害するのである。今回、気なったのは次の3つ。

  • いつまで経ってもライトを消さず、消して頂くようお願いすると「ここは、駐車場だ!」と逆切れするカメラマン
  • 発光飛翔がピークにも関わらず、森の中でライトを照らしてカメラの設定を変えるカメラマン
  • 懐中電灯を照らしながら「歩行者優先だからな」と言って森の中を歩く若いカップル

 誰も分かっていない。ここは、カメラマン優先でも、歩行者優先でもない。ホタルが最優先である!灯りを嫌うのは、誰でもない。ホタルだ。
 私は、明るい時間に現地入りするが、真っ暗な林道でも、5分も居れば目が慣れてくる。懐中電灯は要らない。帰る時は、活動時間が終わってから、森を照らさない方向に車を向けてからライトを点灯させる。どこへ行っても同じ。場所によっては数キロ歩いて生息場所に向かう。これは、ホタルの観察、観賞、撮影のマナー、と言うよりもルールだと思っている。

 ヒメボタルは、日本全国すべての生息地が自然発生である。岩手県の折爪岳のように自治体が通行規制を行って車での侵入をできないようにしているのは稀な例であり、多くは国有地や私有地でその場に管理者等はいない。観賞や撮影時のマナーやルールについては、インターネットは勿論、新聞やテレビでその都度訴えているが、なかなかな浸透していないのが現状だ。ここのヒメボタルも、今のままの状態で、これ以上人々が訪れれば、急激に減少してしまうかも知れない。
 「ホタルを撮る見る。」は良いことだと思う。特に、若いカップルが自然に触れようと思い、訪れることは素晴らしいと思う。ただし、もう一歩思いを巡らせ、ホタルと自然環境を保全するための知識を持ち、エコツーリズムの精神で接することが何より大切だ。

参照:ヒメボタル(静岡2021)

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ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 22分相当多重 ISO 1600(撮影地:東海地方 2019.7.20-21)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / EF17-35mm f/2.8L USM / バルブ撮影 F2.8 35分相当多重 ISO 1600 (40mm相当) / PRO1D プロソフトン[A](W)使用(撮影地:東海地方 2019.7.20-21)

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ヒメボタル(山梨)

2019-07-21 13:07:05 | ヒメボタル

 ヒメボタルの観察と撮影で山梨県へ。先週は、東京都の貴重なヒメボタルを観察してきたが、今回は、2008年から頻繁に訪れている山梨県内の生息地へ行ってきた。
 車を止め、急な登山道を15分ほど登る。見上げても空が見えない森の中に一人であるが、先週のような恐怖感はない。かなり離れてはいるが、麓の人々の声や車の音が聞こえるからだろう。撮影者も 観賞者も誰も来ない標高約1,000mのポイントには18時半から待機。毎回、撮影位置や方向を変えて撮影しているが、今回は、2009年当時と同じ尾根から南斜面にカメラを向けた。気温22℃。ときどき小雨。風が幾分強い。
 19時20分に1頭が発光を開始。20時には発光数が増えるが、ほとんどがカメラを向けていない北斜面での飛翔。南斜面は、相変わらず麓から風が吹き上げており、また残照で少し明るい。一方、北斜面は暗く風が吹きこまないからであろう。15分ほどすると風も収まり、南斜面も暗くなると、ヒメボタルたちが斜面を往復するようになった。カメラを向けた斜面は、通り道なのである。残念ながら、再び風が強くなってきたため、20時半にはまったく発光飛翔する個体がいなくなってしまったので、こちらも撤収。
 例年、この時期の発生だが、今回の発光飛翔数は、多かった年の3分の一程度。今年は、4月の寒の戻り、長梅雨に梅雨寒といった状況であるから、この日が発生のどの段階なのかは分からないが、 メスが見られないことから、発生の初期であるように思われる。そうならば25日前後がピークであろう。

 先週の東京のヒメボタル同様に、今回も撮影時間が短く、更には乱舞状態ではなかったことで写真撮影に徹したため、動画は撮影しなかった。写真の丸い光跡は、ゆっくりと発光飛翔した個体で、細長い光跡は早いスピードで発光飛翔した個体である。また、参考として2009年にフィルムで撮影した写真も掲載した。

参照:ヒメボタル(山梨2021)

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ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 8分相当多重 ISO 1600(撮影地:山梨県 2019.7.19)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 3 / EF 50mm F1.4 USM / FUJICOLOR NATURA 1600 / バルブ撮影 F1.4 30分連続露光(撮影地:山梨県 2009.7.18)

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東京のヒメボタル

2019-07-15 17:08:27 | ヒメボタル

 東京のヒメボタルを観察し撮影するために、10年ぶりに生息地へ行ってきた。東京には、自身のこれまでの調査・観察で、かなり広範囲にヒメボタルが分布していることが分かっているが、今回訪れた所は、標高およそ730mの杉林で数少ない群生地である。今まで、岩手、埼玉、千葉、山梨、静岡の各県でヒメボタルを観察し 撮影してきたが、この東京のヒメボタルは、他の県にはない独特な雰囲気がある。それは、行って見たものしか味わうことができない。
 当地には、2004年から通っているが、なかなか良い写真を撮ることができなかった。2006年は、数え切れないほどのヒメボタルが乱舞していたが、撮影技術が確立しておらず、まったく写らなかった。2007年に訪れた時は、発生がゼロの状態。この場所でのヒメボタルの発生期間は、およそ10日ほど。私は週末の土曜日しか訪れることができない。つまり、ヒメボタルの発生ピークと私の都合が、まず合致しなければならない。そして次に天候状況がよくなければならない。その後も観察は出来ても写真は失敗の連続。結局、6年の月日が過ぎ、ようやく2009年7月に何とか満足できる東京のヒメボタルの飛翔風景を撮影することができた。
 今回は、観察の他、デジタルカメラで飛翔風景を奇麗に残すことが目的であるが、2010年からデジタルカメラを使い始めても、今回まで一度も行かなかったのには理由がある。当時(2009年)一人で撮影中にツキノワグマに遭遇し、恐怖と戦いながら撮影を続けたことがトラウマになっていたからである。今回、意を決して臨んだわけだが、不安材料が山積で、当日の朝から緊張状態が続いた。

  1. 土砂崩れ等なく、生息地まで行けるか?
  2. 車でどこまで行けるか?
  3. 生息環境は変わっていないか?
  4. 肝心のヒメボタルはいるか?
  5. クマに合わず、無事に帰れるか?

 東京のヒメボタル生息地へは、すれ違いのできない細い林道を7kmほど登る。途中からは、かなりダートなスーパー林道だ。 かつて乗用車で行った時は、床を擦り、尖った石でパンクもした。親友と二人で徒歩にて登ったこともあるが、さすがに一人での往復は怖い。軽トラなら、何とか上まで行けるだろうとレンタカーを事前に予約。しかし、軽トラのはずが5ナンバーのボンゴ。「軽トラが用意できなかったので、すみません。料金は軽トラと同じで良いです。」荷物を運ぶなら嬉しいだろうが、使う目的が違うのだ。
 天気は小雨。16時から林道に入る。不安が的中。林道途中でスリップして立往生。ハンドル操作を誤れば谷へ落ちる林道をバックし、何とかUターンして若干広い所へ寄せた。「このまま帰るか・・・いや、ここまで来て帰るわけにはいかない。」トンボやチョウの撮影なら諦めて帰るところだろうが、ホタルを研究する者としての意地がある。葛藤の末、残り1Kmを徒歩で向かうことにした。(仮に車で登ったとしても、最終的な群生場所までは、徒歩になる。)

 17時半。群生地に到着。生息環境はまったく変わっておらず一安心。ヒメボタルが光ることを期待しながら、10年前とは違った構図で撮るためにカメラをセット。ここのヒメボタルは薄暮型で、ゲンジやヘイケと同じ19時半頃から光り始める。23時頃から光り始める深夜型であれば、絶対来ないだろう。それにしても、ちょっと早く来すぎた。暗くなるまで2時間以上ある。カメラの傍で傘を差しながら待つ。辛い。山奥の山林に一人。漆黒の闇。梢から滴る雨音にも敏感に反応する。怒涛のように押し寄せる恐怖と緊張の連続。
 19時半。かなり暗くなってきた。前回は、この時間に光り始めたが、今回は光らない。絶滅してしまったのか?あるいは発生時期がずれたのか?20時まで待って光らなかったら帰ろうと決め、暗闇を見渡す。すると、19時40分。1頭のヒメボタルが発光を始めた。「いてくれた!」
 次第に発光数が増え、見渡す中では10頭ほどで、カメラのフレーム内には数頭が飛翔してくれたが、飛翔開始から30分もすると霧が濃くなり、ヒメボタルは発光も飛翔も止めてしまったので、こちらも撤収。インスタ映えする写真ではないが、とりあえず目的は達成できた。滑落しないように山側の林道を慎重に降り、クマに遭遇することもなく、無事に車まで到達。帰路に就いた。実は、麓近くの渓流にはゲンジボタルが生息しており、2013年を最後に訪れていなかったが、帰る途中に橋の上から渓流を見ると、3頭のゲンジボタルがゆっくりと光りながら飛んでいた。しかしながら、一番美しく見えた場所は開発が進み、かつての素晴らしい景観はなかった。

 東京のヒメボタル。かつて乱舞を目撃した年に比べれば、物足りなさはあるが、まずは、10年前と何ら変わることなく生き続けていてくれた事が何より嬉しい。昨今、他の地域では発生が年々早まっており、また今年は4月に寒の戻り、そしてこの梅雨寒といった気象であるから、当地でも発生時期が以前とは異なってきている可能性がある。また2004年、2006年・・・と2年毎に発生数が多いサイクル(ヒメボタルは成虫になるのに2年かかる)なので、今年は少ない年だったかも知れない。不安材料はクマだけになったので来年以降、毎年通いながら、観察と調査をしていきたいと思う。
 昔は、ヒメボタルを撮ることは難しかったが、今のデジタルカメラでは、誰でも簡単に写すことが出来る。しかもヒメボタルはインスタ映えするという理由から撮影者が急増。5~6年前は 誰一人いなかった埼玉と静岡の生息地は、今ではカメラマンで溢れている。中には、ヒメボタルの生態を知らない撮影者もいるからマナーの悪さも目立つ。単にヒメボタル観賞に来る人々は、もっとマナーが悪い。幸いこの東京のヒメボタルには、カメラマンも鑑賞者も来ない。ただし、杉の大規模な伐採があれば、林床が乾燥して絶滅してしまう恐れはある。今後、しっかりと見守っていきたい。

 今回は、飛翔時間が短かったため映像はなく写真のみの撮影。参考までに、2009年にフィルムで撮影した東京のヒメボタルの写真2点と2006年に麓の渓流で撮影したゲンジボタルの写真1点も掲載した。先にも述べたが、この光景は、もう見ることが出来ない。写真の左側の山林が削られて建物が立ち並び、渓流は灯りで照らされていた。

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ヒメボタルの生息環境の写真

ヒメボタルの生息環境
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / 絞り優先AE F13 35秒 ISO 50 -1 1/3EV(撮影地:東京都 2019.7.13)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 ISO 1600 8分相当の多重露光(撮影地:東京都 2019.7.13)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
OLYMPUS OM-2 / ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8 / FUJICOLOR NATURA 1600 / バルブ撮影 F1.8 60分の長時間露光(撮影地:東京都 2009.7.11)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
CANON EOS-3 / EF 50mm F1.4 USM / FUJICOLOR NATURA 1600 / バルブ撮影 F1.4 60分の長時間露光(撮影地:東京都 2009.7.11)

ゲンジボタルの写真

ゲンジボタル
OLYMPUS OM-2 / ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8 / Ektachrome 320T Professional / バルブ撮影 F1.8 3分の長時間露光(撮影地:東京都 2006.7.02)

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ヒメボタルの交尾~孵化

2019-06-25 20:31:47 | ヒメボタル

 ヒメボタル Luciola parvula Kiesenwetter 1874 は、幼虫が陸地で生活する陸生ホタルで、成虫はゲンジボタルとヘイケボタルのようによく発光するホタルである。フラッシュのように明滅する独特な発光が写真映えするため、昨今では多くのカメラマンが生息地を訪れ写真を撮っている。ネット上に溢れるヒメボタルの飛翔写真は、どれも美しい。しかし、見た目とは大きくかけ離れた創作写真が大半を占めている。撮影方法やそれら写真の批評については別の機会に述べるとして、この記事では、誰もが撮る飛翔写真ではないヒメボタルの姿を掲載したいと思う。(尚、写真はすべて飼育個体で、自宅室内での撮影である。)

 ヒメボタルの発生期間は短く、7~10日間ほどである。メスには羽ばたく下翅がなく、地面や草の茎、枝などに捕まりながら発光し、それに惹かれてやってきたオスと交尾し、翌日には卵を産み始める。産卵数は少なく、およそ30~90個ほどである。メスの体長はおよそ6mmしかないが、卵は直径約0.7mmで、ゲンジボタルの卵と比べてもかなり大きい。一度に全部の卵を一か所にかためて産卵する個体もいれば、数日間に渡って土の上に数個ずつバラバラに産む個体もいる。

 ヒメボタルの卵は、およそ20日(積算温度約435度日)で孵化する。ゲンジボタルの場合は、卵がだんだんと黒くなるので(卵の中の幼虫が見える)孵化が間近であるかどうかが分かるが、ヒメボタルの場合は、最初から最後まで卵はレモン色のままである。孵化した幼虫(およそ1.4mm)には模様がなく、レモン色であるためだ。孵化して2日ほどすると、少し茶色に色づいてくる。
 孵化で興味深いのは、かなり遅れて孵化する卵があるということである。クロマドボタルでは、産卵後一カ月で孵化するものと、秋になってから孵化するものが混在しているという。ヒメボタルの場合も、十分考えられる。今後の研究課題である。
 孵化した幼虫は、落ち葉や土の隙間等で過ごし、夜になるとオカチョウジガイやキセルガイ等の陸生巻貝、ミミズなどを食べ、1~数年かかって成虫になる。

 ヒメボタルの産卵数が少ないのは、環境が安定しており、生存率も高いからであるが、逆に言えば、環境が激変すれば一気に減少するということである。飛翔写真の撮影で生息域内に立ち入れば、土の上にいるメスや産んだ卵を踏んでしまうことにもなる。生態を学んだ上で、撮影を楽しんでほしい。

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ヒメボタルの写真

ヒメボタル(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F11 16秒 ISO 400

ヒメボタルの写真

ヒメボタル(交尾)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/60秒 ISO 400 +2/3EV

ヒメボタルの写真

ヒメボタル(交尾)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F8.0 1/60秒 ISO 400 +2/3EV

ヒメボタルの写真

ヒメボタル(交尾)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 1/60秒 ISO 400

ヒメボタルの写真

ヒメボタル(産卵)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F16 1/60秒 ISO 400

ヒメボタルの卵の写真

ヒメボタル(卵)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F20 1/8秒 ISO 3200

ヒメボタルの卵の写真

ヒメボタル(卵)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 1/60秒 ISO 400

ヒメボタルの卵の写真

ヒメボタル(発光する卵)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 114秒 ISO 6400

ヒメボタルの写真

ヒメボタルの雌雄背面(左:オス 右:メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F16 1/50秒 ISO 3200

ヒメボタルの写真

ヒメボタルの雌雄腹面(左:オス 右:メス) / オスの複眼の方が大きい。
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F20 1/100秒 ISO 3200

ヒメボタルの写真

ヒメボタルの雌雄腹面(左:オス 右:メス) / 死んでもしばらくは発光し続ける
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F2.8 10秒 ISO 400

ヒメボタルの孵化写真

ヒメボタルの孵化
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F14 1/15秒 ISO 3200 -1/3EV

ヒメボタルの孵化写真

ヒメボタルの孵化
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F14 1/15秒 ISO 3200 -1/3EV

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ヒメボタルの映像(動画)

2018-07-24 20:03:13 | ヒメボタル

 ヒメボタルの映像(動画)を作成したので紹介したい。ヒメボタルは、今年、岩手県二戸市の折爪岳において撮影してきた。写真は、「ヒメボタル(岩手県折爪岳)」をご覧頂きたいが、この記事では、その時に撮影した映像(動画)と2012年に某所にて撮影した映像(動画)も一緒に公開した。

 ヒメボタルの写真は、インスタ映えするフォトジェニックな点で、昨今、大勢のカメラマンに人気があり、多くの写真が投稿されている。筆者の最近の写真もそうであるが、これらはヒメボタルの生態学的価値よりも写真の見栄えを重視したもので、数十分間の露光に相当するカットを合成したものである。写真は、作り上げた創作作品であり、実際の見え方とは全く違う。こうした写真は、ヒメボタルの魅力を現したものではなく、単に「いいね!」や「コメント」を増やす目的としか思えない。中には、ヒメボタルが飛翔する場所に和傘を置いて撮影した写真すら存在する。和傘を置くために立ち入り、地面にいるメスを踏みつぶしているかも知れない。世に溢れるヒメボタルの創作写真を見ていると、悲しささえ感じてくる。
 SNSに投稿される多くのヒメボタルの写真はインパクトがあるが、合成枚数を増やした撮影者による「創作作品」である。海外を含め多くの人々を魅了する写真であっても、それは撮影者の立場だけで撮ったもので、写真の美しさを感じるだけでしかない。
 我々ホタル研究者は、ホタルの生態とその生息環境を研究しているが、その保全についても啓蒙していかなければならない。その一端としての「ホタル写真」は、写真芸術的にも、ホタルの生態学的にも認められる写実でなければならない。この光景を作る「ホタルと自然環境」を守ろうと思いを馳せて頂くものでなければならないと思っている。

 ヒメボタルの生息環境は様々で、原生林の他、雑木林、竹林、河川敷の林などに生息している。かつては「森のホタル」と言われ、林や森の中だけで発光すると思われていたが、発光時間になると森や林から出てきて、開けた畑の上や道路まで出てきて乱舞する様子を観察している。活動時間も地域性があり、ゲンジボタルと同じ時間帯、19:30~21:00頃(動画2)や深夜22:00~02:00頃(動画3)に活発に発光しながら飛翔する。
 これまでヒメボタルの映像(動画)は、Youtube等でもあまり投稿されておらず、背景も一緒に映しこんだ映像(動画)はほとんどないように思う。また、ヒメボタルの発光の様子を見たことがない方々の中には、これを「ホタル」とは思わない方もいるかも知れないが、これが「ヒメボタル」である。
 ヒメボタルの映像(動画)は、写真のようなインパクトはないが、見た目にほぼ近い光景で、ヒメボタルの発光の仕方や飛翔の様子も分かる。今後は、写真とともに動画を撮影し、ヒメボタルやゲンジボタルの真の魅力を伝えていこうと思う。映像(動画)を通じて、自然の豊かさや大切さに思いを馳せて頂ければ幸甚である。

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ヒメボタルの映像(動画1)

ヒメボタルの映像(動画2)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE(撮影地:岩手県二戸市/折爪岳 2018.7.14)

ヒメボタルの映像(動画3)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE(撮影日: 2012.6.08)

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ヒメボタル生息地

2018-07-22 15:37:55 | ヒメボタル

 ヒメボタルの写真は、本年は二か所の生息地で撮影を予定し、一ケ所は「ヒメボタル(岩手県折爪岳)」で紹介した。そしてこの週末、次の目的の場所で撮影を行ったが、ブログタイトルを「ヒメボタル生息地」とした。現地に17時に到着し、18時半に生息環境を撮影。濃霧と雨のためにカメラにカバーを被せて、深夜型ヒメボタルが発光を開始するまで車内で待機。天候も良くなり、22時半から翌午前0時まで撮影したのだが、レンズキャップを付けたまま撮影し、結局、撮影した数百枚は真っ黒で何も写っていないと言う痛恨のミスを犯してしまった。三日連続で深夜まで撮影する気力がなく、仕方なく今年は生息環境の写真のみの掲載で終了。この原生林に舞う様子を想像して欲しいと思う。
 2枚目は、同生息地において2011年に撮影したものである。昨今、過度な合成でヒメボタルの光が溢れる写真が多いが、こちらは合成なしの長時間露光である。今回の失敗は反省しなければならないが、この失敗のお陰で「ホタル研究者が写すホタルの写真」のあるべき表現に気が付いた。ホタルの光跡を溢れるばかりに合成枚数を増やせば、インパクトのある「創作作品」にはなるが、 あくまでも撮影者による「創作作品」だ。海外を含め多くの人々を魅了する写真であっても、それは撮影者の立場だけで撮ったもので、写真の美しさを感じるだけである。
 我々ホタル研究者は、ホタルの生態とその生息環境を研究しているが、その保全についても啓蒙していかなければならない。その一端としての「ホタル写真」は、写真芸術的にも、ホタルの生態学的にも認められる写実でなければならない。この光景を作る「ホタルと自然環境」を守ろうと思いを馳せて頂くものでなければならない。今回は、痛恨のミスにより光景を目の前にして撮影することができなかったが、重要な生態学的な様々な観察ができたので、知識は残すことができた。

 このヒメボタル生息地は、2010年から通っているが、当時は誰一人と来ることのない生息地であった。しかしながら、年々、撮影者や観賞者が増え始め、そのマナーが気になるところである。車のライト、懐中電灯といった光害である。(懐中電灯は、赤いセロファンを巻いてもホタルに影響を与えるのでダメである。)撮影者や観賞者の増加に半比例するかのように、毎年、ヒメボタルの数が少なくなっているように思う。

 3~5枚目の写真は、本記事と関係はないが、同日の深夜に長野県の乗鞍高原で撮影した天の川である。

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ヒメボタル生息地の写真

ヒメボタル生息地
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / EF17-35mm f/2.8L USM / バルブ撮影 F18 15秒 ISO 100 -2EV(撮影日:2018.07.21 18:21)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 300秒 ISO 1600(撮影日:2011.07.23 23:00)

天の川の写真

天の川
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / EF17-35mm f/2.8L USM / バルブ撮影 F2.8 32秒 ISO 1600(撮影地:長野県松本市/乗鞍高原 2018.07.21 1:10)

天の川の写真

天の川
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / EF17-35mm f/2.8L USM / バルブ撮影 F2.8 43秒 ISO 1600/ PRO1D プロソフトン[A](W)使用(撮影地:長野県松本市/乗鞍高原 2018.07.21 1:16)

天の川の写真

天の川
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / EF17-35mm f/2.8L USM / バルブ撮影 F2.8 37秒 ISO 2000/ PRO1D プロソフトン[A](W)使用(撮影地:長野県松本市/乗鞍高原 2018.07.21 1:39)

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ヒメボタル(岩手県折爪岳)

2018-07-17 19:58:31 | ヒメボタル

 ヒメボタル Luciola parvula Kiesenwetter, 1874 は、ホタル科(Family Lampyridae)ホタル属(Genus Luciola Laporte, 1833)でゲンジボタルやヘイケボタルと同属であるが、幼虫が陸地で生活する陸生ホタルである。青森県から九州まで分布し、平地から高い山地の雑木林、竹林、ブナ林、畑、河川敷など様々な環境に生息している。体長は6mm~9mmほどで、メスは下翅がなく飛ぶことができない。そのため分布地の移動性は小さく、地域により遺伝的特性や体長の差などが著しい。発光は、黄金色のフラッシュ光の点滅が特徴である。

 ヒメボタルの観察と撮影に、岩手県二戸市にある折爪岳に行ってきた。折爪岳のヒメボタル生息地(山頂の3.5ヘクタール)は、2013年に二戸市、そして今年4月には岩手県の天然記念物に指定され、生息数100万匹とも言われる。いつも観察は十分にできたが、過去に大乱舞を目の前にしながら、フィルムでは上手く撮れていなかったり、天候不順で飛翔数が少なかったりと、これまで私的に満足できる撮影結果は得られていない。昨年は、ブナやミズナラの原生林で光る「折爪岳のヒメボタル」らしい写真は撮影したが、「これぞ!」という光景を残しておきたい。そこで、5度目の訪問となる今回は、二泊三日で二晩のチャンス。過去の経験から、ヒメボタルが多く飛ぶ場所は分かっているので、明るい時間に構図を決めて、それぞれの晩に違う場所で1カットずつ撮ることにした。
 初日は、気温が高く無風。前日に雨が降ったとのことで、たいへん蒸し暑く、まさにホタル日和。19時30分頃から光り始め、多くのヒメボタルが乱舞した。二日目は、気温が少し低めで風が強く、前日に比べて飛翔数は半分ほどであったが、それでも同期明滅も見られるほどの数は飛んでいた。ただし、いつも観察できる場所ではメスがほとんど見られなかった。発生のピークは数日後かも知れない。
 二日間ともに「ヒメボタル観察会」が催され、多くの観光客も訪れていたが、懐中電灯やスマホの明りによって、ヒメボタルが一斉に発光を止めることが多々あった。誰が言ったか知らないが、懐中電灯に赤いセロファンを巻いてもダメである。また、スマホで撮ろうとしても写らない。撮影者の立場では、写真は数秒露光のデジタル画像を何枚も重ね合わせる手法で創作するから、フレーム中に人工光が当たれば、そのカットは削除すれば良い。しかしながら、ヒメボタルは灯りに非常に敏感で、すぐに発光を止めてしまう。メスを探そうと飛び回るオスたちの行動を阻害するのである。懐中電灯やスマホは、ヒメボタルのために是非とも止めて頂きたい。足元だけを照らすこともダメである。

 当ブログでは、写真撮影地は基本的に都道府県名までの記載としているが、折爪岳のヒメボタルは岩手県と二戸市の天然記念物に指定されたため地名を公表した。尚、掲載写真は、ヒメボタルの生態学的価値よりも写真の見栄えを重視したもので、10分~20分の露光に相当するカットをPCで比較明合成したものである。肉眼でも相当数のヒメボタルが発光する様子が見られるが、掲載写真のように見えるわけではないことを付け加えておきたい。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真1及び2はクリックしますと拡大表示されます。

ヒメボタル(折爪岳)の写真

ヒメボタル(折爪岳)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 ISO 1600 10分相当多重(撮影地:岩手県二戸市/折爪岳 2018.07.14)

ヒメボタル(折爪岳)の写真

ヒメボタル(折爪岳)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 ISO 1600 10分相当多重(撮影地:岩手県二戸市/折爪岳 2018.07.14)

ヒメボタル(折爪岳)の写真

ヒメボタル(折爪岳)
Canon EOS 7D / EF17-35mm f/2.8L USM(32mm相当) / バルブ撮影 F2.8 ISO 1600 20分相当多重(撮影地:岩手県二戸市/折爪岳 2018.07.15)

天の川(折爪岳)の写真

天の川(折爪岳より)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / EF17-35mm f/2.8L USM / バルブ撮影 F2.8 30秒 ISO 1600(撮影地:岩手県二戸市/折爪岳 2018.07.14)

岩手県折爪岳のヒメボタル

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ヒメボタル(山梨/静岡)

2017-07-23 20:46:35 | ヒメボタル

 ヒメボタルの観察と撮影を山梨県と静岡県で行ってきた。山梨県の生息地は、2008年から毎年のように訪れており、今回はこれまで撮影していなかった方向を撮ることが目的。静岡県の生息地は、2010年と2011年に訪れているが、長時間一発露光の写真しか撮影していなかったため、今回は多重露光の写真を撮ることを目的とした。

 ヒメボタルは、地域によって発生時期や生息環境、発光活動時間が異なる。今回訪れた両県の生息地は、発生時期がほぼ同じで、関東周辺では一番遅いという特徴がある。またどちらも森の中に生息するが、山梨の生息地の本種は19時半から21時頃まで活動し、静岡の生息地の本種は22時半から深夜にかけて活動するといった違いがある。それゆえに、一度に両方のヒメボタルを観察し撮影することができるが、静岡の生息地には遅い時間に到着するので、生息環境の調査や、写真撮影上で背景を綺麗に写したい場合は、単独で早い時間に訪問する必要がある。
 今回、山梨ではヒメボタルの発光飛翔の場所とルートを再確認し、カメラとレンズは微かな光も捉えてくれたので、その光跡を写すことができた。参考までに、2011年にほぼ同じ位置から違う方向(斜面下部方向)撮影した写真も掲載した。静岡においては、到着時に豪雨であったため、発光飛翔は勿論、ヒメボタルも流されてしまうのではないかと危惧したが、23時に雨が止むと、多くのヒメボタルが発光を始め、深夜の真っ暗な原生林が光の明滅で埋め尽くされる様子が見られた。掲載写真は、あまりに過度な表現で品を欠くものではあるが、多重合成を行うことによって、肉眼ではまったく見ることができなかった発光飛翔の範囲と場所を写すことができた。

 無事、両方の生息地において目的を達成し、これにて本年最後の「ホタル」の観察と撮影を終了したが、今回驚いたことは、6年前には誰一人としていなかった静岡の生息地に、カメラマンが5~6人いたことである。皆、撮影が目的であるからヒメボタルに害を及ぼすことはないが、SNS等で生息地の情報が拡散されれば、多くの鑑賞者も訪れることになり、繁殖が脅かされる心配もある。生態学的にも貴重な生息地であるから、注意していただきたいと思う。

お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、すべて1024*683 Pixelsで掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

ヒメボタルの写真

ヒメボタル(山梨)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 30分多重 ISO 1600(2017.7.22)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル(山梨)
Canon 7D / SIGMA 50mm F1.4 EX DG HSM / バルブ撮影 F1.4 10分多重 ISO 200(2011.7.23)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル(静岡)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 20分多重 ISO 6400(2017.7.22)

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