ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

森の妖精 ヒメボタル

2020-07-25 13:44:40 | ヒメボタル

 森の妖精 ヒメボタルの写真と映像を撮影してきたので紹介したい。

 ヒメボタルは、本州・四国・九州に分布し一生を陸地で生活する陸生のホタルである。20年ほど前までは「森の妖精」あるいは「森のホタル」と呼ばれてきたが、実際は、標高およそ150m~1,700mの雑木林、竹林、杉林、桑畑、河川敷、お堀など様々な環境に生息しており、2010年に桑畑や隣接する開けた草地を発光しながら飛翔する光景を見た時は驚いたものである。まだ謎の多い生態に興味を惹かれるのは勿論なのだが、どのような環境においても、ゲンジボタルやヘイケボタルとはまったく異なるヒメボタルの0.7~1秒間隔のフラッシュ発光が生み出す幻想的な光景は心を惹きつけて止まない。
 これまで様々な場所で生態と生息環境を調査し、多くの知見を得てきた。また多くの生息地において撮影をし、写真という記録を残してきたが、今回は「森の妖精」と言われてきたヒメボタルに相応しい光景を映像として残すことを目的として、自宅から直線で100km県内のヒメボタル生息地では一番発生の遅い某所を訪れた。

 「森」と言えば、ジブリ作品の「もののけ姫」に描かれた森をイメージする方が多いだろう。平地では里山に見る「雑木林」が多いが、寒い地域や標高の高い山地等では「森林」となる。その森林の代表的なものが「ブナの原生林」である。ブナを中心に様々な落葉樹が太古から生育している天然林であり、生物多様性や土壌の発達を支える重要な役割を果たしているが、古来の姿、いわゆる原生林を保っている場所は多くはない。
 「もののけ姫」の森は、屋久島と白神山地の「ブナの原生林」がモデルになっているが、2006年から2018年にかけて訪ねた岩手県二戸市の折爪岳にもブナの原生林があり、豊かな森林に住む精霊“木魂(こだま)”が切株の上に見えるような森である。その折爪岳では「森の妖精 ヒメボタル」の写真と映像を収めており、ブログ記事「ヒメボタル(岩手県折爪岳)」に掲載している。今回は、別の苔むしたブナの巨木が佇む原生林において撮影した森の妖精 ヒメボタルを紹介したい。

 この生息地を始めて訪れたのは、2010年の7月。当時は、撮影者は勿論、観察者も他に誰一人といなかった。当地のヒメボタルは深夜型で、22時を過ぎたころから少しずつ光り始め、本格的に乱舞するのは23時を回ってからであるため、一人での観察には、かなりの勇気が必要であった。親友とも何度か訪れ撮影をしたが、写真としては駄作ばかりで、その後もなかなか上手く撮れず、昨年にようやく「それらしい」写真を残せたが、まだ納得がいかなかった。
 現地には17時に到着。先客がすでに2名。テレビで紹介されたことや口コミで情報が広がり、この5年で撮影者や観賞者が多く来るようになり、車が20台以上も並んでいる時もある。ヒメボタルが飛び始めてから来る方もいるが、私は、どの場所でもそうだが、生息環境が分かる写真を写すことを目的としているため、日の入り前に現地入りする。特に、車で現地近くまで行く場合は、光害の影響をなくすためにも明るい時間に行くことは、ホタル撮影、ホタル観賞の鉄則である。しかし、薄暮型と違って6時間近く待機しなければならない。と言っても、チョウでもトンボでも遠方の撮影地であれば前日入りするし、自然風景写真の撮影で、ポイントの前で14時間も待機したことがあるので、良いものを残すためには当たり前の行動である。
 当地へは何回も通っているので、ブナの森のどの辺りをどのように発光飛翔するのかは分かっている。明るいうちに三脚とカメラをセットして、後は車内で待機である。念のため22時半に目覚ましをセットし、車内でテレビを見ていたら、いつの間にか爆睡。たまたま当ブログをご覧頂いている方が現地にいらして、私に気が付き、22時20分頃「飛んでいますよ!」と声を掛けて頂き目が覚めた。
 22時43分。遊歩道から森の中へ入っていき撮影開始。気温21℃で無風。漆黒の森の中で、あちこちで黄金の光が音もなく点滅している。時間が経つにつれ光の数が増えていく。地面ではメスが発光しており、発生のピークであると思われる。午前1時過ぎまで乱舞は続くが、単に同じようなカットを撮り続ける必要もないため、0時31分に最後のカットを撮影し撤収。帰路に就いた。
 午前2時半に帰宅。眼が冴えて寝ようにも寝られないのでPCを起動させ、早速RAW現像開始。2枚の写真を仕上げたらお昼。午後から動画を編集し、終わったら夜であった。勿論、睡魔と戦いながら、途中何回も眠りこけている。

 私は、プロの写真家ではないし、カメラマンと呼ばれるのも好きではない。ホタルの研究家として、写真はその生態と生息環境の記録を残しているが、いい加減なものは残したくない。当然、苦労と経験の積み重ねの上に理念とセンス加えて初めて結果となる。まだまだ勉強が足りないが、今回は、カメラ2台で2方向の光景を撮影した。EOS 7D は写真のみを EOS 5D Mark Ⅱでは動画も記録し、写真は重ねる枚数を変えた3枚を掲載した。
 1枚目は、森の妖精 ヒメボタルの生息するブナの原生林を写した写真である。森そのものの美しさをご理解頂けると思う。2枚目は、そこに乱舞するヒメボタルである。23mmの広角レンズで撮っているので光の点が小さくなっている。
 3枚目は、90秒の露光時間に相当する写真である。昨今、掲載した「ヒメボタル(東京2020)」の写真と同じように「ヒメボタルの発光飛翔の生態写真」である。1頭1頭が、どのような環境をどのようなルートで飛翔しているのかが分かる。メスを探して地上をくまなく飛翔しているのである。また、飛ぶ速度と発光の点滅の間隔が一定であることも分かり、これが「森の妖精 ヒメボタルだ」と言えるものだと思っている。
 ここで同日に撮影していた十数人のカメラマンは、おそらくこれと同じ写真にはしないだろう。ヒメボタルは、見ての通り、その発光の様子から写真では光の点となり、それが幾重も重なったいわゆる「インスタ映え」する写真は、見る人を魅了する。以下に掲載した写真1及び4と5は、25分や18分という露光時間に相当するカットである。生態学的には飛翔範囲が分かる程度の価値しかないが、美の表現方法の1つである創作写真としてご覧いただきたい。
 生態写真でも創作写真でも、ホタルの発光飛翔の写真は、肉眼で見た光景とはまったく違う。写真とはそう言うものである。そこで、なるべく見た目に近い光景も残したいと思い、数年前から動画も記録し、編集した映像を公開している。漆黒の森ではなく、背景(環境)が分かるように明るくしてはいるが、ヒメボタルの発光飛翔そのものである。映像の中には、地面で発光するメスと、その近くで発光するオスの様子も収められている。Youtubeは、是非ともチャンネル登録をお願いしたい。

 昨今、ホタルは勿論、チョウやトンボでも撮影現場で「もしかして古河さんですか?」とお声を掛けて頂くことが多い。情報交換もさせて頂き、喜ばしい限りである。

お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、1024*683 Pixels で掲載しています。ウェブブラウザの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorer等ウェブブラウザの画面サイズを大きくしてご覧ください。また動画においては、Youtubeで表示いただき、HD設定でフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

ブナの原生林の写真

森の妖精 ヒメボタルが生息するブナの原生林
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / 絞り優先AE F18 焦点距離 23.0mm 8秒 ISO 100(撮影日:2020.7.23)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / バルブ撮影 F2.8 焦点距離 23.0mm 25分露光相当の多重 ISO 1600(撮影日:2020.7.23)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 1分30秒露光相当の多重 ISO 1600(撮影日:2020.7.23)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 18分露光相当の多重 ISO 1600(撮影日:2020.7.23)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 18分露光相当の多重 ISO 1600(撮影日:2020.7.23)

森の妖精 ヒメボタル

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