ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態や生息環境を48年研究し保全活動をしていますが、趣味で撮影した昆虫や
美しい自然風景写真も掲載しています。

ヒメボタル(東京2020)

2020-07-12 18:45:12 | ホタル

 ヒメボタルは、東京都内にも生息している。東京には、自身のこれまでの調査・観察で、かなり広範囲にヒメボタルが分布していることが分かっているが、いずれも人里離れた山奥であり、観賞者や撮影者もほとんどいない。今年訪れた場所は、2004年に私が生まれて初めてヒメボタルを見た場所であり、2009年に撮影した私の写真(写真3)が、おそらく初めて「東京都内のヒメボタル」を記録したものであろう。
 この場所は、国道から沢沿いのすれ違いのできない細い道を5Kmほど進み、さらに悪路な林道を3Km弱登った所である。2004年から観察と撮影で通い始めた。2004年は、雨が降っておりヒメボタルも数匹しか飛んでいなかったが、2005年は、数え切れないほどのヒメボタルが乱舞していた。しかしながら、撮影技術が確立しておらず、まったく写らなかった。2006年に訪れた時は、発生がゼロの状態。ヒメボタルの発生期間は、およそ10日ほど。私は週末の土曜日しか訪れることができない。つまり、ヒメボタルの発生ピークと私の都合が合致しなければならない。そして次に天候状況がよくなければならない。ゲンジボタルと同じで、月明かりのがなく気温が高くなければ発光飛翔は少ないのである。結局、6年の月日が過ぎ、ようやく2009年7月11日に条件が合致した。
 18時、まだ明るい時間に到着し、カメラを据える。静かに夜を待つ。19時半。ヒメボタルが光り始める。落ち着いてシャッターを切る。OLYMPUS OM-2 に ZUIKO 50mm F1.8 、ISO1600のネガフィルムで長時間露光である。勿論、合成写真ではない。露光している長い間は、ヒメボタルの行動をじっくりと観察。21時。辺りは真っ暗で、一寸先も見えない。静寂の中に、時折、鵺(ぬえ-トラツグミ)の声が林に響き、落ち葉が斜面を転がる音がする。横溝正史の長編推理小説「金田一耕助シリーズ」の一つ「悪霊島」の映画のキャッチコピー「鵺の鳴く夜は恐ろしい…」の鵺である。確かに不気味な感じた。
 その静寂をうち消すように、背後の雑木林から下草を力強く踏みしめる大きな音がしてきた。ゆっくりと右へ左へ、そして近づいてくる。ツキノワグマである。山間部で頻繁に出没しているらしいが、まさかこの場所で出くわすとは思わなかった。ましてこんな所に一人きりである。音を出せばよいのか、静かにしていればよいのか・・・ただ、6年かけてやっと遭遇したこのチャンスを逃すわけにはいかず、恐怖と戦いながら撮影を続けた。十分な露光時間が過ぎたのを確認した後、急いで撤収。麓までの長い道のり、恐怖心は続いていた・・・

 この東京のヒメボタル生息地には、昨年10年ぶりに訪れデジタルカメラで撮影したが、思うような結果が得られなかった。2009年のフィルムよりも美しい写真を デジタルで撮影し、どうしても残しておきたい。そこで、本年も挑戦したのである。
 今年も徒歩である。カメラ2台と三脚2本を背負いながら濡れた悪路を登る。蒸し暑さに汗が噴き出る。生息場所には18時前に到着し、ヒメボタルの通り道2カ所にカメラをセットした。後はひたすら待機である。今回は、持ったきた携帯ラジオを付けた。情報では5月頃にクマが出たというので、クマよけのために大音量で流した。
 気温23度で曇り。無風。曇り空は、夜になっても雲が都会の明かりを反射して明るいので最高の条件とは言えないが、蒸し暑さに期待が膨らむ。19時半に近づく頃が一番不安に駆られる。周囲は暗くなり、そろそろ光始める時間であるが、光らなければ恐怖が襲い掛かるからだ。今回は、何とか19時34分に1頭が光ってくれたので一安心。後は、どのくらい発生しているかだが、なかなか後が続かない。何となく何頭かの光は見えるような気はするが、一向に飛ばない。ようやく数頭が発光飛翔を始めたが、すべてフレーム外の場所。今年カメラを向けた方向は、通り道ではあるものの、曇り空の影響で下草が明るくなっていることが原因だろう。
 20時半になり、随分と暗さが増したが、肝心のヒメボタルは谷の下では発光しているが、なかなか斜面を登ってこない。何故だろう?試しに、クマよけのために大音量で流していたナイター中継を消してみたところ、杉林に静寂が広がり、谷の下からヒメボタルが上がってくるようになった。より暗さが増したことによるのか、音の影響かは定かではない。ゲンジボタルは、轟音のする渓流でも飛んでいるため「音」が飛翔に影響していることはないと思うが、ヒメボタルは音に敏感だと言う方もいるので、根拠はないが、ひょっとしたら音波振動を感知しているのかも知れない。
 21時。急に霧が立ち込めてきて、ヒメボタルも発光しなくなったため、カメラをカバンにしまっていると雨が降ってきた。晴れ間もでる予報であったため傘はない。仕方なく、生い茂る木々の下を通りながら、登ってきた林道3km弱を下った。幸運にもクマは出現せず、何年経ってもヒメボタルの変わらぬ光景を観察できたことに感謝したい。

 インターネットで「ヒメボタル」の画像を検索すると、たいへん多くの写真がヒットする。そのほとんどがデジタル写真で、ヒメボタルの光溢れるものばかりである。勿論、ヒメボタルの生息地によっては多数が乱舞し、1分足らずの一発露光でも光の絨毯に写るところもあるが、これら写真の多くは多重合成によって作られた写真である。それはそれで1つの創作作品として評価してよいとも思うが、昨今の撮影者は、インスタ映えするそのような写真を撮ることだけを目的に、生息地に群がり撮影している。これには、疑問を感じてしまう。また、写真を見る側も、そうした写真を「美しい」と評価してしまうことも問題だ。
 私は、プロの写真家ではないし、カメラマンと呼ばれるのも好きではない。ホタルの研究者として、その生態や生息環境を調べており、ヒメボタルも記録として写真を撮影し残している。当然、今ではデジタルカメラで撮影しているが、写真はインスタ映えを狙ってこれでもか!というように多重合成したものではなく、どのような自然環境をどのように発光飛翔しているのかが分かるように、そして構図なども考えながら、生態写真となるよう撮ってきたつもりである。今回は、これが、ヒメボタルの発光飛翔の生態写真、これが、東京のヒメボタルだ!と言える価値あるものが残せたように思う。
 これは、翅がなく飛ぶことが出来ない可憐な彼女と結ばれたいと飛び回る健気な彼氏の愛の光跡である。

 次週以降は、初めて訪ねるヒメボタルの生息地の光景、そして何度も写真を撮影している所での動画撮影を予定している。

お願い:なるべくクオリティの高い写真をご覧頂きたく、1024*683 Pixels で掲載しています。ウェブブラウザの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorer等ウェブブラウザの画面サイズを大きくしてご覧ください。

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 3分相当の多重 ISO 640(撮影地:東京都 2020.7.11)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 7D Mark Ⅱ / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / バルブ撮影 F2.8 3分相当の多重 ISO 1600(撮影地:東京都 2020.7.11)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
OLYMPUS OM-2 / ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8 / FUJICOLOR NATURA 1600 / バルブ撮影 F1.8 60分(撮影地:東京都 2009.7.11)

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4 コメント

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Unknown (H.Udagawa)
2020-07-12 22:43:30
ヒメボタルの写真は、光のじゅうたんよりも光跡がわかるほうが美しいよね。
ご無沙汰です。 (古河)
2020-07-14 15:47:11
おっしゃる通り!
岩手等の多産地は、1分も露光すれば光の絨毯になるくらい沢山いるので、それも良いかなと思いますが、光跡が分かるくらいが、生態写真なんだと思います。
昨年は、10年ぶりにこの生息地に行き、今年も頑張って歩いて行ってきました。
昔と変わらない様子に安心しました。
Unknown (H.Udagawa)
2020-07-15 08:22:50
クマだけじゃなく、イノシシも危ないから気をつけてください。
ありがとうございます。 (古河)
2020-07-16 15:54:26
過去にあちこちでイノシシにも会ったことがありますので、十分、気を付けます。ありがとうございます。

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