ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

ヒメボタル(東京2023)

2023-07-17 16:51:04 | ヒメボタル

 ヒメボタルの東京都における生息地は、標高およそ700m~1,200mの山地に点在しており、2004年から観察と撮影を行っている。今年は、2021年から観察を開始した生息地に行き、発生状況や環境の変化などを調査観察をするとともに、いつものように写真に収めてきた。

 ヒメボタルは、全国的(本州、四国、九州)には標高0mからおよそ1,700mまで、ブナ・ミズナラの原生林から、天然林、杉林や竹林、河川敷や里山の雑木林などの人工林(二次林)、畑や堀など、様々な環境に適応して生息している。ちなみに、「人工林」は読んで字のごとく、人が植えて育てる森林のことで、「天然林」とは、伐採など人の手が加わっても、自然の力で維持されている森林を指す。それに対し「原生林」とは、過去に伐採されたことがなく、人為の影響のない森林のことを言う。
 今年も訪れた東京のヒメボタルの生息地は、標高およそ1,100mでブナ、ミズナラ、シラカンバ(白樺)の天然林と林道を挟んで反対側は杉林の人工林となっており、一度に違った生息環境を見ることができる。杉林はよく管理され、天然林においても笹などが低く茂っているため、ヒメボタルのオスの飛翔空間が広く保たれている。このような空間は、当然のことながら夜間でも暗く、オスは空間全体を飛び回っている。草木が生い茂った部分では飛翔しない。翅がなく飛ぶことができないメスは、こうした空間の一部におり、オスは空間全体を飛翔することでメスに存在をアピールしているものと思われる。

 東京都内におけるヒメボタルの発生時期は、7月上旬から中旬頃までで、この生息地は例年7月10日頃から発生が始まり、10日間ほどで期間は終了する。今年は、7日には知人が発生を確認しており、9日にはかなりの数が飛翔していたと連絡を受けた。連日、月がなく風も弱く、気温も19時で23℃以上あり、一気に発生数が増え、飛翔条件も良いことから、多くのオスが乱舞したのだろう。
 私が訪れたのは15日。現地には18時に到着。月明かりの影響がなかった2021年は、ブナ林の入口付近で19時24分から発光が始まり、月明かりがあった昨年は19時40分。今年も月はなく、気温は24℃。風もない。ただし、発光が始まったのは昨年同様に19時40分であった。20時を過ぎると発光飛翔数が増えてきたが、期待するほどの数ではなかった。飛翔数には波があり、まったく発光が見られない時間帯もある。21時を過ぎると次第に減り、最後は21時40分には、ほとんどが下草に止まり、発光を止めた。
 今年は、おそらく例年よりも4日ほど早い発生で、12日頃をピークとして訪れた15日は終息傾向であったと思われる。蛹から羽化までの期間は温度に関わらず一定と仮定し、前蛹から蛹化までは、ゲンジボタルと同様に積算温度が関係しているとして、昨年と今年の気象をグラフにし比較検証してみた。6月からの平均気温、最高気温を比較すると、7月になってからは若干今年の方が高いが、積算温度を見てみると、最終的に今年は昨年よりも10日度ほど高くなっていることが分かる。前蛹から蛹化までの期間であっただろう6月の間でも高いことから、前蛹期間が短くなり昨年に比べて発生が早かったことが理解できる。また、7月1日~10日までの夕立を含めた降雨日数が、昨年の6日間に対して今年は4日間で、しかも7月5日からまったく降っておらず、更には10日からは連日最高気温が30℃を超えたことが、羽化後の飛翔チャンスを多く与え、1頭の寿命も短くし、発生のピークを早めたとも考えられる。(参照:ホタルの発生に及ぼす温暖化の影響について
 東京のヒメボタル生息地には、鑑賞者も他のカメラマンも来ることはない。環境も安定しているので、また来年も定点観察地として訪れ、今度はメスの生息場所を突き止めたいと思う。

多摩地方の気象の図
多摩地方の気象(気象庁データより作成)

 ヒメボタルの観察と撮影も終盤になり、今年は次の週末が最後となる。写真においては、いつも、どんな場所でもそうだが、中望遠レンズで点景とともにヒメボタルの光を芸術的に入れた写真は撮っていない。私の写真をご覧いただければお分かり頂けるように、標準レンズや広角レンズでなるべく広い範囲を撮っている。それは、ヒメボタルが生息する自然環境とヒメボタルが舞う命をつなぐ光景を嘘偽りない記録として残しておきたいからである。「どのような環境で、どのような範囲を、どのように飛翔しているのか」これが重要な記録になる。
 生息場所によっては、当然、光跡の数はとても少ない。それでも、その写真はヒメボタルが生息している環境と生息の証拠として貴重な資料だ。光跡の少ない写真を掲載したところ「光が少なく観賞に耐えない写真」とコメントを頂いたことがある。単なるインスタ映えを狙った光ばかりのヒメボタルの写真があふれ、そのような写真ばかりを見ているからであろう。多少の悔しさも感じるので、それに近い写真も掲載することにしている。
 今回は、カメラ2台を杉林にセットし、発光飛翔の様子を収めた。1枚目は、飛翔がよくわかるように150秒相当の多重にとどめた。杉林の急斜面を下から上に、時には上から下に早いスピードで飛翔している。2枚目は同じ杉林において35分相当の多重である。3枚目は更にレンズの近くを飛翔した2カットを追加した。これらは見栄えは良いが、林床をどのように発光飛翔しているのかは全く分からない。ヒメボタルを知らない方では、林床が光で埋めつくされていると勘違いしてしまうかもしれない。また4枚目は、杉林とは林道を挟んで反対側にあるブナ、ミズナラ、シラカンバ(白樺)の天然林におけるヒメボタルの写真で、2021年に撮影した10分相当の多重のものを再現像して掲載した。今年は撮影しなかったが、映像は昨年に撮っているので、こちら「東京のヒメボタル生息地」を参考にして頂きたい。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

ヒメボタル(東京都)の写真
ヒメボタル
Canon EOS 7D / Canon EF17-35mm f/2.8L USM / マニュアル露出 F2.8 15秒×10カット多重 ISO 2000(撮影地:東京都 2023.07.15)
ヒメボタル(東京都)の写真
ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F1.4 15秒×140カット多重 ISO 1600(撮影地:東京都 2023.07.15)
ヒメボタル(東京都)の写真
ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F1.4 15秒×142カット多重 ISO 1600(撮影地:東京都 2023.07.15)
ヒメボタル(東京都)の写真
ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / マニュアル露出 F1.4 10秒×60カット多重 ISO 1600(撮影地:東京都 2021.07.10)
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