終りなき始まり (上)朝日新聞社このアイテムの詳細を見る |
最近読んだ梁石日(ヤンソギル)さんの「終りなき始まり」を思い出しました。
1980年、韓国光州で警官隊と衝突して学生たち190人が亡くなった光州事件が物語りの始まり背景になります。この事件の日本での追悼集会に集まる在日コリアン。この物語の主人公・文忠明は詩を書いています。やがてタクシードライバーになる主人公はヤンソギルさんがモデルになっている自伝的小説です。
朝鮮総連構成員の青臭い革命論や政治論が飛び交い、金融業者・新劇監督・学者・女優・歌手など多彩な在日コリアンがそれぞれ泥臭く活き活きと描かれています。
冷え切った夫婦関係から主人公は離婚し、「沈黙は目に見えない何かを増幅させ、その増幅してくる名伏し難い感情は泥沼の底へ沈んでいくからであった。お互い無視し合う沈黙は、口論よりもさらに2人の心を蝕んでいく毒を含んでいる。」上巻135ページ。と、淳花へ走ります。
しかし、淳花とも添い遂げられません。
「歴史的な背景や行きがかり上、在日という存在が日本社会の底辺の、あるいは差別の、矛盾の吹き溜まりのような存在になっているとはいえ、それはどこにいようと抑圧されている人間に共通しているものであり、生きるという前提ににおいて何ら変りはないのだった。」下巻231ページ、という状況が小説のベースになっています。
ヤンソギルさんの文章は以前読んだ「血と骨」でも硬質で熱く暴力的です。父性愛賛歌のライオンキングと正反対の、父への反抗・確執がこれでもかと描かれます。
「終りなき始まり」も堅く骨太の文章です。それだけに最後、韓国に渡ってしまった淳花の死の場面は涙を誘います。