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社会理論・現代思想を主に研究する今野晃のblog。業績については、右下にあるカテゴリーの「論文・業績」から

リクールのイデオロギー論

2006年11月08日 | 読書
 今日は、今読んでいる本の紹介。

Lectures on Ideology and Utopia

Columbia Univ Pr

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 ものは、リクールの『イデオロギーとユートピアに関する講義』。多分、未邦訳。オリジナルは英語版だが、私が読んでいるのは、仏語に翻訳されたId?ologie et l'utopie (l')の方。なお、仏訳は本人によるものではない。仏訳出版時にすでに高齢だったからだと思うけれど。

 英語版から仏版への翻訳なので、わりと楽に読み進められる。内容については、アルチュセールに関する三章を中心に追っているのだが、なかなか微妙。マルクスに関する数章の後に、アルチュセールに三章を割いている故に、リクールはアルチュセールをひょゆかしていると思われるのだが、アルチュセールの死の際に彼から出されたコメントは、あまり好意的ではなかったよう。この点については、アルチュセールによる「リクールへの手紙」が載っている以下を参照。

マキャヴェリの孤独

藤原書店

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 リクールのイデオロギー論(アルチュセール論)に戻るが、彼の叙述の中で興味深いのは、マルクスに関して論じた部分よりも(それらは概して一般的な見解に留まる:「講義」だから当然かもしれないが)、それに関連して現象学など他の領域について言及しているその視点。例えば、アルチュセールが国家のイデオロギー諸装置について論じている点については、彼(アルチュセール)が人間の従属的側面ばかりに注目しているのでなく、そこから抵抗運動の展開を論じようとしている点を承認しつつ、そうした観点からするとむしろウェーバーのmotivation概念から考えた方がより生産的である、とリクールは主張する。
 ただし、そこから独自のイデオロギー論なりウェーバー論、あるいはmotivationの理論に展開してゆかないのが歯がゆいのだが(ただし、ウェーバーの議論は理念型をベースにしているので、現実の歴史における階級闘争の展開を目指すアルチュセールのイデオロギー論とは節合が悪いだろう、というのが私自身の見立て)。

 別の話だが、レヴィナスの思想を研究し、仏語でも複数の論稿を発表している村上さんは、blogでリクールのことを「二次文献の人」と言っていた。また、「サクサク読む方が適している」とも(サクサク読めるのか……、私もそれぐらいの語学力が欲しい 苦笑)。私が上に述べたリクール評も、リクールのこうした点に起因するのかもしれない、と考えた。

 ただ、他方で、リクールが米で研究を積んだ点も見落としてはならない気がしてならならい。私が仏に滞在していた時の指導教官は、アメリカ的な研究手法をあまり評価していなかった節があるのだが、そうした事情も他方であるのではないだろうか。そう言えば、あるラジオ番組で、ジャン=クロード・パスロンが、ブルデューのアメリカでの受容を説明している際に(だったとおもう)、「アメリカにおける研究レベルは全く低くありません」と言っていたのを思い出した。つまり、世間一般的には「アメリカでの研究なんて……」という考えが背景にあるわけですねヽ(´・`)ノ フッ…。

 この手の中華思想は、私はどうかと思う。それ故に、ある面については遅れも顕著であり、例えばポスト・コロニアリズムなどの研究は、仏ではわりと最近になって注目されてきたに過ぎない。フレンチ・スタディーにおけるコロニアリズムやポスト・コロニアリズム研究は、その中心はNYなのだとか。

 この「遅れ」の背景については、例えば、西川長夫先生の以下の著作における、仏海外領土県に関する考察が、参考になるだろう。

〈新〉植民地主義論 グローバル化時代の植民地主義を問う

平凡社

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 そうした視点が注目されるに至って、その後どうなったかは、今確認中。移民系住民の暴動問題に関する、仏における問題構制(問題のたて方)に関して、概括的な論文を一本書ければと思っているのだが、それに関する資料は、先日Amazon.frに注文したばかり。おそらく手元につくのは、12月だと思われる。
 手に入った時点で、その外観でも、ここで紹介できればと思っている。


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