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社会理論・現代思想を主に研究する今野晃のblog。業績については、右下にあるカテゴリーの「論文・業績」から

格差問題の一例?

2006年11月09日 | 社会問題
 ここ最近は、北朝鮮問題、米の中間選挙で、直接的には大きく報道されていませんが、格差問題のある側面について。

 昨晩、たまたまNHKBSの世界のドキュメンタリーという番組で、アメリカの年金制度のドキュメンタリーが放送されていた。要は、確定拠出型年金401kに関してなのだが、そこで私が興味を持ったのが、年収によって運用利益に格差が見られるという話。つまり、高額所得者ほどうまく運用して年金積立金が増え、低所得者になるほどそれが低くなるという(番組では、ある専門家が、高額所得者では20%ほど平均で増えているのに対し、低額所得者の場合は4%程度との事)。日本ではまだ意識されていない(と私は思う)が、こういった側面でも格差が進行するのだろう。

 そういえば、仏に滞在していた際、在外研究で在仏されていたある大学の先生と私と、それからアルチュセールの『再生産について:イデオロギーと国家のイデオロギー諸装置』の共訳者である大中さんと、同席した際のこと。一連の私の会話から、その先生は私に「君は、あまり新聞を読まないんだ」と言われたことがあった。とりわけ政治の事情について、私が色々質問をしていたからだと思われるのだが、たしかに新聞はあまり読んでおらず、そのときは自分の不勉強を恥じたのだった。

 しかし、その後に考えてみると、私が新聞を読んでいなかったのは、私が滞在していた地方都市の大学の友人との日常の会話では、新聞で得られる情報、知識、さらには語彙がほとんど用いられないからでもあることに気付いたのだった。なお、何回か触れているが、私は自分が所属する大学院ではほとんど友人がおらず、学科の外、日本学科に親しい友人がいた。そして、(日本と言うと漫画・アニメ・ゲームという)彼らは、あまり新聞を読んでいるタイプではなかった。そして、彼らと会話している限りは、新聞で得られる情報・語彙・話題は、あまり役に立たない。なるほど、格差というのはこういうところでも出てくるのだと、痛感した。

 例えば、私が翻訳に参加した『再生産について:イデオロギーと国家のイデオロギー諸装置』の173頁においては「いまや公に知られているが、F……はCIAの資金によって創設された」という一節がある。この「F……」は、訳注をつけずにすませたのだが、本当は、労働者の力(FO)のことである。

 当初私は、「このFは?」と血眼になって調べたのだが、結局分からないでいた。しばらくしてから、日本に帰国した後に知り合った仏人の友人に尋ねると、彼は事もなく「それはFOのこと」と答えてくれたのだった。彼によると、この知識は「常識」の部類に入ることとのこと。ただし、その場に同席していた私が滞在先の都市で知り合いその後、親しいつきあいの仏人の友人は、この「常識」を知らなかった。
 なお、後になって編集の集まりで大中さんに尋ねると、彼もこのことをしっていた。それはアルチュセールも言うとおり、誰もが知る「公け」のこととか。

 なるほど、こういうところでも「格差」というものがあるのかと、考えたのだった。ちなみに、映画『JFK』の一部でも、CIAの工作の一部として仏の労働組合の話が、セリフ触れられている。

 ただし、実際に労働者の力がCIAそのものによって創られたのかは、議論の余地があるよう。実際の所は、CIAに近しい立場にいた者が、比較的自由にCIAの資金を使えたようで、それが動いて資金を調達したのが事実のようである。そのことを検証した論文もあるようなのだが、読むことが出来なかったため、結局訳注無しでいくこととなった。

 格差にまつわる、様々な側面についての話。


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