European Social Models From Crisis to Crisis:: Employment and Inequality in the Era of Monetary Integration (English Edition) | |
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OUP Oxford |
本当は、先週の研究会で報告させていただいた自分の研究について触れたかったのだが、その前にある状況について説明を。
というのも、上の著作で見つけたデータなのだが、この著作の312頁にあるグラフでは、ヨーロッパ諸国における、社会保障に対する人々の寛容度と、賃金格差の相関関係をグラフ化しているのだが、大まかな傾向として、福祉政策の寛容度が下がると格差が拡大するという、両変数の逆相関が各国で見られている(ただし、正確に説明すると、変数になっているのは福祉政策の「寛容度(市民意識)」であって、予算そのものではない。というのも、そもそも各国ごとに福祉政策への予算配分が異なるので、その予算額の大きさのみで単純に比較することはできない)。
ただし重要なのは、1985年から2002年への変化において、多くの国々で、福祉政策への寛容度が下がっていること(故に、反比例して賃金格差が上昇していること)である。いわば、格差を容認するような社会意識が欧で進んでいることになる(これを新自由主義に親和的な社会意識と言えるかどうかは、議論のあるところである)。
日本で欧の社会政策研究を見ても、このような傾向を指摘している研究は、あまり見受けられないのだが……。 私が不勉強なだけかもしれないが……。
加えて、注目すべき点は、デンマークとオランダでは、福祉政策への寛容度がそれほど下がっていないのだが、賃金格差は顕著に拡大していること。その背景に推測できるのは、フレキシキュリティという積極的労働政策においても、賃金格差は縮小せずむしろ拡大していることである。
さらに英に至っては、福祉政策への寛容度が上がっているのに、賃金格差も上がっているという正の相関関係が唯一見られる。まあ、これは、積極的労働政策のうち、ニューレイバーのそれが、どのような帰結をもたらしたのかを物語るものだと考えられるのだが。