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ある『マルクス伝』を読む

2018年08月07日 | 読書
マルクス(上):ある十九世紀人の生涯
ジョナサン・スパーバー
白水社


 マルクスとエンゲルスとイエニーの三人の映画を見た話はしたが、今日はある評伝について。

 マルクス関連も伝記は、かなり多くあり、それぞれに良い部分があると思う。このスパーパーの物は、整理された最新の研究に依拠しつつ書かれていて、面白い点がある。

 そこで気になったのは、マルクスと革命と結婚に関する関係を、スパーパーがどう捉えているか。

 この主題は、前のエントリーで書いた映画『レッズ』でも、主題の一つとして映画の中で扱われていた。

 で、マルクスは、自分の娘が、マルクスの周囲に集まった革命を目指す若者と結婚をするという事になって、その若者に宛てて、「革命活動を続けるか、活動は辞めて娘と結婚するかどちらかを選べ」といった旨の手紙を送っている。つまり、マルクス自身は自分の結婚にいささかの後悔もないが、革命活動を続けながら夫婦生活を維持するのは困難であるから、娘と結婚するなら革命家は止めろというわけである。

 この手紙をして、スパーパーは、マルクスは結婚を後悔していたという立場をとる。

 まあ、実際、彼はイギリスに渡っても職を得ることはできず、エンゲルスの援助によって著作活動や政治活動を続ける事になる。で、家族の生活の資金もそこから出されていた。マルクスに「職業経験」がないのは、仕方がないことで、ベルギー時代には職探しをしていたようだが、出身国ドイツでは政治活動が原因でディプロムが取れず、また同じく政治活動ゆえに亡命先のパリも追い出される。そうした意味で彼は、亡命知識人でさえなく、敢えて言えば「革命家」という立場になるわけである。

 他方で、娘たちにはそれなりの教育を受けさせ、バイオリンも習わせていた。これをプチブルと言うかどうかは、意見が分かれるところ。ただし、実際の生活そのものは決して楽ではなかったようである。これを、「文化資本が高いではないか」と「批判」することもできるだろうが、そうした彼の「文化資本」がなければ、『資本論』も『ドイツ・イデオロギー』もなかったわけである。

 で、まあ、私は、上のような生活を送りつつ、娘は、父親の周囲に集まり活動に参加していた若者と結婚をしたいと言うのだから、家族関係もしくは父娘関係は、そんなに悪くなかったのではないかと、思っているのだが、いかがだろうか?





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