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バリバール新刊:気になる本

2006年11月27日 | 読書
 あることが気になって、バリバールの著作の邦訳をアマゾンで調べていたところ、以下の本がもうすぐ刊行されることを知った。

ヨーロッパ、アメリカ、戦争 ヨーロッパの媒介について

平凡社

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 訳者の大中氏は、アルチュセール著『再生産について:イデオロギーと国家のイデオロギー諸装置』で、共訳者として一緒に仕事をさせていただいた仲である。かなり以前から、上の翻訳の話は聞いていたが、いよいよというわけのよう。

 大中氏の紹介をしておくと、ナンテール(パリ第10大学)で、バリバールの指導のもと博士号を取得した強者。バリバールの日本人の弟子の中では、一番信頼されているのではないかと思う。博士論文を書き上げるまで、在仏8年。(実際のところ、海外の大学に籍を置き論文を書いてでさえも、日本語の意味で「弟子」と形容できる日本人の学生は、それほど多くはない:仏に関して言えば。が、大中氏の場合は、その意味通りに「弟子」と言えるだろうと思われる:実際、バリバール自身から冗談めかした意味で「親愛なる一番弟子よ」と言われたことがあるとか)

 さて、この本の内容だが、私は原書が新刊として出た時に立ち読み程度で手に取っただけなので、何とも言えないのだが。ということで、この翻訳は楽しみにしている。ただ、アマゾン上で感じたのは、バリバールの翻訳というのは、あまりないのだということ。あちらではかなりの影響力もあるし、もっと翻訳されていてしかるべきだと思われるのだが。
 ただ、バリバールがとりわけ昨今扱っている問題というのは、ヨーロッパ的な市民権のあり方などで、日本における「構造主義」とそれ以降のバリバール像とは、少し距離があるだろうと思われるのも事実だが(それ故に翻訳計画の俎上に載ってこないのかもしれない)。

 私としては、「ヨーロッパ市民権」や「共和国の原理」が、その排除性を持ちつつも、とりわけ欧州内部の問題設定に置いて重要なconceptionであることを認めざるを得ないと思っている。他方で、西川長夫先生は、それに関しては批判的な立場を取るだろうと思われるが。実際、バリバールが立命館で講演した際に、コメントをした西川先生が、アルチュセールの理論に含まれる「市民社会批判」の側面について質問をしたところ、そうした視点がアルチュセールの中にあることを、バリバールが共有していなかったようなのだが。(ただしこれは、西川先生と、その講演の際に通訳を務めたこの著作の訳者の大中氏の二人より別々の機会に聞いたものなので、「二人の当事者」より聞いた「伝聞」でしかない。会場にいた立命の院生に尋ねたところ、彼らはこの点に注意を向けていなかった模様で、記憶になかったよう)。

 西川先生の『〈新〉植民地主義論 グローバル化時代の植民地主義を問う』と付き合わせながら読めば、西川先生の問題設定の意義がよくわかるだろうと思われる。

 さて、私自身のポジションに関して言うと……(別段聞きたくもないだろうが)、現在のところ両者の立場が理解できるので、その間で右往左往してしまう、というのが現状。それについては、次のエントリーででも、説明したい。


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