くらぶアミーゴblog

エッセイを綴るぞっ!

神岡鉱山と桃源郷

2004-05-20 16:07:27 | 連載もの 神岡鉱山と桃源郷
 今、手元に一冊の大学ノートがある。西暦が変わるより少し前の、僕の“徒然”ノートだ。後半には友人や親しかった部下の書き込みがある。みな個性豊かで文体も様々。その中にあるR君の記述を、僕は読んでいた。2枚の国土地理院発行5万分の1の地図とともに。
 彼は釣りが何よりも好きで、
「気持ちとしては釣りの合間に仕事をしています」
とノートには記してある。これはもちろん気持ちだけで、実際は僕の会社は目が回るほど忙しかった。毎日関東中に部下を派遣して、僕自身も腰袋とゲンノウ(かなづち)を下げて飛び回っていたからだ。
 その頃は僕も釣りに熱中していて、芦ノ湖のブラウントラウト、北浦のブラックバス、品川の埠頭でのシーバスと、休日にはR君と出掛けることが多かった。現場で知り合った釣り好きの職人を20人近く集って、河口湖バス釣り大会を催したこともあった。そう、僕も彼も本当に釣りキチだったのだ。
 ある夏のこと。麹町のG会館建築現場で知り合った大工仲間に、高原川という川を教えてもらったことがあった。人があまり入ってなくて、虹鱒とアマゴとなまずがどっさりといる田舎の川だというのだ。
「ここは神岡という鉱山町で、そもそも人の少ない土地なんだ」
「そんなにいい川なら釣り人が集まってるだろ」僕は軽く突っつく。
「俺はあの附近の出身だ。今でもそう変わってない」
 さらにこれは絶対に秘密だが、と彼は声を潜めた。
「ここに流れ込む双六川、ここはすごい。岩魚とアマゴがうようよいる」
「・・・!」
「何ならポイントを書いてやる。おい、あの川は桃源郷だぞ」
「・・・ !!」
 こんな話しを聞いて奮い立たない奴は男ではないだろう。釣り人はホラ吹きという大原則があるが、話し半分としたってすごいではないか。
 その現場の盆休みを利用して、R君と僕はハヤる気持ちを抑えながら東京を出発した。田舎だから小さい車で行った方がいいだろうとのアドバイスに従い、R君のトヨタカローラ・ハッチバックに乗り込んだ。後ろにはコールマンの大型テントとタープ、その他ぎゅうぎゅうに詰め込んである。中央道を走り、広大な甲府盆地を抜け、長野自動車道の松本で降りて国道158号線へ。乗鞍にスキーに行く人にはおなじみのコースだ。長い道中だが、R君も僕も興奮し通しである。
「いったいどんなところだろうなあ!」

 つづく


食い物の○○は○○だ

2004-05-20 10:31:00 | 飲んで食べて
 おはようございまっす。現在8時半です。東京は細かい雨が降っております。『控えめなデブ』“黒酢と・・・デブ”~にトラックバック。
 先ほど朝食を終えたところなのですが、一昨日の夜に作ってあっただし巻きが傷んでいまして、悲しくなりました。冷蔵庫を置いてないので、シンクの脇にラップをかけて置いてあったものです。油断したなあ~。ああ悲しい。やれ悲しい。
 何しろ無精なもので、フライパンで大きなだし巻きを作って~卵Lサイズ5個分~それを2日にわけて食べることが多いのです。あれ作るのって、ちょっと楽しいけどやっぱり面倒なもんです。今回は無精度が大きくて、3日にわけて食べようとしていたのですね。
『食い物の恨みは恐ろしい』という言葉があります。あれは自分以外の人間とのあいだで起こる事柄について言い表しているのだろうけど、僕にはむしろ
『食い物の損失はマリアナ海溝より深い』とかのほうがしっくりときます。
 学生の頃は2年間のあいだ“偉大なる四畳半”に住んでいまして、そんなところに住むといえばそこはほら、びんぼーということですね。まあ地方から上京した学生だから当たり前ですが。
 その物件は風呂無しトイレ共同という昭和正統派スタイルで、小さな“流し台”が備わっているだけマシでした。その流し台が入り口土間のすぐ脇にあるわけです。だからガスコンロで何か料理をしていると、こぼれたものはみんな土間へ、靴の上へと落ちていきます。自然、ここでの調理にはうんと気を遣った。フライパンでもナベでも慎重に扱わないと、これから食うぞ~という貴重な食料“本体”まで土間へ真っ逆さまなわけですから。
 何度も不幸な出来事がありました。卵焼きを落とす。チャーハンの半量を落とす。外に出る際に鍋を引っ掛けて、ひじきと人参の煮物をぶちまける。悔しさのあまり本当に泣いたこともありました。
 一度大好きな鳥もも肉を炒めていて、味付けも終了さあ食うぞ、という完成品を落っことしたことがありました。コンクリートの上ですから砂、埃にまみれて黒くなります。このときはどうしても諦めきれなくて、水で洗ってから食べました。ムダにしなかったんだ、俺は食い物をムダにしなかったんだ、と自分に言い聞かせながら食したのですが、人として何かを失ってしまったような気もしました。
 今朝のだし巻きはちゃんと捨てました。最初「あ、ヤバいこれ一昨日のだ」と気付いて匂ってみたとき、食べ物としては大変に間違っている匂いがしたのですが、そのあと何度も何度も匂いなおして、断腸の思いでゴミ箱へ。ひょっとして卵のストックが豊富だから出来たのか知らん。また今夜焼こう。