くらぶアミーゴblog

エッセイを綴るぞっ!

ある日の風景 森へ その3

2004-08-26 04:19:49 | 連載もの 森へ
 焚き火を起こした。今日はインディアン流“星形の焚き火”だ。小さな炎を安定して燃やすのに適している。キャンプファイアーではないから、これで充分だ。
 焚き火は不思議なものだ。一度始めると、どうしても火を絶やしたくないと思う。薪が足りなくなると本気で集めてしまう。そしてゆらめく炎を眺めていると飽きることがない。

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 ワインを飲んでいたらすっかり腹が減ってしまった。デイパックから食パンと大きなソーセージを取り出して、割いた清潔な薪の上に置いた。枝を削ってソーセージを突き刺し、火で炙る。
 気温が急速に下がってきた。
 ソーセージの表面に脂が染み出てきて、皮が破れた。そこから、たまらなくいい匂いが立ち昇った。食パンでくるんで両手でしっかりとつかみ、息を吹きかけて冷ます。肉汁の匂いを嗅ぐと、あごの内側から唾液がわいた。舌を焼かないように用心しながらかぶりつく。柔らかいパンのあとに香ばしい皮が音を立てて割れ、肉のジュースが飛び出した。夢中で飲み込み、またかぶりついた。

 白樺のあいだにグラウンドシートを敷いた。クローズドセルのマットを置いた上にシュラフを広げる。下着姿で潜り込むと、頭上には何度見ても新鮮な驚きが起こる星空。眺めているうちにも星の数は増え続ける。しかし目をこらすとぼやけてしまうのだ。リラックスして眺めていると、果たして空が上なのか、それとも寝ている自分が見下ろしているのか分からなくなる。あの空に落っこちるのじゃないかと思える瞬間がある。

 明日は丹波山村まで抜けて村営の温泉に入ってくるか。それから田舎蕎麦を食べて帰ろう。
 
 おわり

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彼こそ幸福な者


備考:この旅のエクイップメント 
18リットルのデイパック、ファーストエイド・キット、エマージェンシー・キット、国土地理院発行2万5千分の1の地図、飲食料(食パン2枚、ソーセージ2本、缶入りチーズ、赤ワイン1本、ビスケット少し、オレンジ1コ)、1.5リットルの水筒、電池式ライト、ナイフ、防水マッチ、グラウンドシート、シュラフ、シュラフカバー

追:この記事は『Juns Welt in ドイツ』“焼きソーセージ”にトラックバック

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ある日の風景 森へ その2

2004-08-25 15:55:35 | 連載もの 森へ
 空冷4ストローク、単気筒399ccのエンジンはリズミカルに働き続ける。青梅街道をひたすら西へ。梅郷、沢井といった地名のところまで来ると空気はすっかり違っている。ヘルメットのシールドを上げる。濡れた松の樹皮の、どこか甘い匂いが充満している。
 小河内ダム(奥多摩湖)の周囲はいいワインディングロードだ。デイパックは燃料タンクの上に固定してあるから安定している。しばらくコーナリングを楽しんだ。
 陽光の最後の幾筋かが残っているうちにキャンプ地へ到着。急いで河原まで降りて、寝場所と水を確保した。
 ここは街道をそれた道を奥まで入ってきたところで、あまり人はいない。それでも焚き火の跡はある。土地の人が川縁で食事をした、といった感じだ。東京の郊外にはこんな土地がいくつもある。誰にも教えたくない、でも誰かに自慢してみたいような、そんなサンクチュアリだ。
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月がのぼり、夜の虫たちが騒ぎはじめた。
大きな岩に腰掛け、チーズを囓りながらワインを飲んだ。
夜は上流から下流へと風が吹く。
川風に全身をさらしながら、しばらく独白と回想に浸ろうか。


 つづく
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ある日の風景 森へ その1

2004-08-25 15:55:02 | 連載もの 森へ
 久しぶりにホットコーヒーを淹れた。
 美味い。悔しいが、美味い。なぜ悔しいかと言えば、つい数日前まではアイスコーヒーを飲んでいたからだ。それがこうして熱いコーヒーをすすっても、もう汗をかかなくなった。つまり夏が去っていくということだ。それが何だかつまらないのだ。
 しかしこうして湯気とともに立ち昇る香りを嗅いでいると、ある欲求が次第に膨れあがってきた。それはバックカントリーへの回帰である。

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 まずはスケジュールの調節だ。20時間ほどぶっ続けで原稿を書き上げる。今週いっぱいかかって仕上げる予定だったエッセイが1本、ルポが1本終了。やれば出来るじゃないか、まったく。というよりもこんなことは取引先には絶対内緒である。
 それからまとめて睡眠をとろうと横になったが、なかなか寝付けない。興奮しているらしい。頭を振りながら電気をつけ、道具を出してみた。単車で出掛けるのだから持ち物は最低限のものだけになる。思い切ってテントも省略。観天望気の結果、雨は降らないと判断。大きめのデイパックに食料やファーストエイド・キットを詰める。シュラフとマットはストラップで固定した。用意を終えて満足するとようやく眠りがやってきた・・・。

 つづく