旅をするときの“足”、これには様々なものがあります。自分で車(もしくは単車)を運転していくのが一番好きですが、じっくりと風景を眺めるにはこれはやや不向きです。ましてや郷愁に浸る旅ともなれば、バスや電車が一番向いているのではないでしょうか。
以前、テレビの旅番組を観ていたときに、ある女優さんが訪問先を大変懐かしそうに眺めていました。あちこちに想い出がたくさんあるらしいのです。そして
「どれだけいろんなところに多くの想い出を作れたか。そんなことで人は生きていけるんですね」
とおっしゃってました。
旅というものを大きくとらえたとき、ある時期にどこかに暮らしていたとか、仕事で何年か歩き回ったとか、そんな一時期の状態も“旅”の範疇に入れてもいいのではないか、という気がします。例えば、学生時代に住んでいた街。会社の独身寮。赴任先。結婚して住んでいた場所。それぞれの土地には、その当時の濃密な想い出が詰まっています。そうして何かの折りにふと再訪してみると、そこでは独特の気持ちの高ぶりを感じることが出来ます。それはまぎれもない旅愁の一つのカタチだと思うのです。
去年あたりから男女5~6人で吉祥寺に集まって飲むことが多くなりました。このメンバーは僕が学生のときにアルバイトをしていた店の仲間で、その店が吉祥寺サンロードにあったのです。あれからじつに20年近く経っているのですが、みんな見た目はどこも変わってない。そうして吉祥寺で飲んでいると時間というものがどこかへ飛んでいってしまうようです。吉祥寺も平成に入ってからずいぶん変貌を遂げて、アルバイトをしていた店も一年前に閉店してしまいました。それでもあの街を訪れるたびに、僕は新しい記憶を呼び覚まされます。
椎名誠氏いわく「人生は旅である」。これから先も、生きていく限りは様々な土地に想い出を作っていくのだなあと思いますね。