くらぶアミーゴblog

エッセイを綴るぞっ!

そこまで、どこまで、アイ・ラブ・ユー 最終回

2007-08-26 09:28:01 | 連載もの そこまで、どこまで、アイ・ラブ
 尾上の報告によると・・・。
 あのあと、尾上と宮城がアパートに駆けつけてみると、周囲は静寂の闇の中であった。救急車の姿などは、どこにもない。
 部屋のドアをノックしてみたが、応答がない。
 そこで、宮城が、持っていた合鍵で中に入ってみると、彼女はベッドの中にいたという。
 それが、あきれることには、寝息をたててすっかり眠り込んでいたというではないか。
 宮城がそれを揺り起こすと、女は寝ぼけたままの瞳で彼を認め、
「ああ、やっぱり来てくれたんだ」
なぞと言ったとか。
 そのまま女は、宮城を抱き込むようにして、ベッドにもつれこんだという。
 それを見せつけられた尾上はたまったものではない。
 舌打ちの一つもして、苦笑いを浮かべ、部屋を出てきたのである。
 その後のベッドの二人がどうなったかは、言うを待たぬ。
「な、だから言ったろ。あいつはいつも大げさなんだよ」
 三鷹が言った。
「ったくなあ。見てみろよ、あの乳繰り合いをさ」
「とても見ちゃあ、いられねえ」
「ふざけんなっつーの!」
「いやー、みんな。昨日は僕、いろいろと、ごめんねえ!」
 宮城は上機嫌であった。

 おわり


そこまで、どこまで、アイ・ラブ・ユー その20

2007-08-25 09:43:17 | 連載もの そこまで、どこまで、アイ・ラブ
 あとに残された三人は、気が抜けたようになってしまった。
「うわー、めちゃくちゃに飛ばしていったぜ」
「尾上は速いからな」
「なんかさあ、こういうこと、前にもあったよなあ」
「あったあった」
「尾上もけっこう直情的だから、それに乗っかるんだよね」
「本当に飛び降りたと思う?」
 宝田の問いに、三鷹はしばらく考えたのち、ぽつりと言った。
「んなわけねえだろ」


 翌日の、夜。
 五人の仲間は、再び宮城邸に集合していた。
 この日も、彼の両親は不在なのである。
 昨夜と同じメンバーの中に、もう一人、女性がまじっていた。
 問題の、宮城が付き合っている女、その人であった。
 ソファに座り、しきりに、宮城にじゃれている。
 それがもう、見てはいられないような、いちゃいちゃぶりなのだ。
 どこも怪我をした様子はないように、見受けられるのだが・・・。 
 さ、そこで、昨夜の騒動である。


そこまで、どこまで、アイ・ラブ・ユー その19

2007-08-23 09:25:35 | 連載もの そこまで、どこまで、アイ・ラブ
「おい尾上。お前、大丈夫か? 酒に強いのは分かってるけど」
 三鷹が心配して訊くと、尾上は重々しくうなずいた。
 ヘルメットの中の目を見ると、笑っていた。
 彼は酔っぱらい、この騒動を楽しんでいるのである。
「黒川、お前のバイクを貸してくれ。俺のオフロードバイクじゃ飛ばせない」
 尾上が言った。
「えっ? だったら俺が行くよ。俺が宮城を乗せていくよ」
「いや、お前はアパートの場所を知らないだろ。俺が行ったほうが早い」
「そりゃ、まあ」
 黒川は呆然としながら鍵を渡した。
「だいぶ時間のロスをした。行くぞ!」
 尾上と宮城が大仰な動作で走り出た。すぐにガレージのほうからエンジンの轟音が聞こえ、住宅街の中を去っていった。
 開け放ったままの玄関から、冷たい空気が流れ込んできた。
 蛙の声が、ことさらに大きく聞こえてくる。
 この時期、水田の蛙たちは、一気に孵化するのだ。
 まもなく、梅雨の季節なのである。


そこまで、どこまで、アイ・ラブ・ユー その18

2007-08-16 20:24:46 | 連載もの そこまで、どこまで、アイ・ラブ
 本当の事件の渦中にいるのだという興奮が起こったのだ。
「尾上はアパートの場所を知ってるんだな?」
 黒川が念を押す。
「知ってる。飛ばして行けば、30分もあれば着くはずだ。よし、俺が乗せて行ってやる」
 尾上が言った。
「宮城はヘルメットを借りて被れ。念のためグローブも借りてつけろ。足元はブーツにしないと駄目だ」
 尾上は矢継ぎ早に指示をし、自分でもヘルメットを被った。
 興奮しているのが看て取れる。普段なら、家の中からヘルメットを被っていくことはないのだ。
「じゃあさ、黒川と三鷹と宝田はここで待機しててくれよ。あいつから電話がくるかもしれないから、そしたらバイクで向かっていると伝えてくれよな」
 宮城もてきぱきとした口調になった。尾上の影響を受けて、人格が変わったようになっている。




そこまで、どこまで、アイ・ラブ・ユー その17

2007-08-11 13:31:01 | 連載もの そこまで、どこまで、アイ・ラブ
「コンクリートに頭から落ちたらどうする!」
「そりゃ、ヤバイいよな」
 三鷹の顔色が変わった。
「落ちるときは、重い頭が下になるって言うしな。そうすれば脳挫傷を起こす可能性もある」
 三鷹は医学部を目指していたこともあって、医学知識が豊富な男であった。
 その専門的な言葉が、19歳の若者たちに、不吉に響いた。
 宮城も自分で言いながら、青ざめていった。
「うーん」
「これって、本当にヤバい状態なのかも」
「こういうとき、どうすればいいんだろう」
「うわっ!どうするどうする」
「頼む。この通りだ。誰か、乗せていってくれ!」
 宮城が頭を下げた。
 もし本当に、宮城の彼女が死んでしまったら、それは大変なことだ。
「すぐに行ったほうがいいな!」
 尾上が態度を一転、突然言い放った。
 この言葉で、5人は一気にパニックに襲われたようになった。