翌朝、予告通り(?)通訳の人はやってきませんでした。しかし無断欠勤はイカンです。携帯に連絡してみました。
「ああ~、おはよう。ちょっと起きられないんだ~」
「体調悪いですか? 大丈夫ですか?」
「あのね、今日ちょっとサボらせて~。内緒ね~」
「え、でも俺会話出来ないよお」
「大丈夫大丈夫。参考書1、2冊買えばOKよ~」
やややや。結局彼女はその日以降、半分くらいは休んでおりました。最終日が終わったときに彼女は言ったものです。
「こんなにサボらせてもらって、嬉しかった~。あなたもイタリア語上達したからいいじゃない、ね」
そんなこともあって(どんなだ)、僕は自然と三人のイタリア人と親しくなりました。昼には弁慶橋のボートハウスで一緒にランチを食べます。そこまでの行き帰りにレオパルドは僕の文法の間違いを根気強く訂正してくれます。
「僕は幼い頃、田舎に住んでいます」
「住んでいました、だよ」
「ここが昨日教えた店僕に」
「ここが昨日、僕が教えた店、だろ」
彼らの昼食はハンバーガー1つとコーヒーだけ。もしくはサラダだけです。いつも物静かなマッスィモに訊いてみると「たくさん食べると動きが鈍るし、眠くなる」とのこと。う~む、恐るべし。
また仕事中の飲み物は、エスプレッソかペットボトルのぬるい水だけ。室内はかなり暑かったので、日本人の職人はみんな冷たい缶コーヒーとかコーラを飲むわけですが、余分に買ってきて渡そうとしても三人は受け取らない。
「缶入りの飲み物は身体に良くない」
「冷たいものは内臓を冷やすんだよ」
つまりはなるべく自然にある状態で体内に摂り入れたほうがいいのだ、ということらしいです。そこはなかなか頑固でした。
最終日の夜、彼らが馴染みになっていた渋谷のイタリア料理屋で一緒に夕食を食べました。打ち上げです。
三つ年上の、やたらと面倒見がいいレオパルド。哲学が好きだと言っていた、僕と同い年のマッスィモ。アメ車が大好きでひょうきんな27歳ファビリッツィオ。そして実は健康な通訳の女性と僕です。ワインがすすんで大いに盛り上がりました。
「おいアヤート、この人(通訳の人)と結婚してフィレンツェに来いよ。仕事ならあるぞ」
「おいアヤート、新婚旅行はフィレンツェに来るんだぜ」
「おいアヤート、イタリア語をもっと勉強しろよなあ」
「おいアヤート、おれは酔っぱらった」
大騒ぎです。
そのときに教えてもらったこと。
トーストしたパンはオリーブオイルと塩こしょうで食べる
パスタとピッツァは熱いうちに食べないと身体に悪い
デザート食べないなんてものすごく変
三人ともなかなか頑固者でしたが、自分で決めたルールをキチンと守っているから何をやっても迷いがない。自信に溢れているのです。口にするものだけではなくて、彼らは行動とか生き様も実にナチュラルでしたよ。
おわり
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