くらぶアミーゴblog

エッセイを綴るぞっ!

三人のイタリア人 番外編

2004-06-30 11:36:17 | 連載もの 三人のイタリア人
 日本名変換ジェネレーター、なかなか面白かったです。コメントのおかげでみなさんの本当の(?)名前が判明しましたです♪ 教えていただいたみなさんにこの記事をトラックバックしてお届けします。
『your real japanese name generator!』は“漢字”に東洋の神秘とか魅力を感じているお方が作ったプログラムなのでしょうね。意味的背景が含まれている表意文字。
 以前配信させていただいた『三人のイタリア人』ですが、最後のお別れパーティーのときに彼らに渡したプレゼントを想い出しました。ファッビリッツィオ、マッスィモ、レオパルドを漢字に変換して縦書きの名刺を作ったのでした。すなわち
 
 ファビリッツィオ~風阿舞璃千男
 マッスィモ~益詩望
 レオパルド~玲央巴流土

「どんな意味が?」と問わないで下さいね。風雅な漢字を並べただけです。でも彼らは満足したようでした。とくに哲学が好きだと言っていたマッスィモは大喜びでした。
「おー、これが漢字か! 美しい! 意味が含まれているという文字だろう?」
「そうだよ。“益詩望”には美しい詩と希望という意味が含まれているよ」
「俺、詩を読むの好きなんだあ」うっとりと目を閉じました。レオパルドとファビリッツィオはニヤニヤしています。
「マッスィモさ、イタリアでは変わり者と言われているだろう?」
「ああよく言われるよ。どうして知ってるんだ?」

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三人のイタリア人  最終話

2004-05-16 07:11:53 | 連載もの 三人のイタリア人
 翌朝、予告通り(?)通訳の人はやってきませんでした。しかし無断欠勤はイカンです。携帯に連絡してみました。
「ああ~、おはよう。ちょっと起きられないんだ~」
「体調悪いですか? 大丈夫ですか?」
「あのね、今日ちょっとサボらせて~。内緒ね~」
「え、でも俺会話出来ないよお」
「大丈夫大丈夫。参考書1、2冊買えばOKよ~」
 やややや。結局彼女はその日以降、半分くらいは休んでおりました。最終日が終わったときに彼女は言ったものです。
「こんなにサボらせてもらって、嬉しかった~。あなたもイタリア語上達したからいいじゃない、ね」
 そんなこともあって(どんなだ)、僕は自然と三人のイタリア人と親しくなりました。昼には弁慶橋のボートハウスで一緒にランチを食べます。そこまでの行き帰りにレオパルドは僕の文法の間違いを根気強く訂正してくれます。
「僕は幼い頃、田舎に住んでいます」
「住んでいました、だよ」
「ここが昨日教えた店僕に」
「ここが昨日、僕が教えた店、だろ」
 彼らの昼食はハンバーガー1つとコーヒーだけ。もしくはサラダだけです。いつも物静かなマッスィモに訊いてみると「たくさん食べると動きが鈍るし、眠くなる」とのこと。う~む、恐るべし。
 また仕事中の飲み物は、エスプレッソかペットボトルのぬるい水だけ。室内はかなり暑かったので、日本人の職人はみんな冷たい缶コーヒーとかコーラを飲むわけですが、余分に買ってきて渡そうとしても三人は受け取らない。
「缶入りの飲み物は身体に良くない」
「冷たいものは内臓を冷やすんだよ」
 つまりはなるべく自然にある状態で体内に摂り入れたほうがいいのだ、ということらしいです。そこはなかなか頑固でした。
 最終日の夜、彼らが馴染みになっていた渋谷のイタリア料理屋で一緒に夕食を食べました。打ち上げです。
 三つ年上の、やたらと面倒見がいいレオパルド。哲学が好きだと言っていた、僕と同い年のマッスィモ。アメ車が大好きでひょうきんな27歳ファビリッツィオ。そして実は健康な通訳の女性と僕です。ワインがすすんで大いに盛り上がりました。
「おいアヤート、この人(通訳の人)と結婚してフィレンツェに来いよ。仕事ならあるぞ」
「おいアヤート、新婚旅行はフィレンツェに来るんだぜ」
「おいアヤート、イタリア語をもっと勉強しろよなあ」
「おいアヤート、おれは酔っぱらった」
 大騒ぎです。
 そのときに教えてもらったこと。
 トーストしたパンはオリーブオイルと塩こしょうで食べる
 パスタとピッツァは熱いうちに食べないと身体に悪い
 デザート食べないなんてものすごく変
 三人ともなかなか頑固者でしたが、自分で決めたルールをキチンと守っているから何をやっても迷いがない。自信に溢れているのです。口にするものだけではなくて、彼らは行動とか生き様も実にナチュラルでしたよ。

 おわり
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三人のイタリア人  その3

2004-05-15 04:42:00 | 連載もの 三人のイタリア人

 翌朝レオパルドにストーブとコーヒー豆を渡しました。彼はまたニヤっと笑って「グラ~ッツェ」。早速ファビリッツィオにエスプレッソを作るように命じます。僕はそのとき初めてエスプレッソマシーンの使い方を知りました。

_macchinetta150.jpg_macchinetta2150.jpg
けっこうたくさん入れます

_macchinetta3150.jpg_macchinetta4150.jpg
底部分には水を入れて、組み立ててセット完了

 あっという間に出来るんですね。三人は車座に座って小さな陶器のカップに注ぎ(どっから持ってきたの?)、砂糖をどばあーっ。
「飲むかい?」
「勿論、ありがとう」
 僕は普段コーヒーをストレートで飲んでいるので、砂糖を入れずに口に運ぼうとしました。するとレオパルドが
「おいおいおい、エスプレッソは砂糖を入れないとダメだよ、砂糖入れないなんてそれは変だよ」(憶測ね)
「あ、そう? じゃあ入れてみるか」
 レオパルドが自ら砂糖をすくって入れてくれます。だんだん分かってきたのですが、彼はうんと面倒見がいい男でした。で、どばあーっ。
「わわわわ」
「飲みなよ」
 甘いです。当たり前か。うんっと甘い。でもコーヒーが濃いから美味い。それまでカフェで飲んでいたエスプレッソよりずっと濃くて美味かったです。少量だからすぐに飲み干しました。カップの底には溶けきらなかった砂糖が残っています。
 これはチョコレートを食べるようなものなんだなあ、と思いました。血糖値が一気に上がるから元気が出る。カフェインも覚醒させる。なるほどなあ、砂糖は必須だ。
 その日彼らは初めてリラックスして仕事をやっていました。albero4さんも言ってたけど、彼らはエスプレッソなしでは生きられないようです。でも仕事の手は同じ。昼にまとまった休憩をとる以外はず~っと働きづめ。誰かがエスプレッソを飲みたくなるとファビリッツィオに命じて作らせます。彼は面倒くさいなあって顔はしますが、その分ちょっと休めることも嬉しいようです。何しろストゥッコは一日中腕を上げ下げしているのですから、そりゃあ疲れます。
 その日の夕方、だいぶ打ち解けたと思われる通訳の人に辞書を渡されました。
「あたしちょっと身体が弱いから、来られない日のために渡しておくね」
 はえ?
 翌日、彼女は現れませんでした。

 つづく
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三人のイタリア人 その2

2004-05-14 01:26:50 | 連載もの 三人のイタリア人
 さて、soroさんのnaturalな生活ぶりから僕は三人のイタリア人を連想したわけですが、彼らが口にするモノの“いかに自然に近い状態か”ということへのこだわりは次第に明らかになっていきます。
 彼らはストゥッコ(stucco)職人でした。これは日本でいえば漆喰のようなもので、コテとかヘラのようなもので幾層にも塗り重ねていく技術です。ドルチェ&ガッバーナの内装はこれで統一されているようで、紀尾井町の現場は壁と天井の仕上りがストゥッコの指定でした。
 日本のペンキ職人でもストゥッコ塗りをやる人はいます。しかし彼らにやらせると、決まってきれいなウロコ模様を描いてしまう。イタリア人にやらせると不規則な模様なんですが、それが仕上がると光の加減で微妙な陰影が現れて美しいわけです。まあそれは僕も工事の最後のほうで初めて知ったわけですが。
 二日目の昼下がり、彼らは三人でそれぞれ手持ちのエリアに散って三者三様の仕事をしていました。一番眠い時間帯です。突然静寂を破って、「ナァニィ~!」という大声が聞こえました。奥の部屋にいるレオパルドの声です。すると僕の近くにいた一番若いファビリッツィオが「ナニィー」と少し面倒くさそうに言い返します。顔はニヤニヤとしていました。暫くするとまた「ナァニィ~!」で、ファビリッツィオかマッスィモが「ナアニィイ~!」こりゃあいったいなんじゃらほい?
 通訳の人に訊いてみると、イタリアの子守歌の中に「ナァニイ」という赤ちゃん言葉があり、それは「眠れ眠れ」みたいな意味らしいのです。で、それを一番眠たい時間に叫び合っている。つまりはふざけてお互いに「ね~むれよねむれ~」とやり合って寝ないように牽制しているわけです。むっつりしていた彼らがとたんにそんなおかしなことを始めたので、僕はすっかり愉快になって「ナァニィ~!」とやり返しました。すると奥からレオパルドが出てきて「アヤート・・・」と八重歯を光らせてニヤリ。
 その日の夕方、彼らから相談を受けました。エスプレッソを飲みたいのだが、コンロはないだろうかというのです。見ると小さなエスプレッソマシーンを持参していました。「お、こいつは本場のエスプレッソが飲めるぜ・・・」
 僕は早速帰りにブルーギャスのカートリッジストーブとカフェ・ノワールのエスプレッソ用の豆を買いに行きました。これから現場は暫く面白いことになりそうです。
 
 つづく
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三人のイタリア人

2004-05-13 07:24:33 | 連載もの 三人のイタリア人

『No Blog,No Life!』soroさんの“朝食は、果物・緑黄色野菜のミックスジュース”を読んでいて、soroさんは毎日を本当にNaturalに過ごしているのだなあ、と実感しました。そうして僕は、ある三人のイタリア人と過ごした三週間の楽しい日々を想い出しました。
 彼らは紀尾井町のドルチェ&ガッバーナの内装のためにやってきました。マッスィモ、ファビリッツィオ、レオパルドという名前。フィレンツェの内装職人です。僕は現場監督でした。
 初日、通訳の女性を通してお互いにぎこちなく挨拶をかわしました。彼らは木訥で、東京という大都会にとまどっていたようです。そして僕はうまくコミュニケーションがとれるか不安でした。
「あなたを何て呼んだらいいんだ?」ーレオパルド
「ハヤトでいいよ」ー僕
「haーって言えない」ーレオパルド
「じゃあアヤートでいいや」ー僕
 これが最初の会話。勿論通訳を通してです。その後は専門的なやりとり~ここは仕上がったら何かつくのか、この照明はどれくらいの熱を出すのか、うんぬん~をしただけで、彼らは一言も無駄口を叩かずに黙々と仕事を始めました。僕の仲間も仕事に対する集中力は誰にも負けないくらい自信がありましたが、彼ら三人には驚いた。とにかく働く働く働く。昼の休憩までず~っと働いて、昼が終わったら今度は夜までず~っと休憩なし。日本の職人は午前十時と午後三時に約三十分の休憩を取る慣習があります。“お茶”もしくは“一服”ってやつですね。でも彼らは昼に休んだだけで、喉が渇けばペットボトルのぬるい水を飲むだけ。冷たい缶コーヒーを買ってきても受け取りません。煙草も吸わない。そして初日から残業をする気配です。
「何時までやるつもり?」
「キリがいいところまでやりたい」
 たいしたものです。僕は彼らに興味を抱き始めました。

 つづく