くらぶアミーゴblog

エッセイを綴るぞっ!

遙かなるラグーサへの道11 桃源郷

2007-01-31 21:41:22 | 連載もの 遙かなるラグーサへの道

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いかにもヨーロッパという風景
サン・ジミニャーノにて
(画像はクリック拡大可能です)

 細君の友人であるマリコ嬢が、ドライブに誘ってきた。
 古都サン・ジミニャーノとシエナに行こうというのだ。
 むろん僕らに否やはない。
 フィレンツェ滞在も三日目。小雨がちだった天候も、ようやく回復したようである。この時期、フィレンツェは雨期なのだ。
 彼女が借りてきたポンコツのホンダに乗りこみ、我々三人組はフィレンツェから高速S2を南下していったのであります。

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塔の上に登ると...

 そのホンダ(アコード)は面白かった。ガソリンとLPガスで走る仕組みなのだ。
 両方のタンクを装備していて、ガソリンがなくなってきたら、走行中でもガスに切り替えられる。すごく便利な仕組みなのである。
「でもやっぱり、ガスにするとパワーがないんです」とマリコ嬢は言う。「そのかわり、ガスは安くて経済的なんですけど」
 運転していない僕にはピンとこない。フムフムと相槌を打ちつつも、目は車窓の風景に釘付けとなってしまった。
 糸杉が整列した向こうに、なだらかな丘が連なっている。ずっと牧草地なのか、地面は鮮やかな緑一色で覆われている。
 丘の中腹に、紅葉した樹木がわずかに生えている。グリーンの中に、透き通るような赤やオレンジが浮かび上がっているように見える。
 これが、かのトスカーナの田園風景か。 

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いつか新緑の萌える季節にも来たい

 サン・ジミニャーノは静かで落ち着いた街でありました。
 しかしこの日は平日の午後。休日はやはり観光客でごった返しているらしく、女性二人はしきりに
「こんなに空いているのを初めて見た」
などと言うのだ。まったく想像が出来ない。
 古都には、人混みよりも静寂がよく似合う。
 冷たい風が吹きつけてきた。僕らは広場脇の小さなトラットリア(格式張っていない安いレストラン)に入り、ラザニアとワインの遅い昼食をとった。

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 暮れなずむシエナの街
路地からカンポ広場をのぞむ

 シエナに着くと、あっという間に陽が暮れてしまった。
 ドゥオーモ(一番大きい教会)、カンポ広場など、観光すべきところを急いで見て廻る。どれも興味深くはある。
 しかしこの頃、僕はイタリアの都市に麻痺してしまっていた。もったいないことだと思うけど、要するに飽きていたのですね。
 カンポ広場の、すり鉢のような斜面に立って建物を眺めていると、一人の老人が話しかけてきた。
「ここの建物は、すべて貴族の持ち物なんだよ」
「わしらのような凡人がいくらお金を出しても、オーナーになることは出来ない。こういう古い建物はずっと保存していかないとならないし、そういうのは貴族の義務なんだよ」
 土地の言葉で、そのようなことを教えてくれる。分かりやすく話そうと努力していることが、よく分かる。
 フィレンツェへの帰り道、車窓からは星がよく見えた。東京とは比べ物にならないほど夜空が澄んでいる。 
「あ、カシオペアだ!」
「すると隣がはくちょう座ですね」
「日本と同じ星座が見えるんだなあ」

 それから後も、フィレンツェでは多くの人と会った。日本人はもちろん、現地のイタリア人もいたし、友達の友達という英国人もいた。
 驚くべきは、そのすべての人物が、ブログが縁で知り合ったことである。
 遙かなる異国の地で思い知ったのは、人とのつながりのありがたさでありましたよ。


 つづく
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遙かなるラグーサへの道10 微笑み返し

2007-01-26 11:10:09 | 連載もの 遙かなるラグーサへの道

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朝日を浴びるフィレンツェ市
俯瞰して分かる、美しき無秩序建築群
(撮影:まゆみーな)

 フィレンツェに着くと、僕は寝てばかりいた。
 前半の旅の疲れが出たのと、どうしても馴染めない文化に反発したからであります。
 フィレンツェの人々は、自己主張がはっきりとしている。Firenze2400
 自分がしたいように行動する。
 自分というものに確固たる自信を持っていると言えそうだし、
「ずいぶん自分勝手だなー」とも言えるかもしれない。 
 例えば細い道を歩くとき、正面から来る人に気遣って、よけるようなことはしない。
 ご老人が来ようと団体さんが来ようと、絶対によけたりしない。
 気を遣ってくれるのはノラ犬くらいのものである。
 日本だと、道を譲ることに互いに気を遣いすぎて、最終的に
「おっとっと...」なんて鉢合わせしてしまうことがよくありますね。
 あれもばつが悪いものだけど、そんな事態にはならないのだ。
 僕はこういう部分での違いに、すっかり疲れてしまった。
「もっと周囲に気を遣えよなっ!」なんて、一人で怒っていたのであります。

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東京で知り合ったリカルド・ルーチに会いにいく
言葉は通じないけど、いいヤツだ

 しかしまあ、そんなにぷりぷり怒っていても仕方がない。旅は楽しまなくちゃ。
 こっちも自分のやりたいようにすればいいわけで、そう思うと不思議なことに、フィレンツェの人々は御しやすい存在になってしまった。彼らには裏表がないから、行動が分かりやすいのであります。
 店の人が無愛想だなあと思っても、こっちから微笑むと、相手も微笑むのであります。

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ジョットの鐘楼の中を登っていく
窓の外にドゥオーモの大屋根が見えてきた

 急に自分が認められたような気がして嬉しくなり、バール(カフェ)や商店に入るたびに、店員に向かって「ニコッ」っとやった。
 この場合、店員は女性が多かったので、どうしても女性に対してばかり微笑んだことになる。
 必然、女性との微笑みあいという新たな交流が急増したのは、やむを得ない。
「俺もまだまだイケるな」という、当初の目的とはかなり違った気持ちが起こることを禁じ得ない。

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フィレンツェ名物のTボーンステーキ
1kgのボリュームにたじろぎピンぼけとなった

 しかしこの微笑みあいが、あるとき突然不安になったのであります。
 笑みを返す女性の目に、何かしらの意志が感じられ始めたのであります。
 笑ってはいけない。
 その意志には、“男女間の想いのやりとり”といった明確なものが感じられた(と思う)。
 ちょっと前まで文化の相違にハラダチを感じていた人間が、今度は一転して文化の一致具合を確認し始めたのである。
 フィレンツェの女性は、行動がストレートだからなのか、眼力もかなり強い。こちらの目をとらえて放さない(ように思う)。
 それからは反省し、微笑みに加減をするようになった。
 男性にも積極的に微笑みを送ることにした。
 あまつさえ、ウインクなども試みた。
 実際、男同士のウインクというのはよく見られたのであります。
 こっちのほうは“男男間の想い”というものは特に感じられなかったので、安心して交流を楽しむことが出来たのであります。


 つづく
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遙かなるラグーサへの道9 旅も後半

2007-01-20 14:45:55 | 連載もの 遙かなるラグーサへの道

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翌朝のエトナ山の様子
溶岩も噴煙も見えない

 シチリアの最終日。本日も、何だか申し訳ないほどの快晴であります。
 午前中の飛行機に乗るために、我々は朝のアウトストラーダを南下し、カターニャ空港へと向かう。
 車中の話題は、やはりエトナ山。
「夕べの噴火、すごかったよね」
「しかしホテルの人も街の人も、フツーにしていたなあ」
「あれくらいは良くあることかしら?」
「なのかなあ。溶岩があふれ出たわけではないし」
 何はともあれ、地元の人は動じていないのだ。肝っ玉が太いと思わざるを得ない。
 あるいは全く気づかないで寝ていたのか...。

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おしりから乗り込むDC機

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フィレンツェではマラソン大会をやっていた

 ローマで一度乗り換えて、フィレンツェへ。
 ここは細君が暮らした街であり、ブログ仲間のalbero4さんが現在住んでいるところでもある。
 もっとさかのぼれば、『三人のイタリア人』で出会った職人もフィレンツェの人々でありました。僕とイタリアとの不思議な縁をつないだ街と言えるのだ。

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ウフィッツィ美術館にて
天井のドットは、一枚ずつ貝を貼ってある

 つづく
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遙かなるラグーサへの道8 噴火だっ!

2007-01-11 12:33:40 | 連載もの 遙かなるラグーサへの道

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 ラグーサの朝。
 旧市街の日の出を撮ろうと、部屋をそっと抜け出す。
 昨日の絶景ポイントに到着し、教会の壁に寄りかかる。老いたテリア犬が一匹、尻尾を弱々しく振りながら寄ってくる。
 ふと見上げると、教会の向かいにある家のベランダに、主人らしき男が葉巻をくわえて出てきた。
 旧市街を眺めて、一服、二服。
 腹の出たオヤジなのだけど、カッコいいんであります。自分の街に誇りを持っていることが、その一瞬でうかがい知れるのであります。
 男たるもの、かくありたい。

Ragusa1300_1  昨夜は街で学会があったらしく、ホテルはどこも満室でありました。
 しかし、親切なホテルの従業員が、貸しアパートを紹介してくれたのであります。料金はホテルの半額程度だったから、結果としては実に良かった。朝飯も、近くのバール(カフェ)の食事券をくれたのが嬉しかった。
 ここのクロワッサンは、細君いわく
「これまで食べた中で一番美味しいかも!」。  


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アウトストラーダを疾走するのが夢だった細君
しかしスマート(小型車)にも抜かれてしまう
イタリア人のスピード狂、あなどるなかれ

 いよいよシチリア島の最終地、タオルミーナへ向かう。ここは映画『グラン・ブルー』の舞台になったところで、シチリアでも屈指のリゾート地ということでありますぞ。

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 まず向かったのが、丘の上にあるギリシア劇場。
 客席の一番上に座ると、舞台の背後には美しい海とエトナ山が見えるというロケーションなのだ。Taormina7400
 崩れた煉瓦。
 風になびく、名も知らぬ花。
 パチンと手を叩くと、きれいに反響して返ってくる。
 この荒廃ぶり、遺跡好きにはたまりません。
 このように、舞台を前にして、客席が半円形に広がるのがギリシア風劇場なのだそうです。
 一方、舞台が中心にあって、客席がぐるりと取り巻いているのがローマ風劇場なのだそうです。
 現物を前にすると、なるほどと得心がいくのであります。
 ところで、タオルミーナ名物のエトナ山は活火山なのですが、これがこの後、凄まじいことになることを、我々はまったく知らないのであります。

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何も知らずにポーズを取る男たち
4月9日広場にて

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この晩、珍しいアーモンドの酒を飲んだ
ゴマビスケットを浸して食べると美味

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 食事を終えて部屋に帰ってみると、なんとエトナ山が噴火しているではないですか!
 溶岩が流れて、赤々と光っているのが見える。
 あまつさえ、水蒸気がもうもうと上がっている。
 恐るべき地球の生態、脈動するマグマ。
 このままリラックスしていて、いいのか!?


 つづく
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