くらぶアミーゴblog

エッセイを綴るぞっ!

遙かなるラグーサへの道8 粋なオヤジと街の灯

2006-12-29 10:03:33 | 連載もの 遙かなるラグーサへの道

 この連載も、はや8回目を迎えた。
 どうやら、このまま年を越しそうである。
 みなさま、どうぞどうぞ良いお年を。

Caltagirone11600
どこを撮っても絵になる街、ラグーサ

 カルタジローネを脱出するのに、手間取った。
 SS514という高速道路に乗ればいいのだが、途中で標識が消えてしまうんであります。
 いつの間にか、坂を登り始めている。
 カルタジローネは山の上だから、いったん下って行かないといけない。
Caltagirone12600_1  三度ほど“下って登って”を繰り返したあげく、SS514が工事中であることが判明。
 こうなると『RAGUSA→』という標識だけを頼りに進むしかない。
 必然、予定とは違う道を進むことになる。
 SSではないから、道路が荒れている。
 八ヶ岳あたりの農道を走っているような具合になってくる。
 あまつさえ、レモン畑のあいだに突入したりする。
「こんなところのはずはない」
「Uターンしたほうがいいよ」
「よしきた」
 しかしUターンしてみると、『RAGUSA→』という標識はしっかりとその道を示している。
  ものすごーく疑いながら(この疑いよう、イタリアに行ったことのある人ならうなずけるでしょう)も、ともかく車を進めていくのであります。

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「迷い道、くねく~ね~♪」と、渡辺真知子の気持ちになりつつ、ようやくラグーサの新市街に入る。
 ところで、ラグーサというのは新市街と旧市街に分かれております。僕が見たい景色というのは、新市街のどこかから、旧市街を見下ろしたものなのだ。
 その場所がまた、分からない。
 チェントロ(街の中心部)に車を駐めて、足で探すことにする。
 今夜の宿もとっていないこともあり、次第に気分が焦ってくる。
 本当は暮れゆく中の旧市街を撮りたいのだけど、そうも言ってられない。
 息が“はかはか”としてくる。
 やはり俺は興奮しているのだ。
 興奮のあまり、一人称も「僕」ではなくなるのだ。
 ある細道を下ろうとすると、通りに面した家の中にいるオヤジが、首を振った。そして
「...」
という風に、そっと指で方向を示した。
 むろん、我々は言葉を交わしてはいない。
「旧市街の見える場所は?」なんて訊いてもいない。
 見知らぬオヤジの静かな暗示を信じて、坂道を下りていくと...。

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とうとう俺はここまで来た

 これが、ラグーサなのであります。
 丘の上に広がるバロック都市、ラグーサの旧市街なのであります。

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これが全体像 早くも街の灯りがまたたく

 自分がそこに立っていることが実感出来ない。
 とにかくシャッターを切った。
 ここは観光スポットになっているらしく、観光客が何人もやってくる。
 陽が沈み、石畳が冷たくなってくる。
 ああ、読者諸賢よ。ここが十数年のあいだ夢みてきた、ラグーサなのであります。  

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えいやっと、もう1枚追加
翌朝、ラグーサの後ろから陽が昇った


 つづく
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遙かなるラグーサへの道7 陶器の街

2006-12-26 21:13:01 | 連載もの 遙かなるラグーサへの道

Caltagirone2400
ついにラグーサという標識が出てきたゾ!
(撮影まゆみーな)

 明けて、翌日の朝。シチリアも4日目であります。
 遺跡の街アグリジェントを出発。車はシチリアの南岸を、東に進んでいく。
 道沿いに咲いているのは、ハイビスカスやブーゲンビリア。
 窓からは暖かい風が吹き込み、後部座席の洗濯物を乾かしていく。
 右側に広がる海の向こうはアフリカ大陸なのだ。こりゃあ暖かい(日中は暑い)はずだ。
 本日は約140kmを走って、まずはカルタジローネという街を観光。そこからさらに約60kmを走って、いよいよ待望のラグーサに投宿予定であります。

 ところで...。
 実は、一つだけ気掛かりなことがありましてな。
 それは、ラグーサで今夜の宿を取っていないことなのですな。
「行けば何とかなるよ」と細君はのたまうが...。

Caltagirone3600
わわわ、ホントにここ通るの?
イタリアでは小さい車じゃないとイケン

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この階段、とても長~いのですぞ
立ち上がりにタイルが貼ってあるのですぞ
(撮影まゆみーな)

 海岸線から内陸に入り、車はぐんぐん標高をかせいでいく。カルタジローネは小さな山の上にありました。
 一番高いところにドゥオーモ(一番大きい教会)があり、そこから下は急峻な階段と、狭く曲がりくねった急坂。
 空を見上げると、自分が非常に狭い山頂に立っているような気がする。登山で頂上に立っているのと良く似た感覚なんであります。
 個人的には、これを「てっぺん感覚」とよんでおります。まさに非日常、異空間であります。

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ここがてっぺんだっ

 それでいて、街には暖かみがあるのですね。
 個人の駐車場に車を突っ込んでおいたら(それもまずいのだが)、持ち主がやってきて
「あまり長くならないんなら、もっとどーんと駐めていいよ」
みたいなことをおっしゃるのであります。
 陶器屋を冷やかしていると、店のあるじは
「日本から来たのか? トーキョーか? トーキョーは憧れだ、俺、いつか行きたい。夢だ」
 なんておっしゃるのであります。そういうこと言われると、にわかに愛国心がくすぐられるんであります。カルタジローネはいい街だなあ。


 つづく
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遙かなるラグーサへの道6 遺跡だ!

2006-12-23 11:57:20 | 連載もの 遙かなるラグーサへの道

Agrigento3600
紀元前の遺跡と最新の高層建築
シチリアも変わっていくのだ

 昼過ぎにSS(高速)を降りる。本日の投宿地であるアグリジェント付近に着いたらしい。
 イタリア旅行では、初めての土地に着いた場合、まずはその街のチェントロ(centro)を探すのが最善の方法。チェントロとは英語で言うセンター、すなわち街の中心部であります。そこにはインフォメーションがあり、旅人が欲しい情報が手に入るわけです。
 我々が欲しい情報は、
1、予約してあったホテルの場所
2、夕飯が食えるところ
3、この街(アグリジェント)の地図
 なのであります。
 何となれば、車はcentroと書いた標識に従って進んでいく、いや進めていくわけですね。

Centro400
下から三番目にcentroとある
何はともあれ、これを探して向かうこと

 同じ坂を上ったり下ったり、はたまた一方通行を逆走したりと、我らがシボレーは排気音も逞しく迷走する。
 なんとかチェントロに辿り着き、車を駐めたときには腹ペコでありました...。
 こうして宿も見つかり、チェックインも済ませた。ドライブインで昼食も腹に収めた。
 いよいよアグリジェント最大の魅力を観に行くわけですぞ。


Agrigento1400
撮影まゆみーな

 紀元前500年頃の遺跡、ディオスクーリ神殿の跡であります。
 イタリアであるシチリア島に、なぜギリシアの遺跡があるのか知らん。
 紀元前800年頃から、シチリア島の各所にはギリシアの植民地が出来たらしいです。
 ギリシア本土をしのぐほど栄え、大ギリシアとまで言われたその文明も、その後はカルタゴによって破壊されつくしたとのこと。シチリアは、様々な民族に侵略された歴史があるのですね。
 Ticket300このほかに、まるでアテネのパルテノン神殿のような遺跡も、ここアグリジェントにはあるのです。
 僕はそれが観たかった。
 何故か知らぬが、遺跡好き。
 しかしですな、それが修復中なのであります。全体が工事用ネットに覆われて、まるで見えないんであります。
 とほほであります、読者諸賢よ。
 →入場料は6ユーロ、プリペイド式であった



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この円柱群も工事用フェンスの向こう側
なぜかこういうの、すごく好き

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遺跡近くにあったオリーブの古木
寿命がとても長いらしい

 さて、この夜。
 トラットリア・ダ・ジョバンニというレストランで食べた夕飯が、まことに美味かった。
 味付けがみな濃いめで、それがいかにも地元の人の好みという感じ。

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シチリアのワインは太陽と風のかほり

 前菜で早くも食べ過ぎてしまったが、アーティチョークとリコッタのパスタがやたらと美味い。豚肉のグリルが巨大で嬉しい。
 こうしてアグリジェントの夜は更けていったのでありますぞ。


 つづく
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遙かなるラグーサへの道5 走れ太陽の大地を

2006-12-18 17:51:00 | 連載もの 遙かなるラグーサへの道

Plan600
どうやってシチリアを廻ろうか...

 パレルモの三日目、朝であります。
 下水のかほりのする部屋とも、これでお別れ。9時にはチェックアウトを済ませて、AVISのレンタカーを受け取りに行く。
 ところで、イタリア人はオートマチック車をまったくと言っていいほど使わないんですね。大きなクラスのベンツでも、マニュアルモデルしか走っていない。
 レンタカーも、オートマはあくまでもオプションで追加料金。
 なぜオートマを使わないのか。いや、嫌うのか。

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借りた車も当然(?)手動変速
何故なのかは本文を参照

「オートマを信用してないんだと思う」と細君は言う。
 その説明が、僕にも次第に納得出来るようになった。彼ら(彼女ら)はブラックボックスのような機械が嫌いなのですね。
 自分のタイミングで変速したいのに、勝手に変速されるのが嫌いなのですね。
 これはイタリア人に直接訊いてないのだけど、きっと当たっていると思うなあ。

 パレルモの市街を抜けて、高速(SS)121号線を南下する。
 本日は約130kmの距離を走行して、遺跡の街アグリジェントに投宿予定なのであります。
 右側通行ということで、いささか緊張感を持ってスタート。しかし、現地のドライバーはすさまじい運転をしております。センターラインなんかおかまいなし。自由奔放にご走行なさってます。
 おかげで、こっちも好きなように走らせていただきました。

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時速120kmで移動する洗濯物と細君

 車窓に広がるのは、一本の木も生えていない乾いた山並み。
 牧草地には、顔の黒い羊が群れている。
 彼方の岩山の山頂には、城壁の跡らしき建築物。
「こうやって自分で運転してると、いかにも旅をしてるなーという感じ」
「まったくですな」
「もう少し行くと、右側がコルレオーネ村ですよ」
「ゴッドファーザーですなあ」
「その先のパラッツォ・アドリアーノ村が、ニュー・シネマ・パラダイスの舞台になったところ」
「シチリアはロケ地の宝庫ですなあ」
 荒涼とした風景ばかりかと思いきや、ところどころで緑豊かな土地が現れる。そんなところには必ず橋の標識があったから、水の流れるところはやはり肥沃な土地なのだ。

 つづく
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遙かなるラグーサへの道4 さらばパレルモ

2006-12-15 12:03:58 | 連載もの 遙かなるラグーサへの道

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カテドラーレのゴシック式アーチ

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 パレルモの街中は、とても騒々しい。
 どんな狭い道路でも、車が入り込んでくる。
 日本ではもう見ることのない三輪自動車が、現役で走り回っております。 荷台にはカジキマグロが山積みだったりするのであります。
 何だかちょっと、懐かしい風景。



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 ノルマン王宮内、パラティーナ礼拝堂
 大々的に修復中

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天井も壁も金モザイクで埋まっている、はず

 ノルマン王宮の入場料は4ユーロ。2人分で1300円くらいだ。
 チケットを売っている警備員が、同僚とダベりながら応対をしてくれた。
 楽しい話題らしく、ずっと顔を見ながら話しをしている。
 客であるこっちを、全然見てくださらないのである。自動的に金を受け取って、伝票に記入している。
 ようやくチケットを受け取って去ろうとすると
「金は払ったか?」
というようなことを言ってくるのである。
「最初に払ったでしょ!」細君が強く言うと、「ああそうだっけ、へへ」といった具合。
 職務に対して、まったくやる気がないご様子なのですね。しかしこんなことは普通に見られるとのこと。いちいち腹を立ててはイケナイ。 

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左側の白い壁は、実は工事用ネットなのだ

 パレルモ観光でもう一つ行きたかったのは、郊外にあるモンレアーレという修道院。
 中庭の柱にモザイクが埋め込んであって、それが見どころということだ。
 見どころは見逃さないようにしなきゃ、と思う。
 しかし、ここに辿り着くのが大変だった。目的地に向かうバスがなかなか来ないのであります。
 折しも午後の一番暑い時間。熱波はサンサンと降り注ぎ、Tシャツ1枚でもくらくらしてくる。
 やっとバスが来たかと思えば、バス停に止まらなかったりする。
 その後を走って追いかけ、結局追いつけなかったりする(当たり前だ)。
 そもそもバス停には、行き先表示がちゃんと書いてない。みんな、何となく集まっている無法状態なのだ。

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モンレアーレ修道院の中庭

「だいぶ挫けてきた」
「どうしようか」
「確実に行けるバス停を、誰かに訊けばいいのでは?」
 しかし細君は、誰かに尋ねるのをしぶっている。その理由はだんだん分かってきたのだけど、現地の人に教えてもらったとしても、どうせアテにはならないのであります。
 あまり知らないくせに「113番から出てるわよ」なんて言うのだ。
 結局、中央駅まで行ってから仕切り直し。今度はうまくいき、バスはぐんぐん丘を登って行ったのであります。

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中庭に面した柱のアップ
柱すべてに色々な模様が埋め込んである

Monreale2400

Monreale1400

 1.5ユーロの別料金を払って、屋根の上に登る。これがとても良かった。
 煉瓦色の瓦を葺いた屋根が複雑に重なって、遙か彼方には海が見える。
 灌木しか生えていない、荒涼とした山並み。
 どこかでイヌが吠えている。
 焚き火の煙がたなびいて、夕方の匂いがする。
 少しずつ、眼下の街に灯りがともってくる。
 自分は旅行で来ているわけだが、こちらの人々は普通に生活しているのですね。

 すっかり暮れた中を、バスに乗ってホテルに帰る。いよいよ明日からはシチリアを車で廻る旅であります。

 つづく
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