超兵器磯辺2号

幻の超兵器2号。。。
磯辺氏の文才を惜しむ声に応えてコンパクトに再登場。
ウルトラな日々がまたここに綴られる。

高校野球の痺れるシーン

2016-07-24 18:35:58 | 出来事
梅雨空の朝、私を駅まで送ってくれた後、妻が自家用車の中で聞いていたFM横浜で母校からのメッセージが読み上げられたそうだ。「本日、夏の高校野球予選第1戦目なのだが、あいにく本校は『合唱祭』という行事と重なり、教員、生徒は応援に行くことができない。本校OBや所縁のある方はぜひ応援に駆け付けてくれないか・・・」聞いているとたまたま試合会場が我が家のすぐそばにあるようなので、妻はありがたくも単身、観戦に行ったそうなのだ。携帯に「先制点取ったよ」とメールがきたのだが、最初何のことかさっぱり分からなかった。息子と縁があったわけでもなく、知人友人がいるわけもなく、近所にある夫の母校という以外に何の関係もないのに感心に思っていた。対戦相手は進学校であるらしく、整然とスタンドに並んだブラスバンドとチアガール、応援団が盛り上げていたが、こちらはラジオで放送された通り暇そうな近所のオヤジと何とか駆け付けたOBらしき集団だけのまことに寂しい応援席だったらしいが、見事に初戦を勝利で飾り、中々面白かったということだ。

息子も高校を卒業し、同級生も部活のOBとなっている今、高校野球はかなり縁の薄いものとなってしまったが、逆に思い入れがない分気楽にハラハラせずに楽しむこともできそうだと思った。曇り空の休日に試合があったら見に行こうかなと思っていたら、今度は妻の友人の母校の試合だという。お嬢さんがブラスバンド部の3年で負けたら最後(当たり前か)の出番になるから見に行こうという誘いがあったようなのだ。場所は保土ヶ谷球場、今でこそ開会式や決勝は横浜スタジアムだが、ドカベンでも何度か登場した、その昔県予選における聖地と言われた球場だ。元は甲子園に何度も出場し、プロ野球選手となった者も何人もいる伝統校だったが、最近は少し低迷気味でシードも中々取れなくなっているという。しかし試合前の守備練習を見ている限り、どの選手も溌剌颯爽とプレーしており、小兵ながらまとまりもよさそうだ。「いい動きしてるじゃんか。すごそうなのはいないけど・・・」妻の仲良しの知人「もっちん(仮称)」は「あのチームはね、昔からテレビ撮影があると俄然力がはいるの。目立ちたがりが多いから・・・」お嬢さんは母親と同じ学校に進学したようだ。(なるほど保土ヶ谷球場は昔からTVKの撮影施設があるそうなのだ)

  

ウグイス嬢(ってもう死語?)がスターティングメンバーをアナウンスし始めた。打順、守備位置、背番号、そして出身中学も読みだされている。その中には何人か私の母校というのもあった。「相手のチームは○RYってのか?あんまり聞いたことないな。」「かなりいい進学校だよ。何か向こうのスタンドの応援席もシャンとしてるじゃん」妻は息子甘辛の高校受験の時に色々と情報収集したらしく、県内の事情には詳しい。子供が減って昔の「学区」というものがなくなり、県内の公立校もどこでも同じ条件で受験できるようになったから、我が母校の卒業生も至るところに散らばっているようなのだ。でも見ていると、試合前シートノック終了後もグランドに整列し帽子をとって頭を下げていたし、何をするにも礼儀と折り目が正しく「高校野球っていいよな」と思わせる爽やかぶりだった。時間になると両チーム整列して礼をした後、選手が守備位置に走り投手の投球練習が終わって、久々にプレーボールのサイレンを聞いた。両チームとも誰一人としてゆかりのある選手がいるわけでもなし、たまたま知人のお嬢さんがブラスバンド応援しているだけの縁だが、それでもスタンドの熱気とともに応援に力が入ってきた。

妻は親友のもっちんと共に応援スタンドまで行って楽器を演奏するお嬢さんの雄姿を写真に収めようとしたが今、個人情報の流出やいかがわしい盗撮事件なども多くて学校側の規律もかなり厳しくなっており、たとえ親と言えども試合中は勝手に生徒の写真を撮ってはいけないそうだ。スタンドにはベンチ入りできなかった選手が白い無地のユニフォームでメガホン片手に声援を送っている。以前は部員が200名近くいるときもあったそうだが、3年生で引退するまでに練習試合ですらほとんど出場することのない選手もいるそうだ。200校近くある野球部で甲子園に行けるのはたったの1チーム、99%負けて終わる時に向けて彼らは声を枯らしているのだ。しかしちょっとよぎったモノ寂しい気分を吹き飛ばすようなことが2つあった。

    

こちらのチームは割とマメに得点を重ねていたが、長時間攻撃することもなく、また高校野球にありがちの「移動には全力で走る」キビキビさも手伝ってわずか1時間余りで5回を終わってしまった。守備の選手たちがベンチに戻ると、会場の係員とその手伝いの高校生らしき若者が一斉にグランドに走り出て整備を始めた。炎天下の中、彼らのトンボの軽快さは目を見張るものがあり、あっという間に内野は波の全くない湖面のようになった。さらに係員がローラーを巧みに運転して仕上げの模様ができこれも颯爽と引き上げて行った。その時、相手側の○RYチーム選手はいつの間にかベンチの前に一列に整列し、合図と共に帽子をとって深々と頭を下げたのである。うーむ。。。何という素晴らしい態度か。「これだから高校野球っていいよね」という名シーンだった。最初、整列の意味が分からなくて、あの姿を写真に撮れなかったのが残念だ。

  

イニングが進み7回くらいだったろうか、こちらのチームの先頭打者がレフトオーバーのツーベースを放ってチャンスを迎えた時である。我々の席からは陰になってよく見えなかったのだが、捕球に走った際にレフトの選手が何らかのアクシデントにあったらしい。審判とセンターの選手がまずかけより、しばらくしてベンチからも駆け寄り、本部からも係員がレフト奥に向かって行った。どうやら負傷して立ち上がれないらしい・・・やがて「只今、レフト●◇選手の治療を行っているので、恐れ入りますがしばらくお待ちください」ウグイス嬢のアナウンスが入った。さらにしばらくすると係員におんぶされてレフトの選手が我々の前を横切り、バックネット裏に姿を消して行った。相手チームの選手だが、我が方のスタンドからも拍手が飛んだ。可哀想にあのレフトは交代してしまうんだと思ったのだろう。「たしか野球はサッカーみたいに足りない状態で試合再開はしないよな。適当なところで戻ることもないもんな」自分も少年野球をやっていたのに間抜けなことを言っていた。しかし「ただ今●◇選手の治療中ですので、もうしばらく・・・」というアナウンスがもう一度入ったのだ。

  

そんなに長時間ではなかったが、カンカン照りの中、両チームとそのスタンドは文句一つ言わず待ち続けた。やがて背番号7を付けたくだんの選手が走ってレフトに戻ってきた時、両軍スタンドから大歓声が沸き起こった。これまた中々爽やかなシーンだと思った。しかし思わず「やられた」のは彼が守備位置に着いた直後である。3塁側スタンドにいる我々全てに対して帽子を取って深々と頭を下げ、応援団は白ユニの選手全員がメガホンを振って大声援を持って応えたのである。まるで相手チームの選手にも「お前は一人じゃないぞ!」と応援しているかのようだ。「いやー、高校野球ってホントにいいもんですね」故・水野晴郎さんの感慨深い声が思い浮かんだ。高校野球そのものにあまり縁の無かった私は知らなかったのだが、最終回を迎えるとバックスクリーン上にはためいていた両校の校旗が一旦おろされる。そしてめでたくこちらチームの勝利となった時にいつもの「勝ちました○○高校の栄誉を称え、同校の校歌を斉唱し、校旗の掲揚を行います。」とかまして再び校旗を掲揚するのである。

    

しかし試合途中のグランド整備陣に対しての整列挨拶、負傷して復帰したレフトの礼儀正しい態度、それに応えた我が応援団・・・鳥肌ものの素晴らしいシーンに巡り合えた。我が母校はあんな立派なプレーができるだろうか?心配とも期待と両方あるが、何となく見に行ってみたくなった。調べてみると翌日に試合が予定されていたが、例の「黒獅子旗争奪の企業対抗戦」と同日だったのだ。はしごするには暑すぎてついつい昼間は海で過ごしてしまった。今回応援に行った「もっちん(仮称)」のチームは残念ながら昨日、強豪シード校に惜しくも負けてしまった。しかし我が母校は4回戦を終えてまだ勝ち進んでいるようだ。(それだけでも結構すごい)じかに応援に行く機会があるか分からぬが、保土ヶ谷球場で試合をするようだったら、ぜひワンセグででも見守りたいと思う。さすがに5回戦まできて「学校行事で教員生徒誰も応援に行けない」なんてことはないだろうから。


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4 コメント

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Unknown (小夏)
2016-07-25 13:33:05
師匠、こんにちは!
いやーーー、本文読む前に写真拡大しながら見ていてスゴイ屈伸入ったトンボに「なにごと」かと思いましたよー!!
なるほどなるほど、一言で高校野球といってもテレビでみる試合結果とかじゃなく自分の眼で見ますと広がりますね~!我ら大人からすると心洗われる感動もの。そんなきっかけを作ってくれた奥さまに感謝ですね^^
○RYってどこだろう・・(独り言)
私もナゴドで打撃練習から見るのはちょっと通じるものがあるのですが、ピュアな高校野球に痺れちゃいますね。これで師匠の母校が毎回校歌唄ってくれたら最高!祭りになっちゃいますね。

「黒獅子旗争奪の企業対抗戦」ってのアレでしょうか?
ラジオ聞きながら草取りしていたら西濃運輸の試合経過が時折入り「今までこんなのだった?盛り上がってる~」と。もしや師匠も駆けつけていらっしゃるんかなと思いました^^
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Unknown (磯辺太郎)
2016-07-25 22:39:29
小夏さま

こんにちは。さすが眼のやりどころが師匠は鋭い!トンボアクション、すごく切れがよくてスピーディだったんです。VTRの早回しみたいな動きでした・・・
テレビで見ているだけでも結構すがすがしいですが、実際に見ると一つ一つの仕草もプロや社会人とはちょっと違う世界が発見できます。
○RYは私も知らなかった県内の進学校のようです。
今回は知りませんでしたが、校歌って久々に聞くといいもんですよね。

でもやっぱりビール飲むなら黒獅子旗争奪戦!おっしゃる通りこの季節の名物です。
年々盛り上がってきたようですが、昔名門と言われた野球部も不況の煽りで廃部になってしまったりもしてますね。
休日にお友達夫婦と2度声を枯らしました。
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Unknown (月美)
2016-07-26 01:18:35
読んでいて嬉しくなりました^o^ 息子達が高校球児だったので、恐らくダブルヘッダーの練習試合含め年間120程?の試合数の 1/2は追っかけ応援したとして かなりの数の試合をこれまで観てきました。なので グランド整備の手際の良さ それに対するお礼の挨拶 負傷して中断した後の選手の態度 またそれに拍手で迎える応援団の姿などは 高校野球では当たり前のよく見る光景でしたので 逆に感覚が麻痺しておりました。けれどもその一つ一つを気に留めて 感動して下さったという文章を読み、私も高校野球の素晴らしさを「そーなの!そーなのよ〜!」と改めて思い返しておりました。どのスポーツ観戦もそうですが、選手の熱い思いが伝わるプレーや態度を、観ている観客側が感じ、それを声援や拍手で表現し、そこにいる全ての人が たった一つのボール(球技だとしたら)を気持ちで追いかける一体感が、やっぱりスポーツ観戦のたまらない醍醐味だと私は思います。
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Unknown (磯辺太郎)
2016-07-26 06:03:35
月美さま

こんにちは。なるほど、お子さん達が高校球児(うーむ、いい響きだ)とは以前この場で伺いましたっけ。練習試合含めてのおっかけ応援を年に何十試合も行くとはすごいですねえ。
なるほどあれらの痺れる爽やかシーンは高校野球では当たり前なんですか。普段あまり接することのない我々にはものすごく新鮮に見えました。ダブルヘッダーにはなりませんでしたが、社会人野球との違いは色んな面にありますね。
応援している選手たちにパワーをもらう、というのはいつも感じていることでした。グランドとスタンドでは常に「見えないキャッチボール」があるんですよね。「相手を倒せ」とか「根性見せろ」とかではなく、「お前は一人じゃないぞ」という応援が好きです。
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