コロナ禍、自殺増える背景 女性や中高生の悩みが深刻化
2020年10月21日 朝日
今年7月以降の女性の自殺者の数が増えているのは、新型コロナウイルスの感染拡大による経済面や家庭での悩みが影響している可能性がある、との分析結果を21日、厚生労働相の指定を受けて自殺対策の調査研究を行う「いのち支える自殺対策推進センター」が発表した。
警察庁によると、自殺者数は7月から3カ月連続で前年同月を上回っている。8月(速報値)は前年同月より251人多い1854人だった。このうち女性は651人で約4割増加した。
センターは、7月以降、同居人がいる女性や無職の女性の自殺が増え、人口10万人あたりの「自殺死亡率」を引き上げた、と分析する。コロナ禍では多くの非正規雇用の女性が仕事を失っている。DVの相談件数や産後うつが増えているとの報告もある。「経済・生活問題や、DV被害、育児の悩みや介護疲れなどの問題の深刻化が影響した可能性がある」としている。
8月には、中高生の自殺が2015年以降で最多の58人にのぼり、特に女子高校生が増えている。センターは、オンライン授業の進度についていけないなど、コロナ禍での自宅や学校での環境の変化が影響しているとみられる、とした。さらに、7月下旬の俳優の自殺報道の後、主に10~20代の自殺が増加したといい、「報道が大きく影響している可能性が高い」とした。
一方で、4月から6月にかけての自殺者数は、過去5年の傾向からの予測値よりも少なかった。センターは、新型コロナの感染拡大を受けて「命を守ろう」とする意識が高まったことなどが影響した、とみている。また、政府の支援策である住居確保給付金、緊急小口資金、総合支援資金は一定の自殺抑止効果がみられた、としている。
センターの清水康之・代表理事は「女性や中高生の抱える問題は深刻化している。今後は、経済・生活問題で亡くなる人が多い中高年男性もリスクが高まることが懸念される。背景の様々な問題の対策を強化する必要がある」と話した。
コロナうつの先に…若い女性の自殺「不安が止まらない」
2020年10月26日 朝日
新型コロナウイルスの感染拡大により、私たちの生活は大きく変わった。「コロナうつ」という言葉も生まれ、こころの不調を訴える人が増えている。特に若い女性への影響は、自殺者が増えるなど深刻だ。何が起きているのか。
ガールズバーが閉店し……
川崎市内で子どもから高齢者、障害者らの相談を受け付けている民間施設では、緊急事態宣言が出された今年4月以降、20~30代の女性からの相談が増えている。働いていたガールズバーが閉店してしまった、幼い子どもと毎日の食事にも困っている、日雇いの仕事を失ったパートナーから虐待を受けている――。
家庭訪問や食料支援などでサポートしていたものの、アパートの家賃を払えなくなり、居場所が分からなくなってしまった人もいるという。
担当者は「直接相談できる場にもなっていた子ども食堂も一時できなくなった。子どもの学習支援を通じて家庭の相談を受け付けるなどしていたが、地域や支援者とのつながりが薄れることで、悩んでいる人が埋もれてしまう可能性がある」と危惧する。
その心配を裏付けるように、7月以降、自殺者が増えている。厚生労働省によると、今年4~5月は前年同月を15%以上、下回っていた。だが、8月の自殺者は前年を20%以上回る1854人、9月も1828人と上回る。中でも影響が深刻なのが若い女性だ。
8月の男性の自殺者数が前年同月に比べ10%増だったのに対し、女性は45%も増えていた。特に20歳未満の女性は前年同月の3・6倍で、30代、40代も1・5倍以上に増えていた。9月も女性の自殺者数は640人と、前年より33%増えていた。
なぜこんなことが起きているのか。日本精神神経学会理事の水野雅文・東邦大学教授は、「日本では家庭を持つ女性が家事や育児に犠牲を払わざるを得ない家族の形態があり、負荷がかかっているのではないか」と見る。大学病院の精神科病棟にも女性の入院が増えており、自殺未遂など深刻な状態で入院してくるケースも少なくないという。
著名人の自殺の影響も
10代、20代の女性を支援するNPO法人「BONDプロジェクト」の橘ジュンさんは、「コロナの感染拡大で先が見えない不安に加えて、保健師による相談室や、病院のカウンセリングや学校の保健室、公園などの居場所に行けなくなってしまった。電話で受け付けていても、親がそばにいて電話できなかったり、自分のことを知らない人に説明するのが難しく、電話で事前の予約を取りづらかったりする人もいる。不安は止まらなくなることがあり、死にたいと思ったときにその場所から離れて、安心できる人と話せる安全な場所があることが重要」と話す。
10代女性の場合、家庭の問題が多いという。家族からDVを受ける例や、親があまりにも新型コロナの感染予防に神経質になり、「家から出るな」と強く言われて家出した少女もいたという。
著名人の自殺の報道も、影響を与えたと見る。BONDの多田憲二郎さんは「この世代は感受性が強く、報道から感じ取ることも多い。BONDにつながる女性たちは元々自傷行為をしている子も多く、とにかくネットやテレビから離れるように伝えていた」と話す。
同団体が6月、過去にLINEでつながった女性に行ったアンケートでは、回答した950人中、「消えたい、死にたいと思った」人が69%に上った。
国際的にも、女性への影響は早くから指摘されていた。今年3月に国連が公開した政策提言では、産前産後ケアなどのサポートを受けにくくなり、妊産婦は特に不安になる可能性があると指摘。休校で子どもが家にいる時間が増えたり、高齢者介護の必要性が出てきたりと、女性の負担が増えストレスが強くなると注意を呼びかけていた。
海外でも若者に
約5万3千人が回答した中国のオンライン調査では、35%が心理的苦痛を経験しており、女性の回答者の方が、男性よりも心理的苦痛が高かったという。年代別では18~30歳の若年者で、心理的苦痛の度合いが高かった。ソーシャルメディアから大量の情報を入手していることが、ストレスを引き起こしやすいのではないかと指摘している。
約5万5千人が回答した英国のオンライン調査も、約18%がロックダウンが始まった月に自殺未遂または自傷行為を経験したと答えていた。男女比はほぼ同じだが、18~29歳が30%と年代別では最も多かった。そのうち、友人や家族などに相談する人の割合は以前の報告よりも多かったが、メンタルヘルス専門家と話した人は減っていた。
重症急性呼吸器症候群(SARS)や新型インフルエンザなどの流行時には、感染拡大防止のため、隔離された人に心的外傷後ストレス障害(PTSD)やうつの症状が長期に残る人もいた。16~24歳と年齢が若く、女性や、子どもがいる人などで負の心理的影響が出やすかったとする研究がある一方、年齢や子どもの有無との関連はないとする研究もあり、感染症の流行とメンタルへの影響の評価は定まっていない。
東邦大の水野さんは「コロナ禍で行動変容を求められた結果、不安や抑うつが高じてきている。この状態が俗に言う『コロナうつ』ではないか」と話す。
「ツールの変容などによるコミュニケーションの変容は、人が慣れていくのに本来時間がかかるもの。新しい生活様式などあまりにも変化が早く、半年ぐらいでは人はついて行けない。人間にとってコミュニケーションやつながりが生理的にどういう意味を持っていたのか、見直す時期なのではないか」と指摘する。「不眠やイライラ、食欲低下は誰にでも起こるが、その強さと期間がちょっと長いなと思ったらそれがサイン。頑張りようのない不安などに気づいたら、病院に相談してほしい」
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます