中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

部下から「逆パワハラ」(パワハラ③)

2017年11月09日 | 情報

「なぜ逆パワハラが起きるのか」。それよりも「なぜ、パワハラは起きるのか?」
「なぜ、人はパワハラをするのか?」。識者、研究者の答えが欲しいものです。
しかし、未だに、納得できる回答を得ることができません。
因みに、パワハラ議論の出発点である、「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」
(座長:堀田力さわやか福祉財団理事長)の提言にも、明解な回答はありません。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000021hkd.html

部下から「逆パワハラ」 ネット社会でゆがむ上下関係
2017.9.20 日経

部下が上司にパワーハラスメントをする「逆パワハラ」がジワリと広がっている。
働き方改革が進むなか、上司からのパワハラに対する目は厳しくなっているが、なぜ逆パワハラが起きるのか。
インターネットの普及で、職場の環境や働き方が大きく変わり、
上司と部下の関係にもゆがみが生じていることが一因のようだ。
逆パワハラの実態や対処法などを田辺総合法律事務所(東京・千代田)の弁護士、友常理子さんに聞いた。

■部下から辛辣なメール
「部長失格!」
都内の大手企業に勤める50代の部長のAさんに部下の30代のBさんからメールが届いた。
両者はデジタル関連の部門にいたが、年配のAさんはIT(情報技術)に疎い面もあった。
Bさんは、「部長の指示は不適切、管理者としての能力を疑う」という辛辣なメールを何度も送った。
さらにBさんからAさんに「資料を書き直して」とまで要求、まるで上下関係が逆転するような状況になり、
Aさんは自信喪失の状態に陥ったという。
だが、誰にも相談できなかった。デジタル技術に関しての知識は明らかにBさんの方が上。
Aさんが直属の上司に相談すれば、自らの無能ぶり、管理能力不足を露呈するだけ。
結局、思い悩んだAさんは精神疾患になり、事態が発覚。Aさんは人事異動になり、上司と部下の関係は解消された。
「厚生労働省などでは、2012年ごろにはすでに『逆パワハラ』といわれるようなケースが取り上げられていました。
さすがに部下が上司に暴力を振るうといった極端な事例は、ごく少ないものの、嫌がらせをされたり、
無視されたりなど部下からハラスメントを受けたという相談も実際にみられるようになってきました」。
友常弁護士はこう話す。
ただ、部下からの逆パワハラは、実態を把握しにくい。
あるIT企業で上司からのパワハラでうつ病になったといわれる課長職だったCさん。
しかし、本当の原因は部下たちからの無視、逆パワハラだったと明かす。
「確かに私の直属の上司はパワハラ体質でしたが、人情家で、嫌な人ではなかった。
自分が苦悩したのは部下たちが私の指示を無視して、業績が下がったためです。
私は地方から東京本社に着任したばかりで、今までと全く違う業務だった。
常に正しい指示を下していなかったかもしれないが、他の上司の指示は聞いても私を徹底的に無視した。
結果、部下たちを掌握できず、直属の上司から何度も叱責された」という。
Cさんは職場で孤立、精神的に追い込まれ、結局うつと診断された。
社内ではCさんがうつになった原因は直属の上司からのパワハラということになった。
「本当は違うのですが、部下が原因なんて恥ずかしくて言えない」とCさんは嘆く。
厚労省がまとめたパワハラ調査では、上司から部下に対するパワハラが圧倒的に多く、76.9%(16年)。
一方で、部下から上司へのパワハラはわずかに1.4%(同)だった。
ただ、「部下にパワハラを受けたと、上司が社内の人に打ち明けたり、
相談することはなかなか難しい場合が多いようです。
その時点で上司失格の烙印(らくいん)を押されるのではと不安に感じるのかもしれません」(友常弁護士)と
表面化しづらいのが実情だ。

■叱れぬ上司とモンスター部下が増加
逆パワハラはなぜ起きるのか。その背景には上司によるパワハラが社会問題化するなかで、
部下に必要以上に気を使い、「叱れぬ上司」が増えたことがある。
一方で、ネットで知識や情報が共有化され、「部下の権利意識が高まり、あの上司の発言はパワハラではないか、
指示は不当ではないかなどと過剰に反応して、上司を攻撃するケースも出てきています」(友常弁護士)という。
気弱な上司に対して、部下の「モンスター社員」が増えているわけだ。
職場のIT化が進むなか、「若手の部下の方がITリテラシーが高く、結果的に能力の逆転が起きる場合もある。
『能力がない』と部下から罵倒されるケースもある」(友常弁護士)。
ネット社会になり、グローバル化が進展するなか、英語が堪能な有能な若年層は、
パソコンやスマートフォンを駆使して世界中から有効な情報を瞬時に収集し、仕事に活用する。
一方、年配の上司は、経験値に頼り、結果的に能力の逆転現象が起きている職場は少なくない。
最近流行の人事評価法も影響している。部下も上司を評価する「360度評価」を導入する企業が増えているからだ。
「あの上司は気にくわない」と複数の部下がマイナス評価し、実際に地位を失ったケースもある。
油断していると、部下の立場が強くなる場合がある。
年功序列は多くの企業で崩れ、実力主義のフラットな職場に移行しつつある。
中間管理職はまさにサンドイッチ状態だ。
旧来型の経営幹部は依然として厳しい指示を出すが、中間管理職は若手の部下に遠慮する人が増え、
逆にモンスター社員から厳しく突き上げられるケースがある。これが逆パワハラに発展するわけだ。

■ひとりで悩まず相談 指導力向上へ自分磨きも
どう対処すればいいのか。誰にも相談をせず、ふさぎこむと、うつなど精神的な疾病に陥る懸念もある。
「基本的には人に打ち明けて、悩みを吐露するのが第一歩だと思います。
社内の上司などには相談できない場合、多くの大手企業では、匿名で外部の窓口に相談することもできます」
(友常弁護士)という。
部下との関係がさらに悪化して訴訟になる場合は、メールや録音などを通じて証拠を確保することが肝要だという。
もちろん根本的な解決法は、上司自らが勉強し直し、
リーダーシップやマネジメントの能力を高め、部下に対する指導力をつけることだ。
先輩や後輩、上司と部下という関係だけで、部下が素直に従うのは一昔前の時代だ。
アサヒグループホールディングスの泉谷直木会長は「課長の次は部長ではない。
部長の能力がなければ、絶対に引き上げるべきではない」と指摘する。
「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏も、
「うまくいってない会社は、人事が停滞している。
偉くなっちゃいけない人が偉くなって、本来能力ある人が下に沈んでいる」という。
必要に応じて上司は厳しく部下を指導することも必要だ。
「私はいい人」とか、「気が弱いから」という言い訳は通じない。
柳井氏は「リーダーとは仏と鬼を行き来するものだ」という。
上司は部下をきちんと評価し、時には称賛し、時には叱責する必要もある。
柳井氏は多くの経営書も読み、リーダーとして現場でマネジメント力を高めてきた。
今の上司はさらに研さんし、知識をたくわえ、精神面も鍛え上げる必要があるといえそうだ。(代慶達也)


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