当該従業員が休職に入る場合には、あらかじめ以下についての説明が必要です。
ただし、会社の説明を全く受け付けないような病状の場合には、無理をすることはありません。
産業医のアドバイスを受けて、時期を見計らって実施しましょう。
併せて、必要に応じて、本人の了承を取り付けたうえで、家族にも同様の説明をします。
・所属長に、当該従業員が休職に入ることを説明し、業務の引継ぎ等を確認します。
なお、当事者が業務の引継ぎができないことも考慮しておきます。
・まずは、休職中は療養に専念し、疾病の速やかな回復を心掛けることが大切であることを
明確にしておきます。
・どこで療養するのか、住所、電話番号、メールアドレス等について、休職中の居宅等を再確認します。
・会社側の窓口を決めます。
休職者と会社を繋ぐ重要な役割です。理想は1人に特定することです。
これが複数だと問題になります。それぞれに発言内容に微妙な差がでることにより、
休職者の心理に不要な影響を与えることが懸念されるからです。
会社側の窓口は、人事労務部門、健康管理スタッフ、衛生管理者等が適任です。
一方で、ハラスメントの問題も含みますので、組織の上司、所属長等は、不適任です。
組織の上司、所属長には、本来の職務に専念してもらいましょう。
・次に、コミュニケーションを取る頻度です。月に1回と緊急時とかいうようにします。
それと、連絡手段です。原則は、メールとして、緊急時は電話にするとかです。
・定期的に、診断書の提出を求めます。
基本的には、初期は1ヵ月おき、その後は、3ヵ月、6ヵ月おきにとします。
ただし、提出時期の判断は、定期的な面談を担当する従業員より随時報告をさせ、産業医を交えて検討します。
・会社は、休職する従業員に対して、就業規則のなかで、必要な部分を説明します。
例えば、私傷病休職とは何か、賃金規程とは何かです。
休職規程では、休職期間は何日なのか。勤続年数によって休職期間が異なるのが通常です。
それから、賃金規程です。休職中は、賃金、賞与の支払いはありません。
・なお、一度に沢山のことを説明しても理解が進みませんので、
復職の条件、復職の手続き、復職できない場合の対応等の先々の話は、
疾病の回復度合いなどを勘案しながら、頃合いを見計って説明してもかまいません。
・休職中は、賃金、賞与の支払いはありませんが、当然に社会保険に加入しているでしょうから、
健康保険から通常の賃金の約3分の2に相当する「傷病手当金」が1年6か月間支給されます
(国民健康保険にはない制度です)。
ですから、休職期間の上限を1年6か月間にしている企業が多いのです。
•一方で、休職期間中に給与がもらえなくても、
社会保険料(会社と折半)と税金(住民税)を支払う必要があります。
傷病手当金との相殺や、会社の仮払い等の手法もありますが、
会社が、休職者から毎月、社会保険料を徴収することをお勧めします。
その理由としては、この社会保険料の徴収時に、会社担当者は休職者と面談し、
治療状況や休職者の気持ち等の情報を収集し、会社内で共有することができるからです。
加えて、労働契約法第5条の安全配慮義務を果たすことにもなります。
とりわけ考慮しなければならないのは、「単身者」です。
精神疾患で、ひとり居宅に閉じこもっている場面を想定してみてください。
定期的に面談することは、安全配慮義務の履行の観点からも必要な作業になります。
・最も大切なことは、復職を認める条件の説明です。
これは、企業の考え方で全く異なります。両極端を示せば、以下のようになります。
●休職者の主治医による、復職できることを認める診断書が提出されれば、復職を認める。
または、
●休職者が、休職前の職務を遂行できると自己判断すれば、復職を認める。
多くの企業は、上述の2条件の中間のどこかを自社の経営方針や企業文化に従い、
検討・模索を重ねて、規定しているようです。
小職としては、今回のように50~60人規模の企業の場合には、
「休職者が、休職前の職務を遂行できると自己判断すれば、
休職前の職務への復職を認める」をお勧めします。
この程度の規模の企業における人的資源や資金の余裕を考慮すると、
大企業のような復職規程を模倣するのは無理がありますので、理想を追求せず次善策の選択が現実的です。
なお、詳細を省きますが、裁判例(片山組事件・最1小平10.4.9判)にもあるように、
若干の現実的な対応も必要です。
・一方で、休職中は経過を把握するためとはいえ、出社させて産業医との定期的な面談を設定することは、
お勧めできません。お勧めできない理由としては、
○主治医の診断・了解もなしに出社させることは、病状が回復途上にあるので、
病状をかえって悪化させかねない。
○休職中は、事故などに遭遇しても、労災保険が適用されない。
○そもそも、休職中の従業員に対して、業務命令で出社させることは出来ない。
等々が挙げられます。
なお、どうしても出社させることができるのは、復職直前の面談になるでしょう。
・休職者には、上述した内容を書面にして3部作成し、説明の上1部を交付します。
後日で構いませんので、主治医にも差し上げてください。
できれば、主治医に直接手渡し、詳しく説明しておけば、後々の作業を円滑に進めることができます。
なお、あまり芳しいことではありませんが、「休職・復職マニュアル」として明文化しておけば、
今後同様な問題が起きても便利です。