中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

労災・私傷病

2020年03月06日 | 情報

精神障害は、さまざまな要因で発症します。
しかし、まとめると、

・業務による心理的負荷

・業務以外の心理的負荷

・個体側要因 例えば、既往歴、アルコール依存状況、生活史(社会適応状況)他
の3つに集約できます。(厚労省:精神障害の労災認定パンフより)

 

ところが、多くの企業は以上の基本事項を理解できていないのではと、疑問を持ちます。
と云うよりも、理解したくないという意図もうかがえます。
業務以外の心理的負荷の場合は私傷病になりますが、業務による心理的負荷により、うつ病をり患すると、労災になります。
しかし、実際の現場では、このことをよく調べないで、あるいは、全く調べないで、私傷病として処理している実態が窺えます。

典型的な裁判例として、東芝(うつ病)事件(最2小判平26.3.24)が挙げられます。
会社側は私傷病として処理しようとしました。
しかし、当該従業員は休職期間満了で解雇になることを告げられましたので、
それはおかしいと裁判に訴えた事案です。結果は、原告側の全面勝訴でした。
(原告側の詳細な報告資料が、ネットにアップされています。関心のある方は参照してください。)

 

また、平成30年度の精神障害の労災補償状況(厚労省発表)をみると、
請求件数が1820件、決定件数が1461件、うち支給決定件数が465件となっています。

しかし、同じ厚労省調査でも、直近(3年に1回の調査)の2017年(平成29年)患者調査では、
気分[感情]障害(躁うつ病を含む)の患者数は、1276千人にも上っています。

 

(参照)患者調査の概況

https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/10-20-kekka_gaiyou.html

 

精神障害の労災補償状況は、毎年公表されており、公表されるたびにマスコミは、
こんなにも多くの労災認定がされていると、「大騒ぎ」しています。
ところが、気分障害で医療機関を受診している人は、年間で約127万人です。
ということは、気分[感情]障害(躁うつ病を含む)の患者のうち、126万人以上は、私傷病ということになります。

この数字を信用しますか? 
あまりにも短絡的な分析記事と云えないでしょうか。

みなさんは、この2つの統計数字をどのように受け止めますか?

また、以下に引用した報道で、「認定まだ2―3割」をどう解釈されますか?
報道では、それ以上の踏み込みはありませんが、「もっと認定されてもよいのでは」というニュアンスを、小職は感じます。

(参考記事)「心の病」の労災、認定まだ2―3割 パワハラ立証に壁
2019年11月20日 日経

トヨタ自動車の男性社員(当時28)が自殺したのはパワハラが原因だったとして、豊田労働基準監督署(愛知県豊田市)が労災認定した。認定をめぐって、死に至った原因がパワハラだと立証するのは簡単ではない。長時間労働による過労死の場合は、建物の入退時間やパソコンの使用履歴などの客観的なデータが集められる。
これに対し、パワハラの場合は本人のメモなどがあっても、録音や同僚の証言などの「裏付け」が求められることが多く、「ハードルが高いのが実情」(労災や過労死問題に詳しい川人博弁護士)だ。とりわけ、今回のように休職後に職場復帰して自殺に至った場合、休職前に受けたパワハラを死と関係づけるのは極めて難しいとされてきた。
遺族側代理人の立野嘉英弁護士によると、トヨタも当初はパワハラと死との因果関係を認めていなかったが、労基署は因果関係があると結論づけた。
川人弁護士は「日本を代表する企業で労災認定された意義は大きい。国内の各企業は今回の事案を重く受け止めるべきだ」と指摘する。パワハラを含め、仕事で受けたストレスによってうつ病などの「心の病」を患い、労災申請する人は近年、増加の一途をたどっている。厚生労働省によると、2018年度の申請者は1820人で、6年連続で過去最多を更新した。
一方で、実際に労災と認められた人の割合は2~3割にとどまり、18年度に認定されたのは465人。このうち自殺や自殺未遂をした人は76人だった。ハラスメントに対する世論が厳しさを増すなか、政府も遅ればせながらハラスメント対策に取り組み始めている。

5年前にストレスチェック制度が始まりました。費用はすべて企業負担です。
当制度は、私傷病の患者を企業負担で削減しようとしているのでしょうか?

 

因みに、ストレスチェック制度実施マニュアルの67ページには、以下のような記述があります。ご存知でしたか。

「○ 面接指導においては、業務外の出来事がストレスの原因となっていることもあることを考慮しつつ、
高ストレス状況では、一般的には、職場や職務への不適応などが問題となりうることから、
面接実施者は、基本的には、ストレスの要因が職場内に存在することを想定して、
まずは高ストレスの原因について詳細に把握して職場内で実施可能な対応
優先して促す観点で面接指導に当たることが望ましいでしょう。」

 

コメント
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