中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

メンタルヘルス対策が「腰痛対策」にもつながる

2013年10月17日 | 情報
厚労省は、19年ぶりに「職場における腰痛予防対策指針」を改訂しました。
その中で、腰痛対策はメンタルヘルス対策と密接な関係であることが解説されています。

産業保健」誌 第74号より
http://www.rofuku.go.jp/Portals/0/data0/sanpo/sanpo21/sarchpdf/74_1-11.pdf

新たな視点に立った非特異的腰痛の捉え方とアプローチ
関東労災病院 勤労者筋・骨格系疾患研究センター長 松平 浩氏
(途中略)
3. 代表的なエビデンスの紹介と その解釈
次に、日本の「腰痛診療ガイドライン2012」1)(日本整形外科学会/日本腰痛学会)にも明記されたエビデンスの中から、
強い根拠に基づいているGradeAのステイトメントのうち特におさえておいていただきたい項目(表1)について概説する。
1)心理社会的ストレスの関与について(表1の①)筆者らの研究では、
心理社会的要因の強い重症の慢性腰痛患者群と健常な人たちの脳代謝を撮影して比較したところ、
前頭前皮質で代謝低下(機能低下)が確認された。
これらの患者群に、もっともエビデンスがある治療法といえる認知行動療法(ストレス軽減のための指導を含む)を
運動療法とともに行い、腰痛や抑うつの改善後に再度撮影すると、脳機能は明らかに改善していた。
これは、中脳辺縁系のドパミンやセロトニンという神経伝達物質の分泌不全(不活性化)が関係していたと推察している。
産業保健スタッフは、職場におけるメンタルヘルス対策を着実に行うことが「腰痛対策」にもつながることを認識する必要がある。
2)安静臥床よりも活動維持が望ましいことについて
 現在では、非特異的腰痛の治療として必要以上の安静臥床は勧められない。痛みに対する不安感や恐怖感が、
自らの活動を過剰に制限(回避)してしまう要因になる。そして「過度の安静」は、日常の活動性の低下をもたらし、
その結果、脊椎のスムーズな動きが失われ、脊椎や背筋を含む運動器の硬直化を生み、
かえって体の痛みが生じたり、腰痛が再発・悪化するリスクが高まる。
産業医は、腰痛を抱えた職員に対し、正しい腰痛の知識を提供し、無用な不安や恐れ、
必要以上の安静をとらない状態で腰痛に向き合うことを促し、できるだけ「普段の活動を維持する」よう指導することが肝要であり、
エビデンスに基づいた社会的損失を減らす対処法ともいえる。

1)運動器(脊椎)の不具合に対する予防対策
 脊椎の不具合を放置しない“これだけ体操”を習慣化してもらうとよい。
例えば、「猫背姿勢や前かがみ作業が続いたら、髄核が少し後ろにずれた(後ろ側に「借金」を作った)」とイメージしてもらう。
後ろに大きくずれた状態(「借金」が増えた状態)が、“ぎっくり腰”や“椎間板ヘルニア”だ。
借金をためこまずにその場ですぐに返す方法が“これだけ体操”と考えていただきたい。
腰を反らす“これだけ体操”の参加型導入は、対照群と比較し某社会福祉法人で働く介護士の腰痛状況を改善した。
なお、先に触れた非特異的腰痛が発症した後に安静臥床が有益でない理由の一つとして、
「移動して(ずれて)しまった髄核を放置することになる」ことが挙げられると考えている。

2)脳機能の不具合に対する予防対策
 脳機能の不具合を起こさせないためには、事業所等において行われるメンタルヘルス対策が重要であることを先述した。
ここでは、個人レベルでの上手なストレス対処や脳機能を整える具体的な方法を概説する。
○イラッとしたり、職場の人間関係に悩んでいる時は、日記やノートに思いのたけを綴ってみる。
これをしばらく続けていると、素直な気持ちで相手のことも自分のことも考えられるようになる。
そして怒りや不安の感情を、相手を思いやる気持ちや気遣う態度に変換する(切り替える)努力をしてみる。
○中脳辺縁系のドパミンシステムを活性化させる簡単な方法は、
「ワクワクする好きな音楽を聴くこと」(Salimpoor VN, et al. Nat Neurosci14, 2011)と、
「誰かに自分の話を聴いてもらうこと」(Tamir DI, et al. PNAS 109, 2012)である。
仕事上の不安や悩みの軽減には、上司や同僚とのコミュニケーション(風通しのよさ)が大事なことはいうまでもない。
良好なコミュニケーションから「上司・同僚の支援」を引き出すとよい。
○ウォーキングと深呼吸の習慣は、セロトニンの分泌を活性化し(Fumoto M, et al. Behav Brain Res213, 2010)、
自律神経のバランスを整えかつ強化する。
健康増進の一環としてもウォーキング(1回5~ 15分程度でよい)と要所要所での“ひと区切りの深呼吸”の習慣化を目指す。

3)運動器、脳機能の両方にまたがる予防対策
 心的負荷を抱えた状態で持ち上げ作業をすると、作業時の姿勢バランスが微妙に乱れて椎間板への負担が高まり、
ひいては腰痛を発症するリスクが高まることをわれわれは検証した(Spine 38, 2013)。
介護・看護や運送作業における“ぎっくり腰”予防という観点からも、日頃からストレスをため込まず、
業務に臨むことの重要性を啓発する必要がある。

参考図書
1)日本整形外科学会/日本腰痛学会(監):腰痛診療ガイドライン2012.南江堂,2012.
2)松平浩:新しい腰痛対策Q&A 21 非特異的腰痛のニューコンセプトと職域での予防策.(公財)産業医学振興財団,2012.
3)松平浩:「腰痛持ち」をやめる本.マキノ出版,2013.
4)松平浩,小西宏昭,三好光太,笠原諭.ホントの腰痛対策を知ってみませんか.(公財)労災保険情報センター,2013.
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