熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

映画「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」

2018年04月02日 | 映画
   スピルバーグ作品で最も最近見た映画は「リンカーン」。
   E・T・やシンドラーのリストなど、ごく一部しか、観ていないのだが、ビデオなどでも観る限り、スピルバーグの映画作品には注目しており、とにかく、この映画は凄い。

   この作品は、1971年、ベトナム戦争が泥沼化し、アメリカ全土に厭戦機運が蔓延し、反戦の気運が勢いを増していた時期に、国防総省がヴェトナム戦争について客観的に調査分析して記録していた膨大なペンタゴン・ペーパーズ、最高機密文書のコピーが、ランド研究所から持ち出されて、ニューヨークタイムズにすっぱ抜かれて報道されて白日の下に晒されて大問題となった「ペンタゴン・ペーパーズ事件」を題材にしている、ドキュメンタルタッチの映画である。
   ニクソン政権の強権的な発動によって、NYTは報道を停止させられ、法的手段を取られて窮地に陥るのだが、
   ニューヨーク・タイムズに先を越された、ワシントン・ポストの編集主幹ベン・ブラッドリーは、同文書を同ルートで独自に入手し、真実を伝えるべく、全貌を公表しようと奔走するのだが、
  ニクソン大統領が あらゆる手段を駆使して記事を差し止めようとしており、生きるか死ぬか社運をかけてまでして、強力なニクソン政権を敵に回して、輪転機を回すべきか。信念を貫き報道の自由を死守すべきか、全米屈指の権威ある高級新聞社史上初の女性社主・発行人キャサリン・グラハムに迫られる最後の決断。重役連中に反対されて四面楚歌、窮地に立ったメリル・ストリープのグラハム社主は、信念を曲げずに、それを一蹴し、それを聞いたトム・ハンクスのベン・ブラッドリーが、印刷室に電話を入れると、待ち構えていた輪転機が轟音を立てて回転・・・息詰まるような攻防、畳み掛けるような迫力に満ちた急テンポの展開が観客を釘付けにする。

   私が、フィラデルフィアのウォートン・スクールで、ビジネスを学んでいたのが、1972年7月から1974年6月までなので、既に、このペンタゴン・ペーパーズ事件は収束していたのだが、ニクソン政権にとっては、もっともっと致命的なウォーターゲイト事件が勃発し、
   1972年6月17日にワシントンD.C.の民主党本部で起きた盗聴侵入事件に始まり、アメリカの政治を根底から揺るがせたスキャンダルが展開し、1974年8月9日にリチャード・ニクソン大統領が辞任したので、私の留学時期とほとんど重なっており、私が読んでいたニューヨークタイムズや聞いていたCBSなどの三大ネットワークの報道ななどの殆どは、ウォーターゲイト事件で覆われていた。盗聴、侵入、裁判、もみ消し、司法妨害、証拠隠滅、事件報道、上院特別調査委員会、録音テープ、特別検察官解任、大統領弾劾発議、大統領辞任・・・「ウォーターゲート事件」の凄まじさは目を覆うばかりであった。
   今回の映画で、「CBSイブニングニュース」のアンカーマン:ウォルター・クロンカイトのTV映像を見て懐かしかった。

   この「ウォーターゲイト事件」でも、ワシントン・ポストは、ボブ・ウッドワード記者とカール・バーンスタイン記者とが共に独自の調査を始め、事件に関する様々な事実を紙面に発表し、ウォーターゲート事件に対する世間の注目を集め、ニクソン大統領やその側近を窮地に陥らせた。
   このストーリーは、アカデミー賞映画「大統領の陰謀」となり、今回の主役である編集主幹のベン・ブラッドリーも登場している。

   さて、この「ペンタゴン・ペーパーズ」では、政治上の権力者は、バック映像でニクソンの電話での指示姿が数回出ていたが、グラハムの親友だと言うことでロバート・マクナマラが登場していて、かなり、人間的に描かれていたので、非常に興味を感じて見ていた。
   マクナマラは、ニクソンの人を人とも思わぬ非情さと悪辣さをグラハムに語っていたが、しかし、1961年から1968年までジョン・F・ケネディとリンドン・ジョンソン大統領の下で国防長官を務めており、1968年から世界銀行総裁となっているのだが、この「ペンタゴン・ペーパーズ」に関する限り、ヴェトナム戦争で、全く勝ち目がないと熟知しておりながら、ヴェトナム戦争にのめり込み、多くの若者を死地に追いやった責任は重いと思うのだが、グラハムの問いかけに対して弁解はしていたが、反省の色はなかった。

   この映画では、主題とはなっていないが、ワシントンポスト紙の株式上場に奔走するグラハム社主の動向なども興味深かった。
   この映画の解説やインタビュー記事を読んでいると、メリル・ストリープやトム・ハンクスの活躍ぶりについての記事が多いのだが、確かに、実に上手く凄い映画俳優だと思う。
   メリル・ストリープの、古いところでは、「マディソン郡の橋」、そして、「マンマミーア」と「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」と言った実に個性豊かな味のあるキャラクターを、これほどまでに、感動的に演じられる役者は稀有であろう。
   トム・ハンクスの映画もよく見るが、今回の敏腕新聞人の生き様の確かさ素晴らしさは、秀逸であろう。

   1980年代半ば、シティのファイナンシャル・タイムズ本社ビルの買収直後に、建物の中に入って、天下の経済紙の編集室の激しい動きや輪転機の凄まじさなどを見ていたので、今回のワシントン・ポストの映像が感慨深かった。

   とにかく、感動的な素晴らしい映画を見せてもらった。
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