熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

日本経済における寡占の可否

2012年05月12日 | 政治・経済・社会
   日本経済につては、全幅の信頼を置いて、その活力と将来展望には、全くの疑いを持っていない増田悦佐の「それでも「日本は死なない」これだけの理由」を読んでいると、「新日鐵と住友金属工業の合併は天下の愚策」とか「独占企業の横暴で国民がバカを見る」と言った調子で、独占企業の悪を糾弾している。
   欧米では、各業種で事実上の独占体制を維持している企業が多く、市場に対して価格支配力を持っているから、自社に利益を極大化する商品を売るので、利益率の高いのは当然だが、独占が齎す高利益率に慣れると、緩急開発や販売活動と言った地道な努力を怠り、「規模の経済」をフル活用して、より安い商品を消費者に提供するなどと言うことは絵空事になる。
   新日鐵と住金が合併すれば、新会社が大きな価格支配力を握ることとなって、日本経済にとっては、事態を深刻化させるだけだと言うのである。
   このケースは、公取が承認し、今年、10月1日に、新日鉄住金が発足することになっている。

   日本では、多くの産業分野で、ガリバー型寡占や準独占で価格支配力を持った企業が少なく、これは、独占企業が多い欧米より、企業間競争によって同じ品質のものを安く買えるから、社会全体にとって文句なしに良い。
   寡占企業同士の競争の激しさが、このデフレ環境の中でも、品質に妥協せず、より安いより良い製品を開発し、業界での地位を高める企業の成長を促し、日本企業の強みになっている。
   激しい寡占競争の結果として慢性的に企業利益が低いのは、日本の利点であって、この利点を認めずに、大手企業だけが儲かり、消費者が損ばかりする欧米型の経済に強引に変えてしまおうと言うのが、外資系経営コンサルタントで、M&Aなどは金融機関が儲かるだけである。
   特許出願件数でサムソンが凋落したのは、国民経済の形を日本型の財閥グループ間の切磋琢磨から、欧米型の一人勝ち経済に変えてしまったことの弊害だと言うのである。

   日本人は、昔から競争すれば共倒れになるから談合してでも調整しようと、競争にはネガティブな考え方をしており、欧米特にアングロサクソン系では、競争が金科玉条のように称えられてきた筈なのに、逆に、日本の方が激烈な寡占競争下にあり、欧米の方が独占傾向が強いと言うのは面白い現象である。
   
   ところで、グローバリゼーションの進展で、企業の競争原理も大きく様変わりして、「国内では独占的シェアをしめるかもしれないが、グローバル・ベースでは、シェアが小さくて、国際競争力の欠如によって駆逐される心配があるので、シェアは、国内だけで考えてはダメである」と言う議論が台頭してきている。
   そんな考え方に立てば、合併後の新日鐵住金のシェアは、拡大するのだが、トップのアルセロール・ミタルには、まだ、はるかに及ばない。
   グローバル・ベースでは、例え最強ではなくても、日本では、強力な価格支配力を持つことになり、増田氏の説く独占による国内経済への弊害は当然のこととして出てくる可能性がある。

   ところで、少し次元は違うのだが、独占禁止法の罪として、公取の厳格な法に基づく競争原理の追及は非常時を迎えている日本には、相応しくないと主張するのが、「救国のレジリエンス」の藤井聡教授である。
   「震災を想像すれば、公取が躍起になって実現しようとしている、すべての企業をバラバラに分断して、ギスギスした無機質なマーケットの中で、互いに激しい競争を差せるような状態を維持し続けることが、必ずしも「公に正しい」こととは言えない。」と言うのである。
   万一の震災が発生してしまえば、そのマーケットに入っているすべての企業が協力しながら、その難局を克服して行くことが求められるので、普段から、過剰に競争ばかりするのではなく、一定の提携をきちんと結んでおくのが、グローバル化した今日において特に必要となっているのであるから、もっと、独禁法の適用を緩めよと言うのである。
   当然、藤井教授は、新日鐵と住金の合併には賛成である。

   日本の経済は、旧財閥や金融その他経済グループのワンセット主義のために、あらゆる業界において、夫々のグループを代表する企業間の極めて激しい寡占競争下で進展してきており、そのことが日本経済の活力となり経済成長を促進してきたことは否めないが、しかし、熾烈な過当競争故に、無駄を生み出し、極めて非効率な側面を惹起してきたことも事実である。
   ウイナー・テイクス・オールと言うか、その業界において、断トツの一位でなければ、利益基調を維持できなくなってしまった極めて厳しいグローバリゼーション時代の企業活動においては、フェアな競争原理の維持は必須だが、国内市場のみならず、世界的な規模での競争環境を十分考慮しながら、独禁法を適用することも大切であろう。
   私自身は、ワンセット主義の弊害だと思うのだが、とにかく、一つの産業に、あまりにも多くの企業が存在し、激しい過当競争に明け暮れているのは、非常に大きな企業活動の無駄であり経営資源の浪費であると思っているので、必ずしも、呉越同舟の合併が良いとは思えないが、何らかの形で、企業数を整理すべきだと思っている。
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