YNWC的な日常

街の中でも季節を感じて暮らしたい。生き物や自然のの話を中心に美味しい食べ物、散歩のことなど綴っていきます

飛べないアゲハの物語

2018-07-07 07:00:00 | 生物の不思議・生命の神秘


朝、出勤して間もない時間。3年生の子どもたちがわらわらと集まってきました。
「大変、大変。」
「チョウの羽が丸まってる」
「生きてるみたいだけれど、動けない。」
大事件が起きたという顔をして、矢継ぎ早に口を開く子どもたち。実際に大事件!!

とりあえず、子どもたちには「すぐに行くから、そっとしておいてあげてね。」と伝え、脱脂綿と、砂糖水とソーイングセットを用意して、問題になっているアゲハチョウのもとへ。朝の始業前、廊下は子どもたちで黒山の人だかり。

予想通り、羽化に失敗し、羽がのびないまま固まってしまった個体が、飼育槽の床で仰向けになっていました。すでに力尽きたのか全く動かない様子に、最初は死んでいるのかと思ったのですが、ふたを開けると、その振動でばたばたと暴れ、その様子に一安心。

こういう状況下で子どもたちが死に直面するのはちょっと辛すぎますから。
この個体は蛹になったときから、ずいぶんと小さく、羽化できるかなと、内心心配していたチョウでした。



チョウの幼虫は、十分に餌を食べられないとき、まだ小さいまま蛹化することがあります。春先などにモンシロチョウほどの大きさのアゲハチョウに出合うことがあるのですが、そういう個体は幼虫の時のエサ不足が原因と言われています。

飼育している個体の場合、エサになる葉を入れていても、その葉がかたかったり、乾燥していたり、または好みに合わなかったり…という理由で、ちゃんと食べてくれないことがあります。同じミカンの葉であっても、チョウにとっては、木によって香りや味が違うようです。



小さいからと言って、大きな問題はないようですが、やはり体力に違いがあるのかもしれません。蛹化した場所が水槽のプラスチック面だったことが、羽化の後に足掛かりがなく落下の原因に繋がったのかもしれません。同じサイズで蛹化していたもう1匹の個体が小さな成虫になっていたことから、ちょっとした運命のいたずらとも言えるのかもしれません。

この2匹の明暗を分けたものが何であったのか…。

わたしは、持っていった脱脂綿を砂糖水で湿らせ、チョウを捕まえて栄養補給を試みました。こういう状況では、たいてい砂糖水と感知してくれないため、くるくると巻いたチョウの口吻をまち針でそっと伸ばして脱脂綿につけてやる作戦です。ここでソーイングセットが必要なのです。



チョウにエサを与えたいという思いはもちろん、子どもたちに少しでも安心してもらいたいという思いからでした。

しかしながら、とりあえず砂糖水を飲んでいる姿を見ればちょっとは安心してもらえるだろうという甘い目論見ははずれ、チョウは暴れるばかりで、いっこうに砂糖水に興味を示してくれません。当然といえば、当然、チョウは怯えているのです。

作戦はおもいきり失敗。仕方がないので、いったんわたしが預かり、その場を離れることにしました。ちょうど、始業の時間にもなりましたし、よいタイミングでした。

預かってはみたものの、今後、このチョウをどうしたらよいのか。

羽が開かなくても、うまく餌を与えることができれば、寿命を全うさせることができるという話は知っていました。しかし、目の前のチョウはかなり悲惨な状態で、自立することすら困難でした。すぐに倒れて動けなくなってしまいます。

エサやり用に用意した脱脂綿を足がかりにどうにか体勢を保てる様子でしたので、飼育槽の床に脱脂綿を引き詰めてみました。すると、ひっくり返って動けなかった状態から、一応は自力で動き回れるようになりました。しかし、せわしく動いては脱脂綿の隙間に挟まってしまうこともあり、心配はつきません。とりあえず刺激を少なくするために新聞紙で飼育槽を覆いました。


※これが羽化に失敗してしまったナミアゲハ

休憩時間、新聞紙を外してみると、チョウは再び動き出しました。新聞紙でおおわれている間はじっと休んでいたようです。再びえさやりにトライ。今度はどうやら砂糖水を飲んでいる様子です。しかし明日は生きているのか…。子どもたちにはなんと説明するのがよいのか…。タイミングの悪いことに、直接子どもたちとかかわっている職員が今週は体調を崩して休んでいるのです。

ひょっとしたら、死んでいるかもしれないという思いをよそに、翌日もアゲハは生きていました。そういえば、昔、生き物好きな先輩から、チョウにリポDを与えると卵を産むと聞いたことがあったので、この日は鞄にリポDを忍ばせて出勤しました。チョウはリポDを飲みましたが、それほど気に入ってくれた様子はありません。しかも、つかまえて押さえているときに、脚が脱脂綿にからまったのか、1本もげてしまいました。エサを与えるためとはいえ、自分の行動で、チョウの脚がもげてしまったことはかなりショックです。ごめんー(T_T)



それでも、チョウは、とりあえず生きている様子でしたので、元気なうちにこどもたちに一度見せることに決めました。

子どもたちにチョウを見せるとき、次の3つを話しました。
〇なぜ、羽が丸まっているのか(羽化は失敗するとやり直しができな命がけの作業)
〇なぜ、体が小さいのか(エサ不足とその理由)
○今どんなお世話をしているのか(砂糖水の与え方)

とくにエサ不足については、食草の好みの問題にも触れ、子どもたちのお世話が悪かったわけではないこと(実際にどうだったのかは分かりません)をおさえたうえで、生き物を飼うときの責任の重さについて話をしました。



子どもたちからもいくつも質問が出ましたので、分かる範囲で答えました。その中でも後々ハッとさせられたのが「なんで脱脂綿が敷いてあるの」という質問からのやりとり。足掛かりになるように敷いたのだけれど、実はチョウの脚が1本取れてしまったことを伝えると、子どもたちから「綿じゃなくて草をいれればいいんじゃない?」との提案。実はこのときは流してしまったわたし。チョウの体勢を保持するには脱脂綿が有効だと思っていたし、脚がもげたのは自分が力を加えたからと思い込んでいたのです(もちろんそれもあります)。

そして3日目。うれしいことに今日もチョウは元気でした。リポDも前日よりたくさん飲んでくれました。でも、よく見たら、脚がもう1本もげて4本になっていました。そのせいか、体のバランスがますます取りにくくなっているようで、動きが鈍く感じられました。わたしは、昨日のやりとりを思い出し、脱脂綿に固執していたことを深く反省することになりました。すぐに脱脂綿をとりのぞき、子どもたちの提案通、草を敷き詰めました。

そして、ネットで見たある情報を実行に移すことにしました。それは、チョウの動きを制限している(ように見える)丸まった羽を切り落とすことです。これは絶対自分には無理だと思っていたのですが、目の前のチョウの様子を見ていると、羽は邪魔になっているとしか思えませんでした。そしてネット情報によると、羽を切ってもチョウは死なないということでした。



でも羽を切るというのは大きすぎる決断です。最悪、殺してしまうのではないかと思いつつ、ハサミを手にしばらくは行動に移すことができなかったのですが、まるまっている羽のまんなかあたり、くびれた部分を一気に切りました。アゲハは一瞬ビクンと動き、やはり痛いのかと、なんともいえない罪悪感が広がりました。



しかし、とくに体液が流れ出ることもなく、しばらくすると、アゲハはスムーズに動き始めました。そして、プラケースの中に入れていた木をつたい、覆い代わりにかぶせていた布につかまり、逆さまになって止まりました。なるほど、3日目にしてようやく分かりました。そういえば、チョウは、休む時、枝や葉につかまってさかさまになっていることが多いです。この個体もこの姿勢が楽なのです。今まで気づかずにごめんよ。



この日は前日よりも安定したチョウの様子を子どもたちに見せることができました。子どもたちも、今日も元気なチョウを見て、「すごいね」「動いてるね」と前向きな気持ちでチョウと向き合っているように見えました。

初日は、奇妙な姿に恐れている様子、昨日はかわいそうだと憐れんでいる様子、そして今日は、命の強さに感動している様子。

そんな風に変化した子どもたちの様子を見て、結果論ではありますが。初日に見たときにこの子を見捨てずにいてよかったと思いました。



子どもと生き物を飼うとき、飼育下での死をどう扱うかはとても難しい問題です。アゲハは明日も生きてくれているでしょうか?プラケースの中で一生を終えさせるという選択は本当に正しいのでしょうか?

正直自分の中にも悩みや葛藤が尽きません。個人的には、生き物を捕獲するということは、その時点で生態系に対する小さな悪ではないかと思います。しかし、その小さな悪が、生き物を理解したり、生き物に愛着を持ったりする気持ちを育てることにつながっているとも思います。だから飼育する以上は命に責任をもって接しなければなりませんし、そのことが伝わって初めて子どもたちの学びがあるのだと思います。


※蛹が落ちてしまった時の緊急措置

と言っても、自分自身、わからないことばかり。今回もアゲハにとって適切な処置ができているとは思えません。一番肝心なエサについても、いまさらながらネットで様々な情報を入手しているところ。どうやらリポDでは砂糖の濃度が高すぎるようで、ポカリや乳酸飲料の方がよいようですし、別のサイトには砂糖は3パーセント程度ともあるので、さらに薄めた方がよいのかもしれません。リポD最強説はあくまで飼育下で卵を産ませるための補助的なもの?ちなみにメダカに卵を産ませるなら、ゆで卵の黄身がいいという説も…。

今やネットで様々な情報が手に入る時代なのですから、それをしないで手をこまねいているのは、命に対して責任ある行動とはいえません。


※脱走した幼虫が蛹に!…なんてことも

飛べないアゲハの物語はまだ未完です。明日もアゲハが生きていて、この物語がもう少し続けられることを願っています。

続きはこちら
その後の飛べないアゲハ - YNWC的な日常





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7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (チョビテレ)
2018-07-07 08:18:55
いやあ、休日の朝から、心温まるブログを読ませていただきました。うにまる様の生き物への愛情がたっぷりと感じられました。
 アゲハチョウ君の生きる力を私も応援します。!
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チョビテレ 様 (うにまる)
2018-07-08 11:49:26
ありがとうございます。
本日も無事生存を確認。
自分自身はモヤモヤするものを抱えつつ、このまま長生きしてくれたらと思っています。
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Unknown (ピース)
2019-10-12 18:50:32
昨年のブログにコメント失礼致します。

ここ数年、毛虫だと思っていた幼虫が、ツマグロヒョウモンの幼虫だと今年初めて知り、庭の花壇でそっと見守っていたのですが、蛹から羽化するのを失敗した、羽の丸まった蝶を、自宅で飼育することにし、砂糖水を与えてー今日で10日目になります。外の世界を知らずに生涯を終えるのは可哀想なので、1日に一回、日光浴させたりしています。

子どもは二年生と年長と2歳児、3人とも、一生懸命生きている蝶にとても関心を持ち、毎日観察しています。

元気に飛び立った蝶、また、産卵に戻ってきた蝶もおり、生命の不思議や強さ、儚さを日々感じています。

また新たな幼虫や蛹も出てくるかと思いますので、ブログを参考にさせて頂こうと思います。
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Unknown (うにまる)
2020-02-07 22:58:35
ピース様
今更ながら返信させていただきます。滅多にコメントが来ないため、コメント欄の存在自体を忘れていました(^^;;
こんなに素敵なコメントをいただいていたのに…。お子さんたちとの自然観察、きっと楽しいのだろうと想像。素敵親子ですね(o^^o)
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アゲハチョウ (ムーミンパパ)
2020-06-03 10:19:59
4年前庭の山椒の木にアゲハ蝶が産卵に突然来ました。毎日、観察して成長を楽しみにしていました。ところが、事件は突然起こりました。ある日、観察に行くと幼虫が一匹もいません、しかも、半分にちぎれて死んでいる幼虫がいました。どうも、鳥に捕食された様子でした。これは大変と思い、その時から室内飼育を開始しました。エサとなる山椒、柑橘類に木々を買って来て沢山植えました。エサが無くなると、近くの公園等から枝を取って来て与えました。その年は
25匹、翌年は85匹と、室内飼育で羽化させ、放しています。自然会に手を加えてはいけませんが、あまりにも残酷な姿を見ると、お手伝いしたくなります。今年も8匹羽化しました。今、目の前でも、羽化が始まっています。
今朝も庭に産卵の為、蝶が飛来してましたが、私の事をわかっているかの様に急接近してきたり、腕に止まったりで可愛かった。
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Unknown (うにまる)
2020-06-04 05:53:34
ムーミンパパ様
85羽!?
すごい数ですね。食草の確保がものすごく大変だったことと、ご苦労が偲ばれます。育てて初めて分かることや考えさせられることってたくさんありますよね。体験に勝るものなし。ムーミンパパさんに保護されたアゲハたちは幸せ者ですね。
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Unknown (ダックスワンワン)
2021-07-19 11:34:53
家に山椒の木があってアゲハの幼虫がいっぱいいました。
秋遅く葉が足りていないことに気がつき、保護
毎日、山へ山椒の葉を取りに行ってあげました。
30匹程、無事サナギに成り、越冬はプラケースに赤玉土を敷きサナギの付いた枝を差して
寒い部屋に置いておき春に全部、順番に羽化して花の咲く野原にはなしました。
最後のあたり、1匹だけ羽化の時に落ち羽が片方開かない状況でした。
せっかく羽化したので外には放さず段ボール箱へ(外に出すと地面に落ちてすぐ蟻の餌食に成るので)
蜂蜜を水に溶いてキッチンペーパーに浸し置いておくと吸っているようでした。
日があたって明るく成ると、飛びたいのでしょう。飛べない羽をバタバタしていましたが
あまりバタバタして体力を消耗してもと思い、薄い黒のレースを掛け箱の片側を薄暗くして置いたら静かに成りました。
毎日、蜜を変え様子を見ていると自分で蜜を吸っている様でした。
48日生きてくれました。いつも飛びたかったでしょう、可愛そうでした。
が最後まで面倒をみないと秋に幼虫に餌さをあげた時から責任を感じていましたから…
羽化したアゲハが飛び立つときや花に蜜を吸いに行ったとき等の嬉しさはなかったなぁ
カラスアゲハの幼虫も2匹混じっていて大きく美しい羽も間近で見れて感動でした。
もう60才を過ぎてからのアゲハの観察です。
毎年、アゲハのが来る山椒の木は小さいので産まれた幼虫の餌には不足なので
近くの山で山椒が良く育っている所に移植しましたのでこれが最後です。
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