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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 669 栄枯盛衰 ②

2021年01月06日 | 1977 年 



応援団長にソッポを向かれては
目まぐるしい監督や選手の入れ替えは一種のカンフル剤かもしれないが、ファンにソッポを向かれては元も子もない。例えば昭和51年の監督問題。1年きりで江藤兼任監督を解雇し、無謀にも大リーグでも指折りの名監督と言われたレオ・ドローチャー氏を監督に迎えると公言した。「首に縄をつけても連れて来る」と中村オーナーは大見得を切ったが結果は失敗。チーム内に白けムードが広がり、ファンも「ライオンズは一体全体なにをしよるとかいな」と呆れ果てた。ライオンズが勝てば満員になる、と言われた平和台球場が昨シーズンは一度も満員札止めにならなかった理由の一つにはチームの低迷以上に球団に対する不信感が根づいた為ではないだろうか。

昨年の暮れに西鉄時代から私設応援団のリーダーを務めた川辺太さんが引退宣言をした。「生え抜き選手は目の敵にして放出するわ、試合には勝てないわ。お前らは勝手に応援してるだけだろと言われればそれまでだけど、身銭を切って毎年応援している我々にご苦労さんの一言もないんだから、誰がこんな球団を応援する気になるかって話ですよ」と不満を露わにする。地元の新聞記者は「西鉄が強かった時は長期的な展望があった。選手寿命を考えて3年から5年という計画で補強を行っていた。今はキャッチフレーズは大仰だが中身は空っぽ。これではファンを一度や二度は誤魔化せても、やがて離れていってしまうのは明白」と苦言を呈した。


プロ野球は独立した企業であるべきだ
昭和48年に発足した福岡野球株式会社。この5年間で辞職した職員は延べ40数人にのぼる。部課長クラスの退社も5人を下らないというから穏やかでない。「親会社もなく中村オーナーによる個人経営で資金も豊富ではないから待遇が良くないのは仕方ないけど、野球で儲けたお金くらい球団で使わせてくれるべきでしょう」と退職者の1人は怒りをぶちまける。地元発刊の経済誌に中村オーナーが山口県美弥市に建設中のゴルフ場に球団の収益金を流用しているのではないか、という暴露記事が載ったことがある。実はこうした噂話は球団職員の間で以前から公然と話されていた内容と一致する。

周囲にキナ臭い噂話が飛び交い始めた中村オーナーは太平洋クラブからクラウンライターへスポンサー変更を決めた。巷間耳にする良からぬ話に太平洋クラブ側が資金援助に難色を示しストップさせたのだ。重役会からの突き上げもあり新たなスポンサーを探す必要を迫られた中村オーナーは「クラウンさんからの " 強い要望 " があり業務提携案を受け入れた」と発表したが、実際は岸元首相の秘書だった中村オーナー自身の人脈・経歴を駆使して政財界を駆け回りクラウンライターに何とか引き受けてもらったのが実情だ。

今年の1月末、福岡市内で開いたクラウンライター球団披露パーティーで中村オーナーは「プロ野球は企業名、製品名をイメージアップする為のものだ。これは私がロッテ球団を任された時以来の信念だ」と断言した。つまり業務提携こそプロ野球の本筋という私見だ。だがこのパーティーに出席していたクラウンガスライターの桜井善晃社長は「スポンサーにはなるが業務提携は難しい。今のライオンズは地元ファンの支持がない。お金を出してライターが売れんでは困る」と本音を吐露し、中村オーナーの高姿勢とは裏腹に乗り気でない地元の名士たちの拍手を集めた。こうした逆風の中で中村オーナーは如何に逆境を乗り切るのか直接聞いてみた。

Q:新生クラウンライターのユニフォームの袖に太平洋クラブの「T」マークが入っているのは何故か?
A:太平洋クラブとは5年契約だった。それを4年でやめたので業務提携の相手先としては降りてもらうが
  契約自体は生きているのでいきなり関係を断ったりはしない。プロ野球は独立した企業であるべきで
  親会社の業績次第で球団経営が圧迫されるようじゃダメ。その意味では我がライオンズは理想的な
  形態であると確信している。

Q:某経済誌によるとオープン戦の収入がそのままゴルフ場の建設費に流用されていると書かれているが?
A:野球とゴルフは全く関係ない。そんなニュースが流れて大変迷惑している。噴飯ものだ。弁護士と相談して
  正式に抗議するつもりだ。



主砲・土井も盗塁する機動力の野球を…
何はともあれライオンズがかつての熱いファンの支持を得るには桜井クラウンガスライター社長の言う「九州のチームらしいやり方で強くなる」ことであることは言うまでもない。それには地元密着路線がどうしても要求される。ドラフト指名で2300万円もかけて柳川商の立花を入団させた事や他にも生え抜き選手の流出に待ったをかけるなど遅まきながら球団もその方向に動き始めている。幸いにも選手たちのやる気は例年以上にみなぎっている。チーム内には「球団がどうとか、オーナーがどうとか、そんなことはどうでもいい。今年もビリじゃ自分が惨め過ぎる」や「地元のファンに愛されるライオンズを守りたい。その為には勝たなければ」といった声に満ちている。

そうした選手らを率いる鬼頭監督は今年が2年目。ただし昨年はドローチャー監督が来日できず事実上の代理監督であったので、今年が名実ともに監督のスタートと言えよう。「昨年はヘッドコーチのつもりでいたので急に監督を務めるとなって気持ちの整理がつかず中途半端な気分だった。監督がそんな風では選手らも試合に集中できなくて当たり前。だが今年は違う。チーム一丸となってライオンズらしい野球をやる覚悟だ。松木謙治郎さんに臨時コーチをお願いした。松木さんには専門の打撃だけでなく走塁面での強化も指導してもらった。オープン戦にもその効果は表れている(鬼頭監督)」と。

つまり今年のライオンズは打つだけではなく、機動力野球も推進していく方針だ。これまではチーム打率は良くても得点に結びつかず勝ち星は増えなかった。山賊打線と持てはやされても本塁打以外での得点能力は他球団より劣っていた。オープン戦では土井選手までもが盗塁を試み成功したように、ライオンズは確実に変わりつつある。チームの変革に対して中村オーナーも「今年は単に個人の成績だけで年俸の評価を下したりはしない方針だ。チームへの貢献を見せてくれれば、それなりの評価をするつもりだ」と球団としてのバックアップを公言している。ただただ頑張れライオンズと言いたい。
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