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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 423 男達の人生劇場 ②

2016年04月20日 | 1984 年 



作家の村松友視氏がとあるコラムに『今夜こんな所に来てる連中はよっぽど家庭に事情を抱えているんだぜ』という野次を川崎球場のロッテ対南海戦で聞いた、と書いていた。村松氏が観戦に行ったのはまだ肌寒い晩に行われたナイターであったのだろう。つい最近のデータによれば川崎球場でのロッテ戦の1試合平均の観客数は7千人。これだけ入れば御の字と思われるかもしれないがこれは対西武など人気チームとの対戦を含めた平均値。コラムに書かれた4月10日からの南海3連戦では3試合合計で5千人。しかもこれらの数字は " 公式発表 " であり実数はかなり少ないと考えて間違いない。そのロッテに今季、巨人から移籍して来たのが山本功児。

「確かに1ケタ違うな」大勢のファンが駆けつけ常に超満員の球場でプレーしていた山本は苦笑する。しかし続けて「でもやっているのは同じ野球ですよ。お客さんは多いに越したことはないけどパ・リーグの野球にもパ・リーグにしかない面白さがあるんです」と。法政大学を卒業して社会人の本田技研鈴鹿を経て巨人に入団したのが1976年、主に代打で起用されてきた。トレードの話は突然降って湧いた訳ではなく、ここ数年オフになると毎年のようにスポーツ紙を賑わせていた。ロッテとのトレードが決まると気持ちの切り替えは早かった。代打として試合に出場するだけでは満足できない部分があったからだ。「学生時代からずっと打って・守って・走る野球をやってきた。やっぱり打つだけでは面白くないですから」と。

現在の山本を見ているとルーキーのような初々しさを感じる。もう32歳の中堅からベテラン選手の域に入っているが、今あらためてプロ野球を新鮮な目で見つめている。「パ・リーグの投手にプロらしさを感じますね」と山本は言う。「セ・リーグの投手とは一味違う。例えば僕は低目が好きだし、強い事は周知の事実でセ・リーグの投手は低目を見せ球にして最後は高目の球で勝負してくる。一方のパ・リーグの投手は打者によって攻め方を変えてこない。つまり勝負球は自分が一番自信のある球を投げてくる傾向が強い。投手としてのプライドを凄く感じます」「鈴木啓(近鉄)さんや山田(阪急)さんは決して自分の持ち味を変えない。有藤さんや落合君に仮に打たれても次の打席では打たれたコースをもう一度攻めてくる。プロだなぁと思いますね」

そうしたプロフェッショナル達と山本はロッテ打線の中心選手として渡り合っている。面白いデータがある。開幕してまだ2ヶ月も経っていないのに山本は4つも失策を記録している。ご存知のように山本の一塁守備には定評がある。グラブさばき、打球に対する感、フィールディングなどどれを取っても申し分ない。しかし何故か失策が目立つ。「西武戦で大チョンボをしてしまった。一塁に走者がいて打者はスティーブで打球は一・二塁間へ。『ゲッツー頂き』と思い無理に飛び出してしまい打球をはじいてしまった。それだけならまだしも慌てて二塁に悪送球、走者の背中に当たって球は外野を転々…結局それがきっかけで失点し試合に負けてしまった」守備には自信を持っていただけに激しく落ち込んだ。「普通なら飛び出さず二塁手に任せる打球だった。自分の守備範囲は分かっているつもりだったが、あの時は自分の近くに来た打球は全部取ってやろうと意気込んでいた」

やはりルーキーのような心境なのだ。初めてプロのユニフォームを着た選手のように浮き立つような思いでグラウンドに立っている。でもそれは悪い事ではない。手慣れたグラブさばきでさり気ないプレーもプロらしいが慣れ過ぎたプレーには驚きを感じる事は少ない。例えエラーをしても初々しいプレーには清々しさを感じ拍手を送りたくなる。プロ入り以降、時間はかかったが今回のトレードで山本は初めてレギュラーの座をつかんだ。その嬉しさがエラーに繋がるとは何とも人間味があって宜しいではないか。そんな奮闘する山本のもとにファンレターが届く。その多くが巨人時代からのファンだそうでロッテファンからは思いの外に少ないという。ちょっと寂しい話ではないか。ロッテファンには新たにチームにやって来た少々老けたルーキーを励ましてほしい。束になったファンレターが川崎球場の山本のロッカーに届く日がやって来る事を心から願う。

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