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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 630 奇妙な三角関係 ➊

2020年04月08日 | 1976 年 



高校球界最大のスター・原辰徳選手の名がドラフトでは除かれた。しかしその後、巨人軍が密かにアタックして大騒ぎ、東海大学松前総長の記者会見にまで及んだこのミステリーじみた騒動は果たして落着したのだろうか?

宣言し続けたプロ入り拒否
プロ入り拒否、東海大学進学を決意
4日後にドラフト会議を控えた11月15日、相模原市東林間の原家で家族会議が開かれた。これは翌16日に予定されていた父親・貢氏の東海大学野球部監督就任発表までに原選手の進路をハッキリさせる為の家族会議だった。実は東海大学の松前総長から「原選手の態度が曖昧ではプロ球団に迷惑をかけるので監督就任発表までに進路を決めておくように」と事前に言われていた。結論は大学進学だった。「現状では二軍で2~3年は鍛える必要がある。ならば私が自分で鍛えるのが賢明なのではないか(貢氏)」という理由の他に「希望する巨人以外の球団に指名されて拒否した場合、世間を騒がすだけだ」という配慮もあった。

東海大学進学を正式表明
11月16日、東京・霞が関ビルにある東海大学校友会本部で原貢氏の大学野球部監督就任が発表された。発表自体は早々に終了し、集まったマスコミの関心は原選手の動向に。記者からの質問に貢氏は「息子の辰徳、津末・村中の両君の進学も決まりました」「彼らのプロ入りは100%ありません。この場に相応しい話ではありませんが、プロ球団の方々に迷惑をかけてはいけないと思い発表させて頂きました」と語った。この発言を受けて原選手を上位指名にランク付していた巨人、中日、阪急、日ハム、ヤクルト、大洋などが東海大相模高に確認を取った。これで今回の原選手のプロ入り騒動は一件落着したと思われた。

ドラフト会議で原選手は指名されず
11月19日、東京・九段のホテルグランドパレスでドラフト会議が行われた。5巡目終了時点で原選手は指名されず、残すは6巡目のみ。「どこかの球団がダメ元で指名するかも。巨人が黙って見逃すはずはない」という予想は外れ原選手は指名されなかった。これにより原選手はドラフト外の自由獲得対象となった。ドラフト会議終了後、記者に囲まれた長嶋監督は原選手の話題になると「オーナーにお願いして原選手と交渉してもらう。あれだけの選手を放っておく手はないでしょう」と発言。大手町の球団事務所では「長嶋君がもう喋ってしまったのかね。獲得交渉に乗り出しますよ。自信は半々だが既に手は打ってあるんですよ(正力オーナー)」と。

正力オーナーの「手は打ってある」発言で原騒動は一気に火が点いた。密約説や大芝居説が流布しマスコミは大騒ぎに。これを受けて原親子が東海大相模高で会見し「4年後にお願いします。大学へ進学すると決めたのですから、例え巨人でも絶対に行きません」と密約説を否定した。19日午後8時過ぎ、巨人軍の中尾スカウトが電話で原家に挨拶をし、入団交渉をしたい旨を申し入れたが貢氏は断った。11月22日のスポーツ紙で前夜に長島監督から原家に親書が届けられたと報じられた。


巨人軍が大物X氏に仲介を依頼したという報道が
同じ日の別のスポーツ紙に巨人がアマチュア球界で影響力を持ち、東海大学・松前重義総長とも近い人物のX氏に仲介を依頼したと報じられた。先ずは松前氏と接触し交渉の突破口を開く戦術だ。取材に対してX氏は「2~3日後には原君の巨人入りが決まるだろう」と自信満々に語ったという。これら巨人サイドの動きに関して原家は終始一貫して「進学に決めました。プロへは行きません」と強調。11月23日、松前氏は関西講演からの帰路中に記者の質問に対して「原選手は東海大学進学が決まってる。誰に頼まれても巨人に入れることはしない。世間に公表した進路を今になって変えるなんて有りえない」と松前-正力会談を否定した。

松前総長が重ねて記者会見
11月24日、東京・霞が関ビル33階の東海大学校友会で松前総長が会見を開く。「東海大は高校と大学を一貫教育する為の学校で、原選手・津末選手・村中選手は学校推薦で進学が決まっていてプロ入り、巨人入りはありません」更に「もし仮に原選手がプロ入りしたら一体あの会見は何だったのか。前言を翻したら大変なことで大問題ですよ」と。そして今現在、巨人サイドからのアプローチはないと明言した。ここで記者から巨人から接触を求められたらどうするのか、と問われると「申し込みには礼儀として応じます。でも今、私が申し上げた内容を繰り返すだけです」と言い切った。

あくまでも原選手の巨人入りは有りえないと強調した。再度、記者が確認をすると「もし原選手を巨人入りさせたいなら私を殺さなければダメです。仮に天皇陛下が来られてもダメです(松前)」と。その夜の原家ではまだ記者が詰めかけていたが「松前総長もハッキリおっしゃっていたでしょう、私どもは最初から進学でプロ入りはしないと申し上げていました。これで今回の騒動から解放される事を望みます(原貢)」と安堵の表情。しかし巨人サイドは未だ諦めきれないようで、同日に東京・池袋の西武百貨店で開催されている『ジャイアンツ展』に出席した長嶋監督は「原君は僕の高校時代より優れた逸材です。まだ諦めませんよ」と語った。
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