巨人は勿体ないです。今のままでも優勝できます
聞き手…では阪神と並ぶ、もう一つの雄である巨人はいかがでしょう?OBとしても特別な意識があると思いますが
広 岡…野球界を良くも悪くも代表するのが巨人軍です。セ・リーグを盛り上げるには阪神だけでは難しい。ライバルである巨人が
頑張ってくれないと盛り上がりに欠けるのも事実です。他の球団じゃダメという事ではないですが、野球のスタイルの違いや
東京と大阪など対決の構図が分かりやすい。残念ながらパ・リーグにはこうしたライバル球団の構図がなかなか現れない。
仮に現れたとしても長続きしない。西武vs他の5球団じゃダメなんです。1対1の構図じゃないと
聞き手…その巨人も再建が叫ばれていますがどうでしょう?
広 岡…投手陣は定岡が抜けたけど他球団と遜色ない。野手陣は駒が揃っていて、現状の戦力でも充分に優勝争いを出来る。でも
実際は貯金が僅か「1」で優勝した阪神とは12ゲーム差の3位に終わった。チームとして結束力の欠如が原因ではないのかと。
大リーグなら監督が解任されてもおかしくない
聞き手…何故でしょうか?
広 岡…私も詳しくは見ていないので断定は出来ませんが、主力選手のプライドを大事にしていない印象があります。打撃陣では試合の
前半から自由に打たせても良い場面でもクリーンアップの選手に犠牲バントやヒットエンドランを強いる事が少なくなかった。選手に
してみると「あぁ俺は信用されてないのか」と感じてしまう。と同時に主軸としての責任感を放棄してしまう危険が生まれるんです。
打てなくても自分のせいではないと責任転嫁してしまう
聞き手…責任から逃げてしまうと
広 岡…人間は追いつめられると逃げたくなるんです。打てないと「これじゃいかん」と奮起するんだが、そこで「バントせい、右方向へ打て」
などと言われるとやる気が失せてしまう。打てないお前が悪い、と一喝してやればいいんですが王は選手に遠慮し過ぎですよ
聞き手…選手を甘やかしてしると?
広 岡…クロマティなんか大リーグの球団でもなかなか獲れないレベルの選手だが遊んどる。日本の野球を舐めるなと言ってやらんと。
外人選手はボスの言うことは結構気にしているんです。来季の契約内容を左右しますから。緩めたらそれなりの仕事しかしない
聞き手…投手陣はどうですか?
広 岡…頭数は揃っている。あとは使い方。130試合のうち、50試合くらいは負けていいのに全試合に勝とうとしている。巨人は全試合が
テレビ中継されますから捨てゲームと分かる試合をする訳にはいかないのも理解できますが、それでは投手はパンクします。
負けゲームに勝ちパターンの投手をつぎ込んだら、1シーズン持ちませんよ
聞き手…具体的には?
広 岡…先発が早い回に崩れて鹿取投手を起用する場面がありますが、鹿取は連投するとダメなんです。少し休ませるとカミソリのような
球を投げるけど使い続けると並みの投手になってしまう。この辺の使い分けじゃないでしょうか
聞き手…再建は可能だと
広 岡…優勝できる選手は揃っています。事実、セ・リーグのどの監督に聞いても巨人は怖いと言いますよ
長嶋茂雄。西武の監督には最もふさわしい男です
聞き手…巨人関連でもう一つ。いや、もう一人。広岡さんが西武の後任監督に長嶋さんを推薦したという話が伝えられていますが本当ですか?
広 岡…いいえ、そんな話はしていません。当時はそれどころではなかったですから(笑)。でも西武が長嶋を迎えるというのならダメだという
理由はありません。今の西武にはセ・リーグ球団に対抗するチーム作り、人気、それに相応しい人材を探す必要があります。有能で
野球に詳しい人材だけではダメでネームバリューは必要。なかなか長嶋みたいな人物はおりませんね
聞き手…迎える側の西武の態勢は?
広 岡…昨年の秋口からベテラン勢に見切りをつけて若手に切り替えました。まだまだ一軍半レベルだが若い人は何かをきっかけに大きく飛躍
する可能性を秘めていますから楽しみなチームだと言えます。ただ若手投手に怪我人が多いのが心配です。それもプロ入りする前から
故障をしていたケースが殆どで怪我が癖にならないか懸念しています
聞き手…それはそうと広岡さん自身の話ですが、巨人復帰という噂が流れていますが真相は?
広 岡…巨人軍に対して特別な感情を持っているのは事実ですが、体調面を考えると監督業は厳しいですね
聞き手…では球界から引退ですか?
広 岡…いえいえ(笑)。野球界の為にやれる事はまだまだ沢山あります
聞き手…具体的にはどのような事ですか?
広 岡…選手が引退後に指導者として野球界に恩返しするにあたって勉強する場がないのが現状です。その為に監督やコーチになっても
結果を出せず、優秀な人材であるかもしれないのに消えて行く。そうした事が少なくなるように教育の場を設けたい
聞き手…日本にはアメリカのような下部組織で指導者を育てる仕組みがありませんね
広 岡…私は巨人を辞めて4ヶ月間アメリカで色々と学びました。野球だけではなく、例えば契約に関しても知らない事ばかりでした。
アメリカは契約社会。契約書に記されている以上、やらなけばならない社会でやらなければペナルティを課せられる。日本は
どんぶり勘定で恩を売ったり、人情が優先したりする。それでは球団運営は上手くいかない。オベンチャラで働く時期がある
かもしれないが何年続くか分からない。一つ歯車が狂って感情的に揉めだすと、とたんに「契約だ、権利だ」と騒ぐ。義理人情や
浪花節も否定しないが、やるべきことの単純化や明文化も大切だと学びました。それは選手だけでなく監督やコーチも同様にね
聞き手…実際の野球面では?
広 岡…例えば投手起用についても最終的には権利と義務。先発・中継ぎ・抑えとそれぞれの連中が平等に機会を与えられるのが権利、
最大限に仕事をするのが選手の義務。「今日のお前は調子が良さそうだから投げろ」では不平等、昔の根性野球です
聞き手…ビジネスライクに?
広 岡…決めたローテーションは故障以外の理由では崩さない。例え調子が悪くても使う。その投手が中5日のコンディション作りに
失敗したら彼自身の責任で、それでチームが負けたら減俸の対象とすればいい。そして負けた最終的な責任は監督がとる
聞き手…なかなか手厳しいですね
広 岡…監督と選手が傷を舐め合っちゃいかんのです。そういう思いでこの4年間やってきました。これからはネット裏から野球を
観ることになりますが気持ちは同じです