Haa - tschi  本家 『週べ』 同様 毎週水曜日 更新

納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 365 前年覇者の失速

2015年03月11日 | 1983 年 



中日がドロ沼に嵌り込み、もがき苦しんでいる。昨年の覇者がどうしてこうも落ちぶれてしまったのか?首位争いどころか最下位脱出に一喜一憂する姿は痛々しい。一体、中日内部で何が起こっているのか?

『昨年の王者が再び借金9・・最下位大洋とゲーム差無しで並ぶ』 地元紙にこんな大見出しが載った5月27日、ナゴヤ球場のネット裏に記者連中のヒソヒソ話の輪が出来た。「いくら何でも去年の優勝監督がコレ(首を切る仕草)って事はないよな」「何をするか分からん所が中日だからな、気をつけないと」とは若手記者たち。それとは少し離れた場所にベテラン記者と球団フロントの輪も出来ていて、記者が「常識的には安泰ですよね?」と問いかけると「まぁね。でもチームは永代だけど監督は一代だから…」と意味深な答え。球団フロントも記者もそして当事者の監督や選手も連覇を念頭に今季をスタートしたのだが僅か開幕34試合でこのような事態に陥るとは夢にも思っていなかった。同じく連覇を目指す西武は快調に勝ち星を重ねている。両者の違いの原因は何か?

「昨年の契約更改の時点でウチと西武じゃ雲泥の差でしたから、今思えばあれが原因じゃないですかね。やる気が違い過ぎますもん」とある主力選手は漏らす。 「田淵 5千万円、山崎4千4百万円」…予想を上回る提示額に選手の方が戸惑う位だった西武の大盤振舞いに比べると中日の渋チンぶりが際立った。MVPの中尾は7百万円から2千3百万円、都と牛島は1千3百万円になるなど年俸が低かった選手はそれなりにアップした。しかし問題はダウンと現状維持の選手をかなり出したのが西武との違い。胴上げ投手の小松が百万円のダウン、苦しかった終盤に谷沢と共に牽引した大島も百万円のダウン。「やり方もマズかった。『個人的に成績を残してもチームが優勝しなければ…』と抑えられてきたのに、いざ優勝したら球団フロントの一人が『優勝と個人は別』と失言しちゃったのがねぇ」と球団関係者が語る。

選手が金の怨みなら首脳陣の不満は優勝しても何ら改善される事のない貧層な施設に象徴される球団や親会社の野球に対する誠意の無さだ。「とにかく驚いたのは近藤監督が中日新聞本社の役員会で話す内容は『二軍専用球場が欲しい、雨天用の室内練習場が欲しい』そればっかり言い続けている事でした(中日担当記者)」に代表されるように近藤監督をはじめ首脳陣の施設面に対する不満は大きい。二軍の選手たちは電電東海のグラウンドを借りて練習している有り様で「この機を逃したら球団改革は有り得ない」と近藤監督はマスコミに向けても発言を繰り返している。しかしこの言動が一部本社役員の不評を買い「最近の近藤監督は分をわきまえていない」と煙たがられていた。今季の中日は昨年来の課題を残したまま開幕を迎えた。解決されず燻ったままの諸問題はいつ爆発してもおかしくなく、今は不気味な静寂にあるに過ぎない。

実は鈴木球団代表は万が一に備えてある手を打っていた。それはオフの契約更改でコーチ陣全員の契約期間を単年契約に統一していたのだ。年末の仕事納めの会見で「近藤監督の契約は来季が最終年なのに来年以降も契約が残っているコーチが何人かいた。チームが好調なら問題も起きないだろうが、まぁいざという時の備えですよ」と発言。その場にいた報道陣も気に留めず記事にもならなかったが今となっては先見の明に長けていたと言わざるを得ない。もしも首脳陣が一蓮托生でなかったら近藤内閣は今ごろ空中分解していたかも知れない。ただチームが不振に陥ると必ず責任を負わされる選手が出てくる。今の所その哀れなスケープゴートは昨年のMVPに輝いた中尾である。4割を超す盗塁阻止率に打率.282・18本塁打と「強肩&強打の捕手」として優勝に貢献し、近藤監督が連覇のキーマンに真っ先に挙げたのも中尾だった。

元来の近藤監督は放任主義で3年目の中尾にもマイペースの調整を許した。ところがある関係者によれば中尾は放任を履き違えてしまった。「そもそもプロを2年しか経験していない選手に調整法なんか分かる筈がない。野球を舐めてしまったかもしれない」「オープン戦が始まっても相変わらずマイペース。寒いと怪我をするからと試合を欠場したあたりから周囲の見る目が変わってきた」 それでも活躍すれば問題なかったが開幕2試合目に右手の指を怪我したのがケチの付け始め。しばらくは怪我を押して試合に出続けたが負けが込んでくると金山に先発マスクを譲るようになった。皮肉な事に中尾が欠場したとたんにチームは勝ち始めた。そうなると中尾も面白くない。たまに代打で出ても凡打を繰り返すだけで打率は1割にも満たずようやく「1割の大台」に乗ったのが5月24日という始末。可愛さ余って憎さ百倍とでも言うのか近藤監督の愚痴の矛先は中尾に向くようになる。

しかし今の中日は監督がどう、中尾がどうといった次元の問題ではない。5月下旬の甲子園での阪神戦の試合前ミーティングの内容は耳を疑うものだった。「試合に全力を尽くそう」と当たり前の台詞に続いて近藤監督が選手に対して発した言葉は「とにかく全員がベンチに座って仲間を鼓舞しよう」だった。試合中にも拘わらずロッカールームで喫煙したり軽食を摂っている選手がいるという。ベンチにいる事を義務づけるとは、まさに前代未聞の指示だ。正体見たり…と言ったら酷だろうか?戦う集団として当たり前の事が出来ていなければ勝てる筈がない。「まだまだ諦めない」と近藤監督は言うが中日ナインに野球選手としての魂が戻って来るのは何時の事だろうか?
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